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特別寄稿「自由業とは何か」 Posted on 2023/05/18 辻 仁成 作家 パリ

職業はなんですか?
「はい、自由業です」
自由業というこの響きのなんて不安定なことだろう。

世の中はぼくのことをのほほんと生きていると思っているかもしれない。(思ってますね? あはは)
たしかに、自由業のぼくは不安とずっと戦ってきたし、毎日がずっと不安で仕方がなかった。
今日まで、一ミリも一グラムも安心感なんて持ったことがない。
自分で自分を律しないと未来なんか何も見えなくなる。ましてや感染症や戦争やインフレの時代、それはもっと顕著になった。
しかも、大企業に勤める人も、みんな、先行きが不透明なのがこの現代なのである。

小説なんか締め切りがあってないようなものだから、毎日書くと決めたら書き続けなければ、それで終わる。
ぼくは自分を保つためにも毎日小説やエッセイを書いている。それが自分の中の規律というものだ。
上司もいなければ部下もいないので、毎日寝ていることもできるのだけど、そうすると何も生産されないまま時間だけが流れてしまって、ついに人生も終わる。
「大丈夫だよ、なんとかなるよ」と人は無責任に言うけど、額面通りに受け止めちゃ絶対にいけない。
「辻さん、休んでたまには」
たまに優しい人に言われるけど、ありがたい・・・。
しかし、涙をこらえてぼくはパソコンや原稿用紙と向き合う。
自分を甘やかさないことが、ぼくにとって、先行きを明るくするための日々の努力なのである。
そして、逆に、それが生きる張り合いになっている。

特別寄稿「自由業とは何か」



好きなことを仕事にするということは大事かもしれない。(それは簡単ではない…)
天職を持つことができるなら、それが一番であろう。(でも、簡単じゃない…)
やりたい仕事なら残業をいくらしても苦痛じゃないが、やりたくない仕事はたかが一時間の残業でも苦痛になる。
いくらでもやれる仕事は好きな仕事だと思う。でも、そういうのはだいたいお金にならない。笑。
皆さんはご存じか? 原稿料がいくらか? 
ぼくが作家になった30年前、とある文芸誌の原稿料は400字で1300円だった。(800円だったかもしれない、…)
原稿用紙10枚も書いて、13000円だった。
10枚、書くのに、何日もかかる。
やっていけるわけがない。

特別寄稿「自由業とは何か」



よく、自分の天職がわかりません、という声をきく。
きっと天職というものは探して見つけ出せるものじゃないように思う。
「のめりこむ」という言葉があるけれど、それが天職の判断材料じゃないか。
1300円の原稿料で、夫婦+子供で生きて行くのは相当に大変だけど、やる気があればできるのだ。
その後、ぼくの原稿料は少しずつキャリアと共に上がりはじめた。
文芸誌だと5000円くらいになったし、商業誌だと、もっともっと頂ける。でも、自惚れたことはない。
つねに、1300円の時代を思って生きてる。
今は、ネットの時代になり、すそ野が広がった分、原稿料ががくんと落ちて、正直、原稿料なんかもはやないに、等しい。

ぼくは1ユーロのバケットを買う時、息子に、文庫本が一冊売れたら、これが食べられる、と何度も教えてきた。
息子が贅沢を決してしないのは、その大変さを見てきたからである。
ぼくらが食べ物に感謝をする親子でいられるのは、1300円の原稿料のおかげなのである。

でも、そうは言っても誰もが天職を持てるとは限らないでしょ、と言われることもある。
その通り。
ぼくだって残念なことにファッション・モデルにはなれなかった。残念だが、足が短く、背が足りなかった・・・あはは。
アイドルも俳優も同じく無理だった。
お金の計算が苦手なので経営者はもっと無理だった。
でも、ぼくは詩や物語を紡ぐのが何より好きだった。
今、ぼくがやってる仕事は全部、そういうことを中心に据えた仕事でもある。
天職というのだから、天が与えてくれる仕事であろう。
先行きが見えない、と嘆いているだけじゃ、きっと天職とは出会えない。天職は見つけ出すものじゃなく、のめり込んで必死で出会うものなのだと思う。
好きなことに、のめり込め。

特別寄稿「自由業とは何か」



つづく。

今日も読んでくれてありがとうございます。
ぼくは、自分の人生を楽観したことは一日もありません。
ずっと不安しかない人生の連続かもしれない。退職金もないし、もっと言えば、毎月の給料も、ボーナスもずっとないんですよ。
会社に勤めたことがないから、失業保険なんて無縁です。笑。
※、しかし、こつこつと税金を払い続けたおかげで、フランス政府から年金をもらうことが出来る。65歳から。笑。

自分から「先行きが見えない」と人に泣きついたこともありません。
自分の先行きは自分で作りだして見せると思って自分にだけは厳しくやってきたつもりです。
いくつもの先行きをぼくは持っています。同時進行的に。
先行きは一つとは限らないのです。
一つがだめでもすぐに次の先行きを出せるようにしておけば、先行きを閉ざさずに済みますからね。
そういうしたたかな生き方を心がけてきました。
つまり、不安だけど、先行きはある、ということなんです。
自分を開発しましょう!
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特別寄稿「自由業とは何か」

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Tsuji



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※ あやしいおやじや・・・あは



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