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退屈日記「父ちゃんの個展をどの順序で回ればいいのか、知りたい方へ、完全攻略?ガイド!」 Posted on 2024/02/23 辻 仁成 作家 パリ

某月某日、伊勢丹での個展が近いが、今日はパリ事務所の小田光撮影部顧問が、笑、新作作品の撮影にやってきた。
年に、2,3回、新しい作品をすべて、撮影し保存してもらっている。その一部が、今回、画集となって、世に出る。
事務所の一つの壁がけっこう、大きくて、そこに十数本の釘が打たれており、絵を飾り、照明をセットして、撮影していく。
天井が5メートルほどあるので、ちょっとした美術館のような感じになる。
さて、もう、あと、5日で個展が始まる。
28日朝10時の開店から3月5日の18時まで。ただ、28日は混乱を避けるために初日のみ入場制限が行われるので、実質は29日の朝10時から、ということになる。ご注意されたし。
とはいえ、2月29日からは、いつでも自由に御覧いただけるので、伊勢丹に集まって頂きたい。
で、自由に御覧になればいいのだけれど、今回の個展に出展した作品には、うっすらと関連性があり、「千夜一夜物語」みたいなストーリーがぼくの頭の中にはあって、小説は存在していないけれど、小説を書くように、物語が見えてくるといいなァ、と考察し、絵の配置に関して、画廊さんサイドに、全作品の展示の仕方をお伝えしてある。あくまでもぼくが頭の中で考えた配置図であって、その通りに配置できない場合もあるの、ご了承願いたい。
ただ、今のところ、その通りに画廊さんが、展示し、28日の初日が開くという感じになる。

退屈日記「父ちゃんの個展をどの順序で回ればいいのか、知りたい方へ、完全攻略?ガイド!」

退屈日記「父ちゃんの個展をどの順序で回ればいいのか、知りたい方へ、完全攻略?ガイド!」



伊勢丹アートギャラリーは、パリにある画廊と同じくらい、いわゆる美術館や催し会場ではないので、割とこじんまりしている印象ではる。画廊だから、当然であろう。
ただ、入り口が広く、開放感はある。
まず、入る前に、入り口の左側にあるショーウインドーに、60号の大きな絵がどんと掲載されている。
この作品はirreversible「不可逆的な世界」シリーズの中のLegende blancheという作品で、辻版千夜一夜物語の導入部になっている。まずは、これをじっくりと見て頂き、中に入るのがいいかもしれない。
で、左側に小さな部屋があり、9点の小さな絵が飾られてある。
ここにあるのは、物語の導入、イントロ、プロローグを意味する作品群になる。
とくに、この十年、ノルマンディに惹かれて足繫く通うようになってから(最終的に暮らしているが)、彼らは、最初にこの世界をイメージした絵たちということになる。
ノルマンディの色と世界をモチーフに、幻想的な登場人物たちが、物語のプロローグを語る、小さな部屋。
La Croixという作品群はぼくがノルマンディを舞台に描こうと思った最初の一連のシリーズで、赤い十字がモノクロの作品の中で存在感を示す。
一つ一つの絵の解説は、観る側のものなので、深くは説明しないが、この風土の中で長い歴史を抱え、生きてきた人たちの、しかし、今は見えないものたちのまなざしと静寂が描かれている。
対面にはVisibleと題されたLa Croixと対をなす作品が並んでいる。
ここは、8号サイズの小さな絵がプリミティブな躍動を醸す。オペラの導入のような場面である。
その小さな部屋の奥に、ポスターにもなっているカラフルな絵、L’homme en Or(黄金の人)が展示されている、はず。こちらは、12号。

