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退屈日記「フランスは穏やかで、暴動は起きてませんのご安心ください」 Posted on 2020/04/27 辻 仁成 作家 パリ

某月某日、昨日寝る前にいろいろな人から「フランス暴動心配です」とラインとかメール頂いて驚いたので、調べたらどこかのテレビ局のニュースで「イタリアやブラジル、フランスでロックダウンに不満を持つ人たちが火炎瓶などを投げた」という情報が流れているみたいで、各地で長いロックダウンに不満を持っている勢力が暴れているみたいなものであった。もちろん、そういう小さな事件が5日ほど前にパリ郊外ヴィルヌーブ・ラ・ガレンヌであったけど、世界的に暴動が起きていてロックダウンに不満を持つ勢力が声を上げているというものじゃない。こういうのはしょっちゅうあっちこっちで、いつだって起こってるし。少なくともフランス人は現状国内調査会社が出した数字で97%の国民が政府の政策を守っている(まあ、支持している)状態で、去年吹き荒れた黄色いベスト運動のようなことはどこにも起きてない。郊外であった事件は警察がオートバイの地元若者に向けてドアを思いっきり開けて横転させ大けがをさせたことに端を発する事件で、若者たちが警察に花火(結構、綺麗な可愛い花火だった)を打ち込んだりしたため、たしかに催涙ガスなどでこれに抗議する若者を抑え込んだかもしれないけれど、これはロックダウンに不満があるのじゃなく、警察の行動は不当だと抗議する地元の若い子たちと警察との衝突だった。しかも、当人も仲間たちに「みんなもう家に帰ろう。あとは裁判に任せて」と呼び掛けているのだ。この子もかなりの逮捕歴のある子だけど、呼びかけている姿からは根は悪くない子だな、と思った。この辺、フランスが抱える移民問題にも関係してくるので別の機会にページを割くことにする。説明が難しいんだ。ただ、日常茶飯事の事件だし、ロイターの記事が元ネタだと思うが、これとブラジルのなんらかの事件と結び付けて、ロックダウンの危機みたいな報道であるならば、ちょっと違うのじゃないか、と現地在住者としては首を傾げる。



むしろ、緊急事態宣言下のゴールデンウイークに、人々が沖縄に6万人も押しかけることの方が心配になる。こういうの、もっとニュースにしてほしい。日本でもっと国民が知らないとならない問題が山積みな現在、なぜかどこのニュースも世界は今こんなで大変みたいやねって話しばかりなのが謎だ。まずは緊急事態宣言下の日本で報道しないとならない問題にメディアの皆さんはメスをいれてほしいなあ、と思う。そもそも暴動って煽って何をメッセージしたいのかがよくわからない。エリゼ宮も燃えてないし、シャンゼリゼも人がいなくて晴れやかだし、車が走ってないので大気汚染は消えたし、おじいちゃんとおばあちゃんの愛は永遠だし、何も問題はない。その刺激的で過剰な報道のせいで寝かけていたのに、夜中に多くの日本の皆さんから、心配してます、と言われて、こっちもロックダウン中なので気が張っているのに、え、どこ? どこで暴動? と結局起きて血眼になって情報を探さないとならなかった。ロックダウンのシステムはダメなんだ、とおっしゃりたいたいなら、昨日のフランスの死者数は200人台まで減った(最大千人ほど亡くなっていた時からすると大幅減である)し、効果は確かに出つつある。「PCR検査をやらないと結局感染者を追えないので収束は難しい」という欧州の学者たちの見解とかがこちらで今凄くニュースになっていて、なんでそういうの裏付けをとって報道するなり反論するなりしないのであろう、と単純に思う。



今回のパンデミックの中で、どこを信じて報道を見たらいいのか、ということなどいろいろと勉強になった。右寄りの新聞、左寄りの新聞を両方ちゃんと目を通して、ぼくなりに、バランスを持って世の中の動きを見極めるようにもしている。どちらにもいい面があり、どちらにも過剰な面がある。現地に行ってみると、穏やかだったりするので、ほんとう、難しいね。出来るだけ、ぼくらも、その土地で生きる人の声を、こちらでも精査してから、配信するように気を付けたい。プロの方々の報道姿勢はもっと慎重であってほしい。こういう時だからこそ。

それにしても、このワンちゃん、可愛かった。

退屈日記「フランスは穏やかで、暴動は起きてませんのご安心ください」

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