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コロナに侵された世界はどうなる? 背中合わせの希望と落とし穴 Posted on 2020/04/09 Design Stories  

都市封鎖をしてから3週間経つが、緩やかになったとは言え感染者数は増え続け、死者数においても増加が続いているのが今のフランスの現状である。

世間では「ロックダウン解除」についての論争も始まっているが、フランスのフィリップ首相はいくつかの仮定をあげた上で、しかし今、この時点で「ロックダウン解除」の話をするのは早過ぎると釘をさし、春の陽気に気の緩みはじめた国民に対してロックダウン条件を厳しくした。専門家は、これから訪れるピークは3週間ほど続き、その後、落ち着くまでにもう数週間は要するだろうと言っている。単純に計算して、私たちの外出制限は6月の半ば、もしくは7月まで続くということになる__。

しかし、私たち外出制限をしている人間からすると、今頭の中にあるのは”果たしてどのように「ロックダウン解除」が行われるのか”である。もはや、「以前」の生活がある日そのまま戻ってくるとは思っておらず、ならば、「以後」の生活が一体どうなるのか・・・、私たちが今生きるこの時間は、人類が新しいことを受け入れるために与えられた心構えの時間なのでは、という気さえもする。




まず、ロックダウン解除にはいくつかの条件が必要になる。一番大切なのはロックダウンの第一目的でもあった、全国の集中治療室に余裕ができること。そして、全ての感染者に検査が行き渡るくらいまで感染者数が落ち着くこと、マスクや消毒ジェル、感染監視、国境コントロールなどのシステムが整うことなどである。それらの条件が整った上で、今、フランスではロックダウン解除の方法として、地域別、年代別、Stop & Go、感染者追跡、抗体検査など、様々なシナリオが噂されている。その中でも有力なのは、年代別の解除のようだ。どのような方法かというと、まず、第一段階でコロナに強いとされている若い年代のロックダウンを解除し、若い人の間で集団免疫を作らせ、第二段階で弱い年代をロックダウンから解除するという方法である。理論上、免疫を持った人がたくさんいればいるほどウイルスは循環できなくなるので、弱い立場の人たちが保護されていくという構図である。ということは、もちろん、若者の中から重症化する人は出てくるわけだが、感染者をゼロにするのが不可能である以上、こうするしか手はないのだろう。

コロナに侵された世界はどうなる? 背中合わせの希望と落とし穴

では、人々が感染から逃れつつ普段の生活に戻る方法はないのだろうか? 
その一番手堅い方法として、イギリスやイタリアなどが前向きな、抗体を持っている人と持っていない人を区別する血液抗体検査の実施があげられている。この検査の良い点は、テストが難しいPCR検査に対して1滴の血液で検査できること、自分自身でできること、しかも低予算であることなど複数あり、ドイツでは「抗体パスポート」を発行するという説も出ているようだ。確かに、この検査は「新型コロナの抗体を持っていれば、再びコロナに感染することはない」という前提であれば有効である。
しかし、フランスのウイルス学者たちはこの抗体検査の大きな落とし穴を指摘している。彼らによると、抗体を調べるためには、まず、Covid-19の症状があるすべての患者をスクリーニングしながら、各患者の免疫に関するより多くの情報を収集する必要があり、例えば、大都市でそれを行うことはほぼ不可能だという。それに加え、誰が、どのように、どのくらいの期間抗体ができるのかを知る必要があるというのだ。イギリスのGuardian紙のインタビューで、免疫学者のピーター・オープンショー氏は、「最悪の場合、元患者はたった3ヶ月間しかウイルスに対する部分的な抗体しか持たない」と説明している。となると、通常の生活に戻る人の体が本当に守られているのかどうかを見極めることが重要となる上で、この抗体検査は人によって全く無意味となる可能性もあるというわけだ。また、社会心理学者は医学上の問題だけでなく、抗体の有無での区別を行うことにより「健康な人」と「不健康な人」という印象を社会に植え付けることになり、それにより社会的な面での影響も出てくるだろうと言われている。

どうやら、今この時点で、実質上、完璧な封鎖解除シナリオは無さそうだ・・・。とはいえ、このまま国を封鎖し続けることも不可能である。ワクチンの開発と、治療方法が見つかるのを待つしかないのだろうか。

コロナに侵された世界はどうなる? 背中合わせの希望と落とし穴

ちなみに、新型コロナ治療薬に関しては、現在、フランスの抗マラリア剤で免疫抑制剤のヒドロキシクロロキン、日本の抗インフルエンザウイルス剤のアビガンが新型コロナ治療に希望の光りを与えている。しかし、ここにもやはり落とし穴はある。フランスの医師の指摘ではクロロキンには網膜症や心臓発作などの重大な副作用を起こすことがあるようだし、アビガンにもその副作用で催奇形性の影響(富士フィルム富山科学株式会社HPより)があり、世代によって承諾が必要だと言われているのだ・・・。

この二つの治療薬に加え、フランスでは回復した新型コロナ感染患者の回復期血しょう(血漿)を投与する方法や、海ミミズ(ブルターニュ地方に生息するアルニコルミミズ)のヘモグロビンを投与する方法の治験が行われている。血漿、ミミズ共にすでに使用されている治療法で、海ミミズに関しては、海ミミズのヘモグロビンに含まれる酸素が人間の40倍含まれており、病状が深刻な患者の血液に酸素を供給することができる。人類がミミズに救われる日が来るか否か、注目である。

近い将来、私たちがこの感染症のことを考えずに生活できる日は来るのだろうか。
ある社会心理学者によると、現在、フランスにおいて政府が推奨する予防措置を遵守している人の割合は93%から97%に及ぶといい、ここまでフランス人が一丸となったことは今までに「前例がない」ことらしい。そのことを考えると、これから数週間続くロックダウンと、その解除に至るまで、国民は政府や専門家に反発することなく従うことになるだろう。いや、そうするしかない状況に私たちは立っているのである。

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デザインストーリーズ編集部(Paris/Tokyo)。
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