退屈日記「父ちゃんの個展をどの順序で回ればいいのか、知りたい方へ、完全攻略?ガイド!」



再び、入り口に戻ると正面に一番広いスペースがあり、ここに物語の心臓部が掲載されている。
真ん中に四角い柱があり、その柱を中心に大きな壁が、3面ある印象、(ちょっと構図が複雑なので、きれいに3面あるというより、沿って絵が並んでいる、という具合)
柱を右手に見ながら、左側の壁に並ぶ絵を、壁伝いにぐるっと柱を中心に一周するのが、いいように思う。
まず出迎えるのはirreversible「不可逆的な世界」と題された作品群の数枚、小さなものもあるが、50号が二枚ある。左の壁と、柱の作品が主に、これにあたる。
ぼくの個人的時間の概念について書かれたもので(画集に詳しく書かれています)、人類の流浪と時との闘いの物語で構成されている。
その先に、ショーウインドーに飾ってあった絵と同じシリーズ「Desert du temps時の砂漠、風紋」60号が3枚待ち構えている、はず。
このシリーズは大きな絵で、迫力もあるが、風紋、砂漠というキーワードの通り、ノルマンディ一帯に続く広大な砂浜から受けたイメージで、創作されている(しかし、それはぼくがこれまでに訪れたアフリカ、アイスランドなどの砂漠とも連動している)
そもそも、絵というのはニスを塗り、フィックスされて完成となるが、ぼくは、絵の完成を作者がわからないもの、つまり、砂漠の風紋、浜辺の砂が風や波で動いて、完成されているのにずっと動き続けるものを表現できないか、と思ったのだ。
そこで、特殊塗料を作った。
この絵は、なので、完成した直後から、風紋のように動き続けている。
目に見えない、しかし、絵が破壊されない非常に緩やかな速度で、静かにこの世界を動かし続けるのである。
世界とは実はそういうもので、ノルマンディのような歴史的な土地に住んだことで、気が付いた手法でもあった。
これもある種、時の物語の一環となっている。
その奥に同じ系統のシリーズ「Porte de temps immobile 動かぬ時の扉」が6枚鎮座している。
少し小さな絵だが、この千夜一夜物語の空想域が大きくカーブを切る場所かもれない。
戦争と平和の二項対立の世界を金の扉をモチーフに描いたもので、幻想的な作品群だ。
そして、部屋ではないが、その続きのスペースに、60号の白と黒の仏陀が出現する。
黒い仏の方は、仏がこの世界の上から歴史と時間と人間を見下ろす構図となっている。
白い仏は許しと流浪を描いている。カトリックの国で仏というのは、ぼくが日本人だから、感じる、個人的なイメージであろう。(ぼくには信仰はないが、祈りはある)
その周辺にはVision de Normandie「ノルマンディ情景」と題されたシリーズが脇を固めている。
ここに描かれているノルマンディは、ぼくのアパルトマンから見える家々を印象的な手法で描いたもので、個人的には、アブストラクトとは思っていない。
ただ、うつすような鏡のようなノルマンディは描きたくなく、ぼくが描写したものは、その後の世界、と思っていただけるといいかもしれない。
そして、最後の柱、入り口の裏手にあるさらに小さなスペースに、Reflet「反射する世界」が、この物語のアウトロというか、エピローグというか、締めくくっている。
ノルマンディは不思議な海で、浜辺が長いので、海の中に入り振り返ると、世界が反転しているように見える時があって、その反射するものこそ、この世界の出口じゃないか、と思わされたことがあった。
ここに飾られている絵が一番小さい。物語の余韻をここで感じてもらえれば幸いである。

【注意】しかし、イメージしたこれらの絵配置構成は、実際の画廊で展示をしてみて、多少の変更になる可能性もあります。ご注意ください。

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つづく。

今日も読んでくれてありがとうございます。
ま、作家はこう書きましたが、観る人は、自分の感じ方で眺めて頂いた方がいいでしょう。小説と絵画の違いが面白いと思いますので、ぜひ、楽しまれてください。まもなく、開催です。

いくつかのお知らせです。

●小説「十年後の恋」集英社文庫版、重版!
●小説「東京デシベル」がイタリア、Rizzoli社から刊行されました。
●3月3日、両国国技館、ギタージャンボリー出演。
●3月6日、ツジビル・ライブ(SOLD OUT)
●4月19日、ロンドン、ライブ。詳細はこちらから☟

https://www.eventbrite.co.uk/e/2gz-tsuji-and-hide-live-japanese-music-in-london-tickets-790578039197?aff=oddtdtcreator

●6月28日、ボルドー・ライブ、予定。(詳細待って)
●6月30日、パリ・ライブ決定(詳細、待って)
●7月3日、リヨンでライブ。(詳細、お待ちー)

https://www.instagram.com/japan.stories?igsh=MTA2dWFjODdsZnNrZA%3D%3D&utm_source=qr
新しいデザインストーリーズのインスタも再始動! スタッフみんなで、パリの今を配信中!
https://www.instagram.com/designstories_paris?igsh=cHlpdGFvdWkyYmdj&utm_source=qr
・それから、ぼくのなりすましが、ファイスブックで暗躍していて、問題が起きている、というので、皆さん、フェイスブック、ぼくのなりすましには、近づかないように、友だち申請とかしないでくださいね。要注意です。
以上です。

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