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滞仏日記「息子が作ったチョコレートタルトの秘密」 Posted on 2020/04/17 辻 仁成 作家 パリ

某月某日、薬局に行ったら、これまでどこにも売ってなかったサージカル手袋や各種消毒液がどかっと山積みになっていた。薬局の人曰くマスクは週明けに大量入荷するという。マクロン政権はここのところ、このマスク不足でかなり批判を集めている。でも、ついに、マスクが出回るのだ。ちょっと安心をした。とりあえず、今日は消毒ジェルや手袋を、必要な分だけ購入しておいた。

滞仏日記「息子が作ったチョコレートタルトの秘密」



先週、友人のそうちゃんから、マスクとか必要ないか、と連絡があり、あれば助かるなぁ、と思わず頼んでしまっていたので、彼には大変な時にお手数かけてしまうことになった。でも、困っていたので、その申し出は本当に嬉しかった。ぼくは前回日本からパリに戻る時、マスクをタイタンの社員さんたちに置いてきてしまった。なぜか、タイタン出産ラッシュで、若手マネージャーさんたちがみんなパパになっており、二月頭はまだ日本の方が大変だったからね…。なので、実はもう手元のマスクがなくなりかけていたので、助かった。

マスクと言えば、パリ市長が昨日、全パリ市民に一枚ずつマスクを配ると宣言していた。アベノマスクのような手洗いできるものらしい。どういうものが届くのかちょっと楽しみだけど、身分証明書を持って薬局で受け取ることになるようだ。

サージカル手袋は貴重品だったので、本当は外出する時に毎回取り換えたかったけど、超貴重品になっていたので、3回くらい使ってから交換していた。外から戻ってきたら、手袋状態で一度手を洗い、それを脱いで干して、さらに生の手を洗う、という面倒くさい工程だった。これからは外のゴミ箱に捨てて、家に入れるから安心。100枚入りで1500円くらいかな。50回の外出分があるから、暫くは買い物も安心である。

息子君、すっかり料理を作ることにはまってしまって、昨日はついにチョコレートタルトまで作ってしまった。形はめっちゃ悪かったけど、味は生クリーム感が半端なくてすごく美味しかった。思わず、へー、と驚いた、親ばかである。(笑)。この一週間で彼が作ったのは、インド料理、アラブ料理、東南アジア料理、など、まるで国際シェフのようだが、あえて一癖あるものを選ぶところが性格を物語っている。子供たちと一緒に料理をすると、出来たものは胃袋を喜ばせてくれるし、家族のアトラクションとしてはうってつけだし、片付けまでやることを覚えてもらえれば主夫(主婦)も助かるし、もう外出制限下での娯楽はこれしかない、と思ってしまうほど。YouTubeにはごまんと素晴らしい先生たちがいるので、そういう動画を家族で探して、一緒に作る、で、家族が幸せ、という構図がなかなか素敵だな、と思う今日この頃だ。

滞仏日記「息子が作ったチョコレートタルトの秘密」



ところで、今日のランチは息子のリクエストで鯖の塩焼きに決まった。この時期、マルシェが閉鎖されているので、新鮮な魚が手に入らない。フランスのスーパーでたまに買える鯖の燻製があったことを思い出し購入。フランス人はそのままバケットに挟んで食べるようだ。ぼくはフライパンで蒸し焼きにした。日本のスーパーで売ってる鰻も、ちょっと日本茶を入れて蒸し焼きにするとふかふかになる裏ワザ、知ってますか? これでやってみたら、ふかふかぁ、となった。茄子の揚げびたし、わかめの酢の物、厚揚げなどをフランス食材を工夫して作ってみた。無いものは工夫すればいい。レシピに縛られないで自由に作って食べる方が楽しい。子供の斬新な発想を取り入れると思わぬ新世界が開ける。もちろん、失敗もあるけどね、笑。食べることが家族のメインイベントになり、息子が料理を好きになり、その流れで片づけもやってくれるようになり、なんとか辻家は頑張ることが出来ている。食後は、昨日の残りのチョコレートタルトを頂くことにする。贅沢などしなくとも、十分、豊かな暮らしは出来るものである。さ、お昼だよ。アッターブル!

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