JINSEI STORIES

退屈日記「ニコラとマノンのためのショートケーキ」 Posted on 2020/05/30 辻 仁成 作家 パリ

某月某日、午後、散歩から戻ると、SMSにニコラのお母さんから「二人がちょこっと遊びに行きたいと言ってるんですけど、よろしいですか。マスクをさせますので」と入っていた。息子に一応確認をすると、いいよ、という返事。じゃあ、ケーキでも作るか、ということで、今日は9歳のニコラと13歳のマノンを喜ばせるショートケーキを作った。

フランスで「ショートケーキ」は通じない。まったくポピュラーではないからだ。しかし、スポンジケーキと生クリームといちごの相性は抜群なので、子供受けがいい。ニコラは大好き。何度か作ってあげたことがある。逆にフランス人の大人には受けない。ショートケーキという文化がないからかもしれない。フランスの大人たちはガトーショコラのようなゴテゴテのケーキが好きなのだ。ともかく、ニコラたちが来る前に、ショートケーキをササっと作ることになった。



スポンジケーキを作るのは時間がかかるけれど、ロールケーキの生地ならば簡単、時短でショートケーキを作ることができる。オーブンは180度に予熱を開始し、卵を卵黄と卵白に分ける。卵白は冷蔵庫で待機させておくのだ。でわ、ショートケーキのレシピを。

ショートケーキのレシピ。
(卵黄の部分)
卵黄2個分、砂糖10g、オイル20g、小麦粉35g、牛乳大さじ2
ボールに卵黄と砂糖を入れ、泡立て器で白くなるまで混ぜ、オイルと少し温めた牛乳を加えてよく混ぜ、最後にふるった小麦粉を加え、混ぜておく。
(卵白の部分)
卵白2個分、砂糖25g
ボールによく冷やしておいた卵白と砂糖の3分の1を加えて泡立て始め、少し泡立ってきたらまた砂糖を3分の1を加えまた泡立て、最後の砂糖を入れてメレンゲにツノが立ったらメレンゲの完成となる。

退屈日記「ニコラとマノンのためのショートケーキ」

退屈日記「ニコラとマノンのためのショートケーキ」

卵黄にメレンゲの3分の1を加え、泡立て器でよく混ぜ合わせ、もう3分の1を加えたらゴムベラに変えて泡を消さないよう優しく混ぜ合わせる。
最後のメレンゲを加え、同じように混ぜ、全体がよく混ざったら、クッキングシートを敷いたオーブン板に生地を流し、スケッパーのようなもので表面を整え、10分から12分焼く。
焼き上がったら型から出し、粗熱が取れるまで生地の表面にラップをかけておく。
粗熱が取れたら生地を一度クッキングシートから外し、生地を2つに切る。

生クリーム150g、砂糖大さじ1を加え、泡立てる。
生地に泡立てた生クリームを塗り、半分に切ったいちごを並べ、上からまた生クリームをかぶせ、もう一つの生地で挟む。
端の部分を切りそろえ、最後に生クリームで全体を覆う。
イチゴを並べて、ミントを載せたら、季節のいちごショートケーキの出来上がりである。

退屈日記「ニコラとマノンのためのショートケーキ」



ニコラとマノンはお母さんが作ったという手作りのマスクを付けてやって来た。ニコラとは一度だけ、ロックダウンの最中に見かけた。お父さんとスケボーをやっていたのだ。マノンは久しぶりだったので、ちょっと会わないうちに、大きくなっていた。息子がやって来て、サリュ(やあ)、と子供たちは挨拶をしあった。ふと、気が付いたのだけど、いや、今まで一度も考えたこともなかったことだが、マノンが13歳、息子は16歳、…なるほど。気が付かなかった。普通にご近所づきあいをしてきたけど、気が付いたら、年ごろの二人になっていた。今までずっと子供だと思っていたマノンがちょっとお姉さんになって、なんか雰囲気が違ってる。マノンは息子に数学の勉強の仕方を聞いている。親身になって教える息子、ノートを覗き込んでいるマノン。へー。ぼくはニコラと目が合った。ニコラがいたずらっ子のような顔で、クスクス、と笑い出した。ぼくは指を口にあてて、シーっとやった。ま、いいか、余計なことを邪推するのはやめておこう。ぼくは冷蔵庫でよく冷やしたショートケーキを運んできて、テーブルの真ん中に置いた。わー、とニコラが大きな声を張り上げた。
「ロックダウンの間、お菓子はどうしていたの?」
「ママが作ってたけど、ムッシュ・ドロール(おもろいおじさんという意味)の方が百倍美味しいよ。期待してたんだ、すごい」
と言ったら、マノンが指を口にあてて、シーっとやった。百倍美味しい、と言われて内心嬉しい、おもろいおじさんであった。



退屈日記「ニコラとマノンのためのショートケーキ」

※レシピの追記。スポンジの切れ端の部分を小さな器に入れて、残りの生クリームとイチゴをうまく盛り付けると、シェフ用切れ端パフェ、が出来上がる。これは、父ちゃんがいただきます。

自分流×帝京大学