JINSEI STORIES

退屈日記「孤独を愛する俺は、今夜も妻に救われた。孤独な夜に一緒に飲める幸せ」 Posted on 2024/03/30 辻 仁成 作家 パリ

某月某日、昨日はとくにすることもなく、夕方から、ニッカウヰスキーを舐めながら、サーモンを塩麹で漬けていたので、それをオーブンでゆっくりと焼き、とろろと豆腐とミョウガがあったので、みそ汁を作り、残っていた茹で卵を持ってきていたので、タラモサラダ&とろろを載せ、アスパラを醤油で炒め、そして、鍋で米を炊いた。
つまり、スーパーニッカをぐびぐび飲みながら料理をしていたので、テーブルの上に料理が並んだ時には、かなり、酔っぱらっていた。
「でもさー、たまに酔ったっていいじゃねーか。いつも真面目に働いているんだからさー」
と独り言が飛び出した。
自分でも、危ない兆候だな、と思っているが、ここのところ忙しかったし、ボルドーでワインをたくさん飲んだのだけれど、仕事だったので、酩酊するわけにもいかなかったし、今は田舎の自宅で、誰憚ることなく、飲めるのだ。
やっぱり、度数の強いウヰスキーじゃないと、父ちゃんは、酔わないのであーる。あはは。
「なんだよ、俺だって生きてんだよ。たまには酔ったっていいじゃんか。ねー、さんちゃん」
と足元にいる三四郎にむけて、小言を言ったのだった。
「別にいいわよ。あなたはいつも一生懸命生きているんだから」
三四郎がしゃべったのか、と思って慌てて三四郎の顔を覗き込んだが、目を丸くして、ぼくをじっと見ているだけ。
「あれ、三四郎、今の、お前じゃないのか」
すると、声がした。
「さんちゃんじゃないわ、わたしよ、わたし」
顔を上げると、テーブルの反対側に、いつの間にか、幻の妻が座っていた。
おお、出た。

退屈日記「孤独を愛する俺は、今夜も妻に救われた。孤独な夜に一緒に飲める幸せ」

※ ゆで卵に、マヨネーズでもよかったのだけれど、タラモサラダがあったので、載せ、とろろ昆布を添えてみた。これが、美味かった、あはは。

退屈日記「孤独を愛する俺は、今夜も妻に救われた。孤独な夜に一緒に飲める幸せ」



「出た、じゃないわよ、あなたが、寂しそうだから、せっかく来てあげたのに、その言い方はないでしょ?」
酔っぱらうとどこからともなく出現する妻・・・、ひさしぶりの幻の妻であった。
でも、嬉しい。ちょっと待っていた感が、ある。
小太りで、目尻にシミがいくつかあって、いつになく、ほうれい線もくっきり、していた。お前、ちょっと老けたな、と出かかったが、言うと怒られそうだから、口をつぐんだ。あはは。
妻が優しく、微笑みかえしてくれる。おお、癒される~。
妻なんだもの、かっこつけないでもいいところが幸せだ。素の自分を愛してくれる存在がいるの、嬉しいじゃないか。おならしても、怒られない。くー、もっと呑んでやれ! ぐび、
「あなたって人は、酔っていても、ちゃんと料理ができるのね。アスパラはいいわね。元気になります。ミョウガなんて、どこで手に入れたの? お味噌汁にミョウガかァ、いいわね~、おいしそう」
いつの間にか、妻の前に氷の入ったグラスが置いてあった。
「お前も飲むか?」
「いいの? じゃあ、ちょっといただこうかな」
ぼくはスーパーニッカのボトルを掴んで、妻のグラスに注いだのだ。
「乾杯しようか」
「ええ、乾杯」
「何に、乾杯?」
「あなたの孤独に」
「いいね。ぼくの孤独に」
ぼくらはグラスをぶつけ合った。そして、ぼくはグラスのウヰスキーを呷って、飲み干してしまった。くー、キクっー。

退屈日記「孤独を愛する俺は、今夜も妻に救われた。孤独な夜に一緒に飲める幸せ」



「お前がいると孤独じゃない」
「まァ、嬉しいこと言ってくれるじゃない」
「なんだか、どこかのウヰスキーのCMみたいだな」
「孤独を癒す幻の妻、あなたも酔って再会しませんか? スーパーニッカ」
「いいねー、そのコピー」
「あなた、孤独が好きなのよね」
「そうだよ。だれのことも気にしないでいいからね。負け惜しみじゃないんだ」
「いいのよ、負けたって」
「そうか、負けてもいいんだ。君は優しいなァ」
「いいのよ、無理しないで」
「涙が出そうじゃないか」
「いいのよ、泣きなさい」
「う・・・」
ということで、号泣した昨夜の父ちゃんでありました。
でも、今朝は、すっきり。
いつも、ありがとう、幻の妻よ。

退屈日記「孤独を愛する俺は、今夜も妻に救われた。孤独な夜に一緒に飲める幸せ」

退屈日記「孤独を愛する俺は、今夜も妻に救われた。孤独な夜に一緒に飲める幸せ」



退屈日記「孤独を愛する俺は、今夜も妻に救われた。孤独な夜に一緒に飲める幸せ」

それでも人生はつづく。

今日も読んでくれてありがとうございます。
ということで、素晴らしい目覚めで土曜日がスタートしました。今日はこれから、三四郎と浜辺を10キロほど歩いて、隣の村まで散歩にいきますね。心の洗濯してきます。皆さんも、楽しい、土曜日をお過ごしくださいませ。

さて、そんな熱血ワイン父ちゃんからのおしらせですが、
フランスツアーが6月に行われます。パリは、ベルビルにある老舗の劇場「Le Zebre」にて行われます。チケットが発売になりました。在仏、在欧の皆さん、お時間があれば、ぜひに。一階はオールスタンディングになりますので、座りたい皆さんは、二階席へ、どうぞ!!!
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●6月30日、パリ、Le Zebre チケットはこちらから、どうぞ!
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https://billetterie.seetickets.fr/tsuji-in-paris-concert-le-zebre-30-juin-2024-css5-envolproduction-pg101-ri10301135.html

そして、7月3日、リヨン、La Marquise
船の中でのコンサートになります!!! 素敵。
チケットはこちらから、どうぞ!
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https://billetterie.seetickets.fr/tsuji-in-lyon-concert-la-marquise-peniche-03-juillet-2024-css5-envolproduction-pg101-ri10301835.html

●7月20日から7月28日まで青山・新生堂画廊にて、個展!
●7月後半から8月前半にかけて、日本ツアー、まもなく発表!
●9月後半、コルシカ、アジャクシオ、ライブ。(詳細、待って)
●4月19日、ロンドン、ライブ。詳細はこちらから☟

https://www.eventbrite.co.uk/e/2gz-tsuji-and-hide-live-japanese-music-in-london-tickets-790578039197?aff=oddtdtcreator

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