PANORAMA STORIES

よみうりランド・ジュエルミネーション「フランス幻想の旅」 Posted on 2017/12/21 石井 リーサ 明理 照明デザイナー パリ

たまには日本で見られるプロジェクトのお話をしようと思います。
フランスにいきっぱなしだと思われがちですが、現在、都内や地方で複数の進行形プロジェクトがあり、結構日本に帰る機会も多い私です。

その中で、先月グランド・オープンを迎えたのが、東京よみうりランドの冬の風物詩「ジュエルミネーション」
宝石をちりばめたようなイルミネーションで、遊園地全体を輝かせるというこのイベントは、今年で8年目を迎えます。なんと、今年は550万球のイルミが冬の寒空を、光の魔法で包み込むという、東京圏ではダントツの規模で、毎年ネット上のイルミ・ランキングの上位を飾っています。

そこで、私は数年前から、噴水ショーと音楽のプロデュースをさせて頂いているのです。
夏の間賑わう波のプールに、シーズンオフになると最新の噴水や照明機材を運び込み、巨大な噴水池に変容させた上に、音に合わせて水・光・映像でひとつの世界観を表現するというスペクタクル。よみうりランドの希望で、噴水ショーのテーマは、いつも「フランス」や「パリ」を題材にしています。
巨大なウォータースクリーンを導入し、映像を映し出すという新兵器を備えた今年のバージョンでは、6分で、フランスを一周した気分になれるというショー「フレンチ・ボヤージュ〜フランス幻想の旅」を演出しました。
 

よみうりランド・ジュエルミネーション「フランス幻想の旅」

なんて淡々と書いていますが、実はそんなこんなが決まるのは夏前。
冬の澄んだ寒空にイルミネーションが煌めく凜とした雰囲気を思い出しながら、テーマを絞り、ストーリーボードを描き込み、オリジナルサウンドの作曲を発注するまでが、夏休み前の仕事。
映像を選んで編集するのは、夏休みのお楽しみ。そして9月になって楽曲ができあがってきたところで、細かい光の演出のシナリオを書きます。

色味、強さ、動きを、オペレーターにわかりやすいよう、イラストやカラーチャートを添えながら、なるべく数値にして表すようにするため、シナリオ書きは、ストップウォッチを片手に、耳にはノイズキャンセラー付きのヘッドホン、2面並べたモニターのひとつにビデオ、もう一つにエクセル、という、何とも無味乾燥な機械的な状態で行われます。これも、細かい時は0.01秒単位で、光の強さを1パーセント刻みで指示していくためです。
それと同時に、頭の中ではダンサーのようにゆらゆらと踊る噴水が舞い、教会の神聖な雰囲気を象徴する十字架が描かれ、大きく畝る地中海の波や、光を受けて輝くヒマワリが形取られ……といった各シーンの様子が、広がっています。

その空間性と時間的変化を伝えるには、一度、こうした「科学的な指示書」を介さないといけないのです。
演出家によっては、「なんとなくこんな感じ」を伝えて、いろいろ試しながら作り上げていく人もいますが、私のように、遠方のパリにいて、日本のオペレーターに進めていただくためには、この手法が必須かと思っています。
 

よみうりランド・ジュエルミネーション「フランス幻想の旅」

よみうりランド・ジュエルミネーション「フランス幻想の旅」

ちなみに、最初にこの作業をした時は、7分位のショーを書くのに72時間かかりました。次第にコツがわかってきて、今ではだいぶ短縮されてきました。とはいえ、映像を作る時や、音楽をチェックする時に、いろいろな要素を加味しながら修正を重ねているので、やっぱり、結構時間がかかっているかもしれません。

でも、実はこの作業、私にとっては「自分の為になる課題」とも捉えて取り組んでいます。
演者の出てこないショーで、いかにある世界観を作り上げて伝えることができるか。それも水と光と音だけで。これができるうようになったら、すごいですよね。まだまだ未熟ですが、こうした機会を積極的に捉えて、これからも前進していこうと思っています。

東京近郊にお住いの皆さん、もしお時間があれば、ぜひ見にいらしてください。でも、「イルミ渋滞」なるものがあるそうですので、車は避けることをお勧めします。

雪のパリの夜に。
石井リーサ明理

 
 

Posted by 石井 リーサ 明理

石井 リーサ 明理

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Akari-Lisa Ishii
照明デザイナー。東京生まれ。日米仏でアートとデザインを学び、照明デザイン事務所勤務後、2004年にI.C.O.N.を設立。現在パリと東京を拠点に、世界各地での照明デザイン・プロジェクトの傍ら、写真・絵画製作、講演、執筆活動も行う。主な作品にジャポニスム2018エッフェル塔特別ライトアップ、ポンピドーセンター・メッス、バルセロナ見本市会場、「ラ・セーヌ日本の光のメッセージ」、トゥール大聖堂付属修道院、イブ・サンローラン美術館マラケシュ、リヨン光の祭典、銀座・歌舞伎座京都、等。都市、建築、インテリア、イベント、展覧会、舞台照明までをこなす。フランス照明デザイナー協会正会員。国際照明デザイナー協会正会員。著書『アイコニック・ライト』(求龍堂)、『都市と光〜照らされたパリ』(水曜社)、『光に魅せられた私の仕事〜ノートル・ダム ライトアップ プロジェクト』(講談社)。2015年フランス照明デザイナー協会照明デザイン大賞、2009年トロフィー・ルミヴィル、北米照明学会デザイン賞等多数受賞。