PANORAMA STORIES

拝啓、被災者の皆様 Posted on 2017/02/02 石井 リーサ 明理 照明デザイナー パリ

スイス・ジュネーブからお便りしています。

いま、ここで全く新しいコンセプトのラグジュアリー・ホテルの仕事をしております。
この地の湖と山の眺めは、まさしく「風光明媚」という言葉にふさわしく、刻々と変わる湖面の光は、何時間眺めていても飽きることがありません。
そんな、素敵なジュネーブですが、私には実は別の思い出があります。
今回はそのお話を、徒然なるままに・・・。

拝啓、被災者の皆様

2011年、そう、東日本大震災のあった年の12月。私はジュネーブ市が主催する光の祭典「アーブル・オン・ルミエール(光の木)」に招待作家として、光のインスタレーションをするよう依頼されました。

ジュネーブといえばレマン湖や、国際機関、銀行、などを思い浮かべる方が多いかもしれませんが、実はとってもかわいらしい旧市街地や多くの公園に恵まれた街でもあります。その市街地に点在する木々に、10人程のアーティストが光の作品を展開して、冬の風物詩を作ろうという企画でした。

私はその年、東日本で起きた大変な出来事に強い衝撃を受け、生と死について深く考えていました。そこで、この祭典に招聘された時、「木」というテーマに「生命」の象徴性を重ね合わせ、即参加を決意したのでした。
すぐに現地に赴き、いくつもの木を視察しました。公園の美しい並木や、賑やかな広場の立木・・・でもなかなかピンときません。歩き回っているうちに、丘の上の大聖堂の脇に佇む一本の木を見つけたのです。
「これだ!」と瞬間的に思いました。何故か? ・・・は後になってわかってきます。

拝啓、被災者の皆様

アートフェスティバルは、街中の陣取り合戦から始まります。
クリエーションの主旨に見合った良い場所をゲットしなければ、作品の見え方にも影響するからです。
場所の申請を終えると、次にコンセプト作りとなります。

木を見つけた瞬間から、私の頭の中には次のような構想が浮かび上がっていました。

拝啓、被災者の皆様

木は私たち日本人にとって、時には神聖なもの。神が宿ったり、木自体がご神体として神聖化されたり・・・。
また季節を愛でる文化の中で育った私にとっては、木は、毎年秋に葉を落とし、枯れ木のまま冬を過ごすけれども、必ず春になると新芽を吹く「再生」の象徴でもあります。
その姿は、被災しても、破壊されても、また復興していく大震災被災地の様子に重ねることができます。

多くの犠牲者の方々の魂を弔うために、私は特殊な和紙のような素材で行灯型のランプをたくさん作って枝から下げ、その中の明かりが、オレンジから白を通って青に変わり、またオレンジに戻るという「輪廻」を繰り返すプログラムを作りました。いうまでもなく、青は死を、オレンジは生を象徴します。

木全体には、大聖堂の塔の上から、神の光を彷彿とさせる強い青白い光を浴びせました。
木に「生きよ」とパワーを与えているような、厳かな光です。
その光線によってくっきりと写し出された木のシルエットは、光の祭典なのに、影絵を作ったからでしょうか?
その珍しさから、地元の新聞にも大きく紹介されることになるのです。

拝啓、被災者の皆様

ちなみに、行灯ランプは、地元の障害者施設の方々に協力して作っていただきました。

そして仕上げに、木から根元の地面に、「生」「再生」「誕生」など生命に関する言葉をフランス語で、しかも光で描いていったのです。
こうして出来上がった作品のタイトルは「3.11」。犠牲者の方々への追悼の念を込めて・・・。
そして復興への応援の気持ちをシンボリックに表現して・・・。

拝啓、被災者の皆様

さて、どうしてカトリックでもないのに教会の横の木が気になったのか?

その答えは点灯式の日にわかりました。プロジェクトの完成のお礼と、フェスティバル期間中の成功を祈念するため、大聖堂にお参りに行った時のことです。
それまで気が付かなかったのに、不意に「地下聖堂入口」の標識が目に飛び込んできたのです。遺跡好きの私は早速見学。すると、大聖堂の下には、この地にキリスト教が入ってくる以前、人々の信仰の対象であったケルト信仰の祠があったというのです。つまりこの丘は、ジュネーブ古来の「パワースポット」。宗教を超えた、何か超越した力が宿った地でもありました。

私は決して霊感が強いわけでも、信仰深いわけでもないのですが、この場所に引き寄せられたのには、生命につながる何か特別な力が働いたのかもしれません。

拝啓、被災者の皆様

今日のジュネーブは、珍しく春のような暖かさで、湖畔から旧市街の中心に聳える大聖堂がよく見えます。
もう6年も前のことになりますが、あの冬極寒の中で調整した作品と、
その背景に聳えていた教会の姿が蘇りました。

被災者の皆様、さらなる復興をヨーロッパの冬空の下から、お祈りさせていただきます。

敬具
            
                
ジュネーブにて。2017年1月

 

Posted by 石井 リーサ 明理

石井 リーサ 明理

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Akari-Lisa Ishii
照明デザイナー。東京生まれ。日米仏でアートとデザインを学び、照明デザイン事務所勤務後、2004年にI.C.O.N.を設立。現在パリと東京を拠点に、世界各地での照明デザイン・プロジェクトの傍ら、写真・絵画製作、講演、執筆活動も行う。主な作品にジャポニスム2018エッフェル塔特別ライトアップ、ポンピドーセンター・メッス、バルセロナ見本市会場、「ラ・セーヌ日本の光のメッセージ」、トゥール大聖堂付属修道院、イブ・サンローラン美術館マラケシュ、リヨン光の祭典、銀座・歌舞伎座京都、等。都市、建築、インテリア、イベント、展覧会、舞台照明までをこなす。フランス照明デザイナー協会正会員。国際照明デザイナー協会正会員。著書『アイコニック・ライト』(求龍堂)、『都市と光〜照らされたパリ』(水曜社)、『光に魅せられた私の仕事〜ノートル・ダム ライトアップ プロジェクト』(講談社)。2015年フランス照明デザイナー協会照明デザイン大賞、2009年トロフィー・ルミヴィル、北米照明学会デザイン賞等多数受賞。