JINSEI STORIES

滞仏日記「このままくたばってたまるか、見てろよ、と父ちゃんは日記に記した」 Posted on 2024/04/04 辻 仁成 作家 パリ

某月某日、外反母趾(がいはんぼし)の専門医を元医師のマークさんに紹介してもらった。来週の木曜日の昼、予約をいれることができた。
ちょっと怖いけれど、手術しないで、現状維持できるならば、ライブに支障がないのであれば、もう、それほど長い人生でもないので、保存療法で構わない。
とにかく、病院に、行くことにした。
なんでも、強い意志を持って、挑めば、道は必ず開けるというのがぼくの若い頃の信条であった。
ECHOES時代、作った曲の歌詞に「有言実行、それが俺のモットー」というのがあった。あはは。かなり、ダサい。☜知ってます。
あまりにダサいフレーズなので、もう、歌うことはないけれど、25歳くらいの青年時代の向こう見ずな自分は、このフレーズに何度か救われたことがあった。
不言実行だとかっこよすぎるので、やるぞ、と言いふらして、実現させる、という、失敗したら恥をかく、退路を断って前進しようという、そういう曲であった。
こんなダサい曲、歌っていたのね、と苦笑が起きるけれど、今の、老後とか、健康とか、孤独とかに苛まれてやや膠着状態な父ちゃんにとっては、ちょうどいいのかもしれない。
気分をかえて、前向きに頑張らないと、本当に、ダメになってしまう。
そこで、意を決して、パリに戻ることにした。
何か、新しい挑戦をスタートさせなきゃ、と思った。
田舎にこもって、夜な夜な不安にさいなまれて、悪夢で目覚めるよりも、思い切って、跳ね起きて、新しい自分を探す方がよっぽど、父ちゃんらしい、と思ったのであーる。
辻節をさく裂させて、前人未到を歩く輝ける年寄りになってやろうじゃねーか、と一念発起したので、あったーまん。
よし、何だか知らないけれど、やる気が出てきたぞ。

滞仏日記「このままくたばってたまるか、見てろよ、と父ちゃんは日記に記した」



そこで、まずは、パリのアトリエの掃除をした。
夏の新生堂個展用の作品の仕上げのために、散らかり放題になっていたアトリエ。
窓をあけ、掃除機をかけ、空気をいれかえ、油絵具が付着したキッチンペーパーを大量に捨てた。
そして、買ってあった60号(130センチ×97センチ)のカンバスをイーゼルに載せてみた。
これだけでも、前進している気分がした。
小さな椅子に腰かけ、白いカンバスを見つめた。
来年の伊勢丹の大きな個展を断ったので、その時点で、ぼくは退路を断っていた。
フランスに住んでいるぼくが、日本で個展をしてもいいのだけれど、その前に、フランスでやるべきであろう。
そうだ、まず、欧州でやってみたい、と思った。
そこで、ぼくは60号の真新しいカンバスにむかって、次の個展は、パリでやる、と有言実行を約束したのだった。あはは。
一度、決意したら、逃げるわけにはいかないので、こうして、しっかりと、日記に記しておく。皆さん、覚えておいてくださいね。
ぼくの次の目標は、パリの画廊の壁に、この60号の絵を展示することになった。
絵の構想はすでに持っていた。
ぼくは、かつて、集英社から「日付変更線」という上下巻の小説を上梓したことがあった。
その中に、若い絵描きが登場する。
第二次世界大戦下、日系兵となりヨーロッパ戦線へと従軍する彼が主人公の一人だが、彼が描いた巨大な四季の絵があるのだ。
それは、10メートル×5メートルほどの巨大な絵で、つまり、ぼくはこの4つの絵をいつか描き上げたいがために、今、筆を動かしているということもできた。
壮大な計画ではあるが、物語は、すでに出来ている。
あとは、そこへ向かう気力(と、体力)だけだった。
気力はどこまで振り絞ることができるだろう。
熱血があれば、必ずやり遂げられる。不可能などはない。

滞仏日記「このままくたばってたまるか、見てろよ、と父ちゃんは日記に記した」



パリに住む日本人のもうぜんぜん若くないぼくが、想像力のすべてを振り絞って、描き上げてみたい作品が、すでに、頭の中に存在しているのだから、それでいい。
パリでの個展など、まだ何ひとつ、決まってないが、決まってから発表するのではなく、この日記に、今、この瞬間、ぼくは刻んでおくことで、やる気と引き換えにしたい。
ぼくは必ず、パリで個展をやり、自分の世界をフランス人の芸術愛好家たちに届けてみせる。
パリでぼくの作品のファンができたら、再び、日本でも個展をやらせてもらいたい。
まずは、パリ在住なのだから、ここ、フランスでやるのが筋であろう。伊勢丹さん、いつか、また、懲りずに、お願いいたします。
新しいカンバスの白さが、まばゆかった。

滞仏日記「このままくたばってたまるか、見てろよ、と父ちゃんは日記に記した」

滞仏日記「このままくたばってたまるか、見てろよ、と父ちゃんは日記に記した」



つづく。

今日も読んでくれてありがとうございます。
ということで、パリに戻り、カフェの隅っこの席に陣取り、人々を眺めながら、創作へのあくなきエネルギーを燃やしているところです。昨日は、寒い冬の海の悲痛を眺めていましたが、パリはぼくに勇気を与えてくれました。ここから、復活してみせます。皆さん、ご一緒に、熱血~!

さて、外反母趾に苦戦する父ちゃんからのおしらせですが、
夏の日本公演、会場、日程が発表されました。
・東京3DAYS公演
7/30(火)ヒューリックホール東京
7/31(水)ヒューリックホール東京
8/5(月)ヒューリックホール東京
open18:30/start19:00
・大阪公演、ワールドツアー千秋楽!
8/7(水)フェスティバルホール大阪
open18:00/start19:00
全公演:前売りチケット9,900円(消費税込み)指定席

Design Stories先行
受付期間:4/6(土)10:00~4/19(金)23:59・抽選

https://w.pia.jp/s/jinsei24ds/
※デザインストーリーズ先行発売をしますので、もうしばらく、お待ちください。

さらに、、、、
フランスツアーが6月に行われます。
パリは、ベルビルにある老舗の劇場「Le Zebre」にて行われます。チケットが発売になりました。在仏、在欧の皆さん、お時間があれば、ぜひに。
☟☟☟☟☟
●6月30日、パリ、Le Zebre チケットはこちらから、どうぞ!
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https://billetterie.seetickets.fr/tsuji-in-paris-concert-le-zebre-30-juin-2024-css5-envolproduction-pg101-ri10301135.html

そして、7月3日、リヨン、La Marquise
なぜか、パリの会場よりも、売れています。売り切れる前に、お早目に!笑。
チケットはこちらから、どうぞ!
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https://billetterie.seetickets.fr/tsuji-in-lyon-concert-la-marquise-peniche-03-juillet-2024-css5-envolproduction-pg101-ri10301835.html

●7月20日から7月28日まで青山・新生堂画廊にて、個展!
●7月後半から8月前半にかけて、日本ツアー、まもなく発表!
●9月後半、コルシカ、アジャクシオ、ライブ。(詳細、待って)
●4月19日、ロンドン、ライブ。詳細はこちらから☟

https://www.eventbrite.co.uk/e/2gz-tsuji-and-hide-live-japanese-music-in-london-tickets-790578039197?aff=oddtdtcreator

滞仏日記「このままくたばってたまるか、見てろよ、と父ちゃんは日記に記した」



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