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滞仏日記「大学に通う息子君に父ちゃんの愛父弁当をこしらえてあげたのだの巻」 Posted on 2024/02/13 辻 仁成 作家 パリ

某月某日、息子が遊びにやってきたので、夕食はイタリアンレストランに行ったのだが、寂しいのか、帰りたくなさそうだったので、
「明日の昼用にこれから、お弁当作ってやろうか」
と告げると、うつむいていた顔が明るくなって、
「うん」
と喜んだ息子くんであった。
息子の通う大学も日増しに難しくなっているようで、朝は、8時から暗くなるまで授業が続く。
で、学食は美味しくないので、我慢をしている、というから、せめて、実家に来た時くらい、なんか、こしらえてやるか、と思った父なのであった。
そういう口実があると、息子も、弁当ができるまで、家でごろごろできるしね。
一人暮らしにも慣れても、やっぱ、家族に飢えている息子君なのだった。
息子がいると、三四郎もうれしいみたいで、二人でじゃれ合い、楽しそうだ。
よし、じゃあ、何か作るぞ、と父ちゃんは冷蔵庫を開けて、食材をチェック。見つけたのは、冷凍庫に「塩漬けしてあるサーモン」「ちくわ」を発見。
冷蔵庫に「豆腐(フランス製の燻製豆腐)」「卵」「梅」「カツオデンブ」を発見、ま、よかでしょう。
ごはんを高速で炊き、味海苔があったような気がしたので、探して、お、あった、準備オッケー。これは海苔弁と鮭弁のミックスのようなものが作れますな~!笑。
サーモンを軽く解凍し、皮目を下に中火と弱火のあいだくらいの温度で、フライパンでじっくりと焼き始める。
息子と三四郎がやってきた。
「弁当の作り方、見ててもいい? いつも、悩むんだよね、パパがよく作ってくれていた、ああいう日本のお弁当作りたいから」
「いいよ。どうぞ」

滞仏日記「大学に通う息子君に父ちゃんの愛父弁当をこしらえてあげたのだの巻」

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滞仏日記「大学に通う息子君に父ちゃんの愛父弁当をこしらえてあげたのだの巻」



ということで、たいした料理ではないのだけれど、簡単なお弁当の作り方を指南したのだった。
まずは、一人前の卵焼きを作ろう。
つまり、卵一個で作るのに、一人用の卵焼きのフライパンこと「玉子焼き器」をもっとくと便利だよ。最大、卵二個まで入れて、作ることができる。
めんつゆの素とか砂糖とか醤油、塩胡椒、酒、とかで簡単な卵液を作り、それを少しずつ、ごま油がいいかな、で、玉子焼き器に投下していき、薄皮を作るように、半分(半面)ずつ、巻いていく。
こうすることで、オムレツでは味わうことができない、ミルフィユ層ができるんだ。
「そうそう、それをやりたかったの」
「うん」
焦がし過ぎないこと、でも、柔らかすぎても形にならないから、底に焦げ目がうっすらできたら、表面が柔らかいままでも、巻いてくといいよ。
「ふーん」
箸を使って、油を少し吸わせたクッキングペーパーを掴み、卵焼き器の油分の足りないところに、押し付けて、油膜を作ってやると、焦げ付かないおいしい卵焼きができる。
「ほー」
「ほら、できた。で、サーモンは皮目も食べられるくらい良く焼きにすると自然な熱で、身の方にも火が入っていくから、最後に両面を焼けば、もう完成。うまそうでしょ?
「おいしそう!」
今回のサーモンは、ジップロックにサーモンをいれ、塩と砂糖と水を入れ、冷蔵庫で一晩放置したもの。残りを冷凍保存しておくことができる。
塩分は十分うつるし、多少の甘味が、サーモンの臭みを除去してくれて、おいしいよ。
「へー」
「で、ごはんなんだけれど」
炊きあがった合図が響き渡った。一合だから、すぐに炊けるね。

滞仏日記「大学に通う息子君に父ちゃんの愛父弁当をこしらえてあげたのだの巻」

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滞仏日記「大学に通う息子君に父ちゃんの愛父弁当をこしらえてあげたのだの巻」



適当なお弁当箱の底に、(今日はチェーン食材店でサラダを買った時の容器を利用します)、うすくごはんを敷いて、そこに、カツオデンブを散らして、その上に、味海苔を置くんだ。で、同じくらいもう一度、薄くごはんを敷き詰めて、繰り返す。好みだけれど、海苔にちょっと醤油をつけておくのもいい。
ミルフィユ状にするのは、お好みで、2段でも、3段でも、4段でも、層が厚くなると、箸で割った時に、面白い効果が出る。一番上は海苔でもいいし、なくてもいい。
でも、今日は、日本で買ったカツオのふりかけがあるから、これにしよう。
で、焼きあがったサーモン、卵焼き、豆腐、梅、あ、ちくわはね、ちょっと表面をカリッと焼いて、中にハム&マヨネーズを挟んでおいた。キュウリ&マヨネーズでもいいよ。
なんでもいいんだよ。ソーセージでもいいし、でも、ふたを開けた時に、自分が幸せだな、と思えるようなものをきれいに並べて置くと、気分がアップするよ。
「なるほど」
「はい、完成!」
「ありがとう」
割りばしと一緒に袋にいれておいたのだが、まだ、帰りたくなさそうだったので、ぼくはそこから小1時間くらい、息子と三四郎と、世間話をしたのだった。あはは。
たわいもない話、でも、親子というのは、それが大事。たわいもないこと、とは、今が幸せの裏返しという根拠でもある。
今食べたら、すごくおいしいお弁当が、息子君の靴の横にデパートの袋に入って、ぽんと置かれているのが見えていた。おお、
こういう光景こそ、幸せなのだ、と思います。
「勉強、がんばれよ」
「うん、ありがとう」
そう言い残すと、息子は振り返らず、家を出ていったのであります。

滞仏日記「大学に通う息子君に父ちゃんの愛父弁当をこしらえてあげたのだの巻」

※ 同じ写真、角度違いなだけ、どっちから見ても、鮭海苔弁なのであった。あは。

滞仏日記「大学に通う息子君に父ちゃんの愛父弁当をこしらえてあげたのだの巻」



つづく。

今日も読んでくれてありがとうございます。
実は、彼は繊細なので、本当にこの時代に適合できるだろうか、と心配な側面もあるのですが、彼のたわいもない話を聞く限り、仲間たちに恵まれ、今は順調そうだから、一安心な父ちゃんなのでありました。時々、会って、昔みたいにお弁当を作ってもたせてやる、それが、ぼく自身においても幸せなのであります。いいよね。
はい、それでは、お知らせをまとめて!

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以上です。
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滞仏日記「大学に通う息子君に父ちゃんの愛父弁当をこしらえてあげたのだの巻」

自分流×帝京大学



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