某月某日、明日からスキーに家族でスイスまで行く（車で）、というのに、ぼくを家に招いて食事を作ってくれたチャールズご夫妻なのだった。
翌日、朝の6時には出発するというのに、出発の前日の20時に、ぼくは呼ばれたのだった。で、結局、23時50分まで居座った、父ちゃんだった。（帰ろう帰ろうとしたのだけれど、チャールズと奥さんのミハーが離さないのだった、あはは）
しかし、急な夕食会になったので、彼はミシュランの星付きシェフだけれど、夕方までお店の会議があり、準備の時間がなかった、ということで、レストランの残っていた食材を多分持ってきて、二人で何か作ったのだが、ちょっと、いつになく、想像をはるかに超えた、めちゃくちゃであった。
というのも、彼はぼくのために、中華パン、「バオ」を作ったのだけれど、ミシュランの星付きシェフとは思えないくらい、歪なバオで、
「いや、ひどいのができた」
と苦笑している。
覗いた。
「醜すぎる」
すごくきれいなバオがあったので、これはきれいじゃん、と指さすと、「それは店で買ったやつで、足りないから、自分で作ってみた」
というのである。
御覧いただきたい、この差を。
でも、味は買ったものよりも、チャールズの醜いバオの方がおいしかった。
愛情は形ではないのだ。

※　既製品のバオ！！

※　チャールズが作ったバオ！

※　クトー（ナイフ）と呼ばれる貝。有明海にもありますね。

で、奥さんのミハーは、
「日本人のひとなりのためにおいなりさんを作っているのよ」
と言った。愛されている。
で、覗くと、ん？？？？
揚げを三角にカットし、そこに焼いたと思われる酢飯チャーハンみたいなものを詰めていた。後でわかるのだけれど、ポワローねぎをバターで炒めた酢飯のチャーハン？
「それ、何？」
「おいなりさん」
なるほど。
「チャールズ、これの上に、具をのせてね」
「がってんだ」
具？　
チャールズが、オマールを炒め、お店で使っている残ったキャビアも載せて、マスの卵なんかも、とにかく、あまりにゴージャスな稲荷寿司っぽい、かつて見たことのない代物がテーブルに乗ったのだった。
で、バオにはキムチとクトーと呼ばれる貝をバター炒めしたものを挟んで、食べることになった。何で、キムチ？　なんでクトー貝？　
これはもはや中華ではなく、韓国とフランスの融合であった。
稲荷ずしはもはや、どこにも存在しないヌーベルキュイジーヌなのだった。
でも、稲荷寿司やバオだと思わないと、おいしかった。
ぼくらは話が弾み、4時間近く、その謎の食べ物を頬張りながら、話し込んだ。
途中、子供たちが下りてきて、食事を覗いたら、
「ぼく、お腹すかない」
と少年の方が言い出した。彼はチーズばかり、食べていた。
壁に立てかけられたスキーが、フランスの家族の幸福を物語っていた。
三四郎は、チャールズの膝の上からいつまでも下りなかった。
愛を感じ、温かく、幸せなのに違いない。
23時50分、深夜になる前に、ぼくらはタクシーを呼んでおいとました。
ミハーとはビズをし、チャールズにはハグをして・・・。

愛が、最高においしかった、夜でありました。

※　見たことのないフランス人家庭で出されたおいなりさん。おどろく、ひとなりさん。

つづく。

今日も読んでくれてありがとうございます。
さて、これから、三四郎と散歩に出かけます。皆さん、良い一日を。
さて、今年の父ちゃんのスケジュールのお知らせです。
●小説「十年後の恋」集英社文庫版が１月１９日全国発売。
●小説「東京デシベル」がイタリア、Rizzoli社から刊行されました。
●２月２８日から、新宿伊勢丹のアートギャラリーで個展（詳しくまたご報告します）
●３月３日、両国国技館、ギタージャンボリー出演。（検索ください）
●３月６日、ツジビル・ライブ（SOLD OUT）
●４月１９日、ロンドン、ライブ。詳細はこちらから☟

https://www.eventbrite.co.uk/e/2gz-tsuji-and-hide-live-japanese-music-in-london-tickets-790578039197?aff=oddtdtcreator
●６月３０日、パリ・ライブ決定（詳細、待って）
●7月3日、リヨンでライブ！！！
以上です。