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滞仏日記「世界のリーダーたちに読ませたい絵本、ナンバーワン」 Posted on 2020/05/08 辻 仁成 作家 パリ

某月某日、今日、息子がまた昼食の時間に、興味深いことを言いだした。
「みんな、どこの国のリーダーたちも結局、こういうパンデミックを経験したことがないわけででしょ? だからあんなに慌てて、準備不足だし、こうなっちゃうんだ」
と言った。ちなみに、今日は煮込みハンバーグ、茹で白アスパラ、豆ごはん、茹でブロッコリーであった。
「まずみんな目先のお金に走るでしょ。お金、お金、お金。たとえば武漢でコロナが大爆発しているのに、どこの国も中国の観光客を招いて、結局、感染拡大しちゃった。マクロン政権だって、結局、最初の頃に、謝罪したよね、こんなになるとは思わなかったって。でも、ドイツは違った。メルケル政権はフランスの五倍もの人工呼吸器を備えたベッドをあらかじめ用意してたし、怠りがなかった。でしょ?」
「まあ、そうやね」
うちの16歳は、こういう話しをしはじめると、とまらなくなるタイプだ。普段、話しかけても返事さえしてくれないのに、本当は言いたいことをたくさん持っている。真面目すぎるんだけど、ま、いいだろう。
「今回の、コロナ対策を比較すると、お金に走っている国は結局、国民が犠牲になっていく。アメリカだね、まず第一に。はっきり言うけど、トランプさんはダメだよ」
ありゃりゃ、手厳しい。
「こんなに感染拡大をしているのに、経済の門を開いて、ちょっと普通じゃない。科学を知らな過ぎる。犠牲になる国民が可哀そうだ。6月半ばには恐ろしいことが起こるよ」

滞仏日記「世界のリーダーたちに読ませたい絵本、ナンバーワン」



「パパ、覚えている? 世界中の子供たちが去年、地球温暖化の大規模なデモをやったでしょ。グレタ・トゥーンベリがみんなを引っ張ってやったあのデモ。トランプさんがバカにしたけど、大人がお金に走るから子供が警告をしてあげたのに、大の大人がよってたかってバカにしてたよね? 昨日のCNNのニュース見た? このまま行くと50年後には暑すぎて30億人が今住んでいる場所で暮らせなくなるんだよ。30年後の夏の温度は47度を超えるんだよ。このまま何もしないと、2050年には日本の名古屋と大阪が水没するんだ。でも、世界のリーダーは今、お金儲けにしか興味がない、耳を傾けない。これとコロナの問題と何が違うの? コロナの問題だって、予測は出来た。ビル・ゲイツは何年も前にすでに予測している。ぼくが言いたいのはね、世界のリーダーたちは三匹の子豚って絵本を読んだ方がいい」



「3匹の子豚が、それぞれ、藁と木と煉瓦の家を建てるんだ。オオカミがやって来て、楽して建てた藁の家を吹き飛ばして、木の家も吹き飛ばすんだけど、危機に備えて頑張って作った煉瓦の家は吹き飛ばせなかったってお話し、いい話しだよね?」
「ああ、名作だよ。パパも大好きだった。フランス版はトワ・プティ・コションだね」
「ドイツは煉瓦の家なんだよ。台湾も煉瓦の家だ。コロナのパンデミックの気配が見える前から備えている国は生き残れるんだ。台湾みたいに、すぐに行動をおこしていれば回避できたんだ。フランスは木の家だった。だからちょっと苦戦している。あんなに犠牲者が出た。こんなことになるとは思わなかった、と政治家は言っちゃダメだよ。リーダーなんだから、備えなきゃ、国民のために。そして、ぼくが言いたいのはそういうリーダーを選んだのは国民だということ、だから、ぼくらは自分たちの未来を守るために地球環境の問題を訴えているんだ。コロナも環境問題もそこの部分では通じているからね。30年後、パパはもうこの世にいないかもしれないけど、ぼくは子育てをしているだろう。ぼくはその子たちのためにも今から備えたいんだよ。コロナも怖いけど、もっと先にも怖いものがある」

食後、ぼくたちは一緒に食器を洗うことにした。食べたらすぐに洗うと汚れがこびりつかないから地球に優しいんだ、と教えたら、うちの16歳は頑張って洗っていた。

滞仏日記「世界のリーダーたちに読ませたい絵本、ナンバーワン」

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