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滞仏日記「文章をもっと楽しく上手に書きたいあなたに、父ちゃんが今、言えること」 Posted on 2024/05/09 辻 仁成 作家 パリ

ぼくは「ものかき」なので、日々、エッセイや小説を書いている。
書くことはもはや、日々の食事と同じくらい、ルーティーンの仕事となっている。
小説も書くが、ぼくの場合、小説は依頼では書かなくなった。
自分のペースで書きたいので、締め切りを設けるような仕事は受けず、「これを書きたい」という小説の構想が浮かんだら、自分のペースで書き続け、形になってから信頼できる編集者にまず読んでもらい、出版するかどうか、話し合う。
絵と一緒で、編集者や出版社にも好みがあるので、どこがそれを拾って世にですか、については、わからない。
でも、今のところ、いつも、その作品にふさわしい出版社が手を挙げてくださっている。このように、小説に関しては、特にこの20年、マイペースで仕事をしてきた。
しかし、エッセイには締め切りがある。飛び込みのエッセイと、若干の連載エッセイがあり、自分のペースやスケジュールと相談しながら、引き受けている。

滞仏日記「文章をもっと楽しく上手に書きたいあなたに、父ちゃんが今、言えること」



エッセイはだいたい、広告がらみのものが多く、「こういうエッセイを書いてほしい」と、と最初に打診がある。
商品直接の宣伝をするようなものは、もちろん、ぼくはお受けしない。
ぼくは、時計のエッセイの依頼であれば、たとえば、時間について、たとえば、人の歴史について、書いたりしている。
ぼくに依頼をされる企業とか編集者さんは、だいたい、「自由に書いてください」とおっしゃってくださる。
「商品名などは入れる必要はありません」
たとえば、夏服のエッセイであれば、海辺でのひと夏の経験を書いたりする。
でも、要素の中に、さわやかな風がふいて、ワンピースがその風にそよぐ美しい描写だけは、サービスとして、笑、織り込んでおく。
そうすると、編集部の皆さんは、喜んでくださる。その方々のセンスをくすぐる、作家の憎い技だと言える。あはは。
そもそも、宣伝というが、露骨な宣伝では、人の心というものは動かない。
いかにも宣伝、では、商品が台無しになる。ぼくは読者の方々を初夏の浜辺にいざない、そこで主人公とおぼしき人物の着ているものが、夏を感じさせる浜辺でどのように翻るのか、を精緻に描いてみせるだけだ。
エッセイそのものは夏のバカンスの話だったりするのだが、読んでいる人には、そのワンピースが気になってしょうがない、という手法。
こういうものは、作家の技術であり、数十年をかけて、ぼくなりに掴んできたもの。
もう、何年か前のことだ、新聞で、ロイヤルコペンハーゲンのお皿について連作のエッセイを書かせて頂いたたことがあった。

滞仏日記「文章をもっと楽しく上手に書きたいあなたに、父ちゃんが今、言えること」



代々受け継がれてきたロイヤルコペンハーゲンだと思われる模様のお皿について、そこに登場する家族たちの悲喜こもごもを通して、その伝統的なお皿が愛され、受け継がれ、それがどのように家族の人生とかかわってきたのかを書かせてもらい、小説との中間のようなもので、一部が訳され、本国の社長さんが読んでとっても気に入ってくださった、とのことであった。作家冥利に尽きる。
これはその年、その新聞社内の広告賞をとったと聞いた。
編集者さんと企業の人ががつがつしていなかったことも幸いした。
作家としては、自分らしい仕事ができた。商品を直接登場させて、宣伝をしてほしい、と依頼されることは、実は、ほぼない。
ぼくが変わり者だから、そういうのは引き受けないとわかっていらっしゃる。
でも、そこはプロなので、宣伝ではないからこそ、読者がさすが、と思ってもらえる文章に仕上げ、最終的に商品のイメージアップにさりげなく貢献できる仕事をさせてもらっている。
また、こういう仕事も毎回は受けない。何事もタイミングなのである。
さて、今年もエッセイ教室が始まるのだけれど、中には、ブロガーを生業にされている方なども多いと聞いた。エッセイストを目指している方もいる、らしい。ただ、文章を書くのが好きな方がほとんどのようだけれど・・・。
どのような書き手であれ、大事なことは、その限られた文字量の中で、どこまで読者の好奇心をくすぐる、控え目でありながらも美しい文章を提示できるか、ということであろう。
今年のエッセイ教室はとくに、プロとしてのぼくが掴んできたこういう経験の中から、ひとひねりすることで文章が何倍にも魅力的になるような方法について、一緒に勉強していけたらいいな、と思っている。
上手な絵は学校で学べば誰でも描けるようになるが、いい絵は、そうはいかない。文章も実は一緒なのである。

滞仏日記「文章をもっと楽しく上手に書きたいあなたに、父ちゃんが今、言えること」



つづく。

今日も読んでくれてありがとうございます。
ということで、そのエッセイ教室ですが、5月26日に開催いたします。課題もあわせて募集しています。とくに、課題の提出は無理にはおすすめしません。聞いているだけで、十分、勉強になる講義ですので、気ままにどうぞ。なにせ、タイトルが、「気まぐれ文章教室」ですからね。笑。
そんなエッセイを書きたい皆さんへの、熱血父ちゃん先生の勉強会になります。
講義を受けたい皆さん、下の地球カレッジのバナーをクリックください!(今までと少し登録方法が変わっております)
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“地球カレッジ”

毎月、5のつく日に、5日、15日、25日に、楽しく語るラジオ・ツジビル、やってます。楽しいラジオです。
お申込みなど、問い合わせなど、こちらのバナーをクリックしてみてください。
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TSUJI VILLE

滞仏日記「文章をもっと楽しく上手に書きたいあなたに、父ちゃんが今、言えること」

そして、フランスツアーが6月に行われます。
パリは、ベルビルにある老舗の劇場「Le Zebre」にて行われます。チケットが発売になりました。在仏、在欧の皆さん、お時間があれば、ぜひに。
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●6月30日、パリ、Le Zebre チケットはこちらから、どうぞ!
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https://billetterie.seetickets.fr/tsuji-in-paris-concert-le-zebre-30-juin-2024-css5-envolproduction-pg101-ri10301135.html

そして、7月3日、リヨン、La Marquise
なぜか、パリの会場よりも、売れています。売り切れる前に、お早目に!笑。
チケットはこちらから、どうぞ!
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https://billetterie.seetickets.fr/tsuji-in-lyon-concert-la-marquise-peniche-03-juillet-2024-css5-envolproduction-pg101-ri10301835.html

●7月13日ごろ、帝京大学出版会から、父ちゃんのアートブック「パリ情景、動かぬ時の扉」が出版されます。全176ページの画集&小説集です!!!
●7月20日から7月28日まで青山・新生堂画廊にて、個展!
●9月後半、コルシカ、アジャクシオ、ライブ。(ライブは、だいたい、9月25,26日のどちらかになります。作家としての登壇も予定しています)

自分流×帝京大学