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滞仏日記「彼女はソフィー、ぼくはヒトナリ、文房具屋さんで出会いました」 Posted on 2024/01/31 辻 仁成 作家 パリ

某月某日、ノルマンディに戻りたいが、次の個展の絵を描き上げないとならず、今回はパリが舞台になるので、パリに残り、アトリエにこもっている、父ちゃんなのであった。☜すっかり画家気取りですが、ぜんぜん、なりきっているだけですので、ほっときましょー。あはは。
でも、新作がすでに、12点、描きあがっているのであーるぬーぼー。
でも、肩こりがすごくて、このままじゃ、突発性難聴の症状が出かねない。昼前、散歩を兼ねて近くにあるボンマルシェ・デパートへと、向かったのだった。
お世話になった仕事関係の知人(駐在員さん)が不意に日本に戻ることになり、明日、当事務所で事務所スタッフも参加して、その人の送別会を盛大にやることになったので、ぼくが料理担当に選ばれてしまった~。料理なら、まかしとけ・・・。
ということで、ボンマルシェに立ち寄ったが、そこの3階にある文房具屋には必ず立ち寄る、父ちゃんであった。
かわいいノートがあったので、眺めていると、
「あの」
と声がかかった。
振り返ると、40代くらいのマダムが笑顔で、ぼくを覗き込んでいる。
「それ、いいでしょ?」
え、ぼくは手に持っている空色のノートを見下ろした。
「ああ、素敵なノートですよね」
「わたしが、デザインしたんです」
「えええ、そうなんだ~」
二人で、ノートを覗き込んだ。(写真を撮り忘れたのだけれど・・・)

滞仏日記「彼女はソフィー、ぼくはヒトナリ、文房具屋さんで出会いました」



「ぼくはこれを買おうと思っていたんです」
「それは、ラッキー。わたし、これを売らないとならないの」
「一つ、質問なんですが、20ユーロと、27ユーロの二種類がありますが」
「素晴らしい質問です」
なんか、コメディ映画の出会いの場面のような感じなのだ。一生懸命売りたいマダムが、やや興奮気味に、説明をしている。どうやら、今日、ボンマルシェで初の販売らしい。
「あの、27ユーロの方には、箔押しで、お名前を入れさせていただきます」
「ああ、いいですね。じゃあ、27ユーロの方を買います」
ということで、マダムがさらに興奮をして、ぼくを箔押しのコーナーへと連れていき、そこで、名前を聞かれたのだった。
「つじひとなり」
とぼくはなのった。
つづりを教えて、と言われ、
「実は、作家なんです。新しい小説のデッサンにこれを使いたいなー、と思って」
と俳優さんのように、告げたら、マダムがさらに盛り上がり、
「えええ、小説家さんですか? 写真、撮ってもいいでしょうか?」
とカメラを向けられたので、いえ、それはダメ、ぼくはお忍びで、生きている身なので、とかっこつけた父ちゃんなのであった。あはは。☜しょってるやつ。コメディドラマですから・・・。
そこから、少し、歓談・・・。笑。ノートをデザインして、一生懸命生きているフランスのマダムさんでした。
彼女の名前は、ソフィー。
なぜか、知らないけれど、そこで仲良くなってしまった、男前な父ちゃんなのであった。
30分したら、箔押し入りのノートができるので戻ってきてください、と言われ、ぼくはいったん、食品館へと向かい、送別会のための食材を買い込んだ。
かくして、30分後、文房具屋に戻ってみると、なんと、箔押しの機械が壊れてしまい、今日はお渡しできないので、本当にごめんなさい、と、ひらに謝られてしまう。
くるしゅうない、お顔をあげてください、とコメディ映画は続くのだった。あはは。
いつ日本にご帰国ですか、と訊かれたので、本当はノルマンディ在住なんですが、この近くに事務所があり、しばらくのあいだそこにいますよ、と告げると、届けます、と言うではあーりませんか。届ける?
ということで、事務所の住所を教えて、連絡を待つことになったのだが、ふふふ、こういう展開、「十年後の恋」のような小説が生まれるかもしれないのだけれど、・・・そうはいかの塩辛、なのであーる。
ともかく、つづく、です。続編をお楽しみに!!!

滞仏日記「彼女はソフィー、ぼくはヒトナリ、文房具屋さんで出会いました」

※ ソフィーさん!!!



さて、ぼくはソフィーとの出会いを喜びながら、その同じ階にあるイタリアンに行き、トマトのショートパスタを食べてから、事務所に戻ることになった。
何もない日々の、ささやかな人間交流、たまにはこういう浮いた話もないとね。
自分がデザインしたノートを、たぶん、はじめて買ったのが、日本の作家だった、ということで、彼女にとっては、とってもいい日だったに違いない。☜と、しておきましょう!
ありがとう、ほんとうに、とお礼を言われて、ちょっと嬉しい、初老の紳士なのでした。
えへへ。

滞仏日記「彼女はソフィー、ぼくはヒトナリ、文房具屋さんで出会いました」



人生はつづく。

今日も読んでくれてありがとうございます。
1月も終わりですね。12か月しかないのに、もう2月なんですよね。気を引き締めて、創作に専念したいと思います。ユーチューブの創作風景の動画、まだ、御覧になっていない皆さん、ぜひ、ご覧ください。これはノルマンディのアトリエでの創作風景ですが、パリのアトリエも、似た感じです。でも、場所が違うので、当然のように出来上がりも違うんです。今は、パリの屋根をたくさん、描いていますよ。屋根と煙突好き。
動画はこちらから。

☟☟☟

さて、今年の父ちゃんのスケジュールのお知らせです。
●小説「十年後の恋」集英社文庫版が1月19日全国発売。
●小説「東京デシベル」がイタリア、Rizzoli社から刊行されました。
●2月28日から、新宿伊勢丹のアートギャラリーで個展(詳しくまたご報告します)
●3月3日、両国国技館、ギタージャンボリー出演。(検索ください)
●3月6日、ツジビル・ライブ(SOLD OUT)
●4月19日、ロンドン、ライブ。詳細はこちらから☟

https://www.eventbrite.co.uk/e/2gz-tsuji-and-hide-live-japanese-music-in-london-tickets-790578039197?aff=oddtdtcreator

●6月30日、パリ・ライブ決定(詳細、待って)
●7月3日、リヨンでライブ!!!
以上です。

滞仏日記「彼女はソフィー、ぼくはヒトナリ、文房具屋さんで出会いました」



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