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佐伯幸太郎の美女と美食三昧「佐伯の三ツ星、パリの京料理、ENYAA」 Posted on 2018/05/29 佐伯 幸太郎 ライター パリ

ということで皆様、ご無沙汰しておりました、コータローです。寂しい思いさせちゃってごめんよ。

今年は日仏160周年ということでパリはジャポニスム関連イベントが目白押しでさ、貧乏暇なし女無し、女房の尻に敷かっぱなしで、なかなか落ち着いて記事書けませんでした! あいむそ~り~、じゃっぽじゃっぽじゃぽにすむ~。

というわけで、編集長の辻がさ、「幸太郎、すげ~ 和食店見つけたぜ。日本でもなかなか食べられないぞ。だまされたと思って一度行ってみろ」って電話かけてきたから、ルーヴル美術館の受付やってるヴィオレーヌを昼休みに強引に誘って行って来ましたよ、話題の「エンヤ」。

ルーヴル美術館からもオペラ座からも歩いてすぐ、なんとパレロワイヤルのすぐ横隣、最高のロケーションだ。
見た目、侍映画に出てきそうな優男風ソムリエの石田さんが栃木県の日本酒「大那」を出してくれた。甘すぎず、しつこ過ぎず、磨きすぎず、すっきりし過ぎない、だからといって控えめじゃない。まるで俺のような出来た酒じゃないか。存在感のある名水のような上品な味わい、思わず「美味い」と叫んでしまった。
 

佐伯幸太郎の美女と美食三昧「佐伯の三ツ星、パリの京料理、ENYAA」

とりあえず48ユーロの「松花堂弁当」を試してみることにした。
二人で100ユーロ、日本酒飲んで、二万円コースだな。妻に食わせてもらってるヒモの佐伯にはちょっと高めだけどしょうがない。というのもヴィオレーヌにぞっこんなんだ。また「ふられる」という筋書きは皆さんよくご存じの通り。懲りないところが佐伯幸太郎のよいところ。
美食家とかワイン通気取ってるやつらはみんな女好き。食べるものなんかなんでもいいって奴は女性にこだわりもないわけで、やっぱ美味いものを探す男は常にいい女を探しとります。はい。

で、ヴィオレーヌの存在感はルーヴルで展示されているあらゆる絵画のモデルよりも色っぽいし、気品に溢れてるってわけだ。俺がダ・ビンチだったら、モナ・リザなんか描かないでヴィオレーヌを描いただろう。透明な肌、吊り上がった目、薄い唇、つんとした鼻、あまり手入れされてないソバージュな髪型、ああ、このシュール感たまらん。
 

佐伯幸太郎の美女と美食三昧「佐伯の三ツ星、パリの京料理、ENYAA」

給仕さんが、「先付はオマールビスクの茶碗蒸しです」と仏語でヴィオレーヌに説明している。
先付って、期待感を先に付けるってことなんかね、一口食べて俺たちはお互いの顔を見合わせた。ルーヴルの受付嬢が目を見開いてその驚きを訴えている。俺はヴィオレーヌの手をそっと握りしめようとしたんだけど、パシッと振り払われてしまった。あはは、それとこれとは別か、先付は失敗したぜ。

でも、味は文句なし、オマールビスクってのはゴージャスな広がりとアタックが強い分、どうしても飽きやすいしつこさがある。ところがここのオマールビスクの茶碗蒸しは、でしゃばりな嫌味を抜き取られ、驚くほど上品に仕上げられている。ちゃんと京都の一流の味に仕上げられている。僅かに、ざらっとした舌ざわりがオマールの名残を伝えており、その仕上げの絶妙さにここの大将の隠された腕前を感じずにいられない。
佐伯、この段階で、恐れ入ってしまった。給仕長さんを呼び止め、素性を聞いてみた。
なんでも京都の料亭「八咫(やた)」で13年も料理長をやっていたのだという。ほんまもんやんか、えんや~。
 

佐伯幸太郎の美女と美食三昧「佐伯の三ツ星、パリの京料理、ENYAA」

松花堂弁当は、右下から本鮪と甲烏賊のお造り、右上がサーモン西京味噌焼、左上が鯖寿し、左下がアスペルソバージュと鶏胸肉の山葵酢味噌がけという布陣、ルーヴルの受付嬢は目を見開き、鼻をおっぴろげ、眉毛はハリネズミ、耳たぶを真っ赤にさせ、薄い唇を震わせながら、「コータロ~、信じられないわ、あり得ないし、デリッシュ~」と誉めちぎっている。さすが、ルーヴルちゃん。芸術に囲まれて毎日仕事をしているだけあって、顔全体での表現力が半端ない。芸術心を擽るぜ。

とくに佐伯が興奮したのは鮪。この鮪は市場から来てぽんとテーブルに出されたような昨日今日の代物じゃない。一週間かけて地下室で鮪のうまみが出るように熟成させられ、最高のタイミングでテーブルに出された一品。口の中に入った瞬間、その見た目ではわからない熟れたうまみが味蕾を擽る。まさに経験豊かな料理人にしかできない術だ。そして、鯖寿司は京都で食べたまさにあの味、本当にここがパリなのか、と驚くほどの職人技! ぶらぼ~。
 

佐伯幸太郎の美女と美食三昧「佐伯の三ツ星、パリの京料理、ENYAA」

松花堂弁当だけじゃなかった。そのあと、鶏胸肉と季節の野菜の天ぷら、鶏そぼろ御飯と赤出汁と続く。

実に塩加減が素晴らしい。イギリス産の岩塩を使っているということだが、佐伯好みのアタック、けれども後に残らない塩加減、その節度に舌先も胃袋も大満足。ルーヴルの受付嬢はすっかり額縁に収まって、もう言葉さえ出ない。本当の和食に出会ったすばらしさのせいで、本人が彫刻のようになってしまった。
 

佐伯幸太郎の美女と美食三昧「佐伯の三ツ星、パリの京料理、ENYAA」

佐伯幸太郎の美女と美食三昧「佐伯の三ツ星、パリの京料理、ENYAA」

締めのデザートは焙じ茶のブランマンジェであった。
ヴィオレーヌはすっかり打ちのめされている。今だ! 俺はすかさず、放心状態のヴィオレーヌの手を握りしめた。日本だったらセクハラで告訴されてるレベル。俺は放心状態のヴィオレーヌに耳打ちした。

「日仏友好160年に相応しい関係になろう。ぼくと君が愛し合って、もっともっと日本の良さをフランスに伝えなきゃならない。俺は愛の伝道師だ。じゃぽじゃぽじゃぽんじゃぽにすむで行こう」

するとヴィオレーヌが俺の手を振り払ってこう言い返してきた。

「ルーヴルに戻らなきゃ。コータロ~、最高の日本食をありがとう。こういう芸術を毎日食べることのできる日本の女性たちが羨ましいