JINSEI STORIES

滞仏日記、2「狙われてるアジア人。配車サービスの危険とその戦い方」 Posted on 2020/01/22 辻 仁成 作家 パリ

某月某日、コーヒーを飲んだ後、自動車を修理に出しに行き、交通スト中なので、帰りに世界的に有名な配車サービス(日本でも食料品を届けたりする)の車を呼んだ。この利点は出発地から到着地までの金額が、混み具合に関係なく最初に提示されるところで、大渋滞になってもメーターを気にしないで乗ることが出来る。ところが最近、頼んだのになかなかやってこないのが増えた、(5分が過ぎると有料キャンセルになる)のでやたら時間稼ぎをしてキャンセル料で儲けているのかもしれない。それに加え、今日新たな手口の運転手に当たったので、報告をしたい。乘って数分したら、突然、「おお、アプリが壊れたぁ」と騒ぎだした。配車サービスの車はアプリで会社と顧客と繋がっている。全て携帯のアプリで仕事をしている。壊れてるようには見えないので自作自演なのだが、後ろの席からだと見分けづらい。この運転手は珍しいことに携帯を自分の左手、窓側に設置している。見えにくいように…。確認をしたいから、ちょっと携帯を貸してくれ、それがないとこっちのアプリのキャンセル操作できない、と言い出し、一瞬ためらったけど、渡した途端に、手首を返して、まず、自らキャンセルボタンを押し、その直後に「運転手へのチップ」画面の最高額ボタンを押すのだ。一瞬、そのチップ画面が見えたのだが、あまりに咄嗟のことで、何をされたか頭が一致しない。これ、本当に思いつかなかった。この運転手泥棒の頭の良さにあとでぼくは痺れてしまった。「ごめんね、ここで降りて違う車を探してね」と言い残す。降ろされ、おかしいなと思っていると「チップ5ユーロありがとうございました」と配車サービス会社からメールが届いた。その瞬間ようやく、やられた、と気が付く。外国人だとどこに文句を言えばいいのかわからない。そういう人の弱みを狙った新たな手口だと気づいたので、ぼくは、燃えた。こういう不条理なことを絶対に許せない性格だから、すぐに運転の履歴から彼の写真をスクショした。とにかく証拠を集めるしかないので、冷静さが必要になる。

滞仏日記、2「狙われてるアジア人。配車サービスの危険とその戦い方」

※ この写真はイメージです。



ところで、これはフランスだけに限らないことだが、パリのあるある問題は、クレームをつける場所がなかなか探せないという点。一番よくあるのが通信回線を解約しようとすると解約する場所がない、そのことをクレームしたくてもフォームがない。もちろん、探せば必ずあるのだけど、入り口はかなり大きいくせに、出口は針の穴。この配車サービスは世界的なだけに、タクシー会社さんのように全ての社員の管理がどうもできていない気もする。ところでこの配車サービス会社のアプリは日本語対応もある。なので、ボタンを押せるのだけど、手口の巧妙さを伝えるだけの選択しはない。そこで、こういうのに強い友人に電話をしたら「ああ、そこはツイッターやってるから、そこからクレームするとすぐにお金返してくれるよ~」と普通に教えられた。さっそくツイッターをフォローしDMからクレームを入れてみた。向こうにフォローされていなかったけど、なぜか、メッセージは送ることが出来た。ちなみに、その友人は返信でクレームを入れたのだという。とにかく、30分くらい待っていると返事があった。会社はちゃんとしているようだ。しかも、ちゃんと担当者の名前が最後に添えられてある。女性の名前だった。苗字は無し。

「大変すいませんでした。ドライバーとも話をしています。お金は返します」という返事だったが、チップの5ユーロは現金で返さず、アプリ内に5ユーロ割引券を出しました、と書かれてあって、びっくり。次回も使うことが前提の返済方法っていうところが凄い。どこまで、ドライバーとちゃんと話をしているのか、疑わしい。そのドライバーの評価は高得点であった。それはそうだろうね、自分で客の携帯を取って、五つ星を押しているのだから…。あの運転手がボタンを自ら押した瞬間が脳裏に焼き付き離れない。悔しいじゃないか!

さて、余談だが、パリ旅行者の皆さんに注意を。最近、アジア人を狙った、不良たちの「度胸試し」というのが流行っていて、問題化している。罪のない中国のお父さんが殺されている。日本人でも被害者が増えているので、くれぐれも注意をしてほしい。危なそうな連中のいるところには決して立ち入らないこと。海外旅行の鉄則である。

自分流×帝京大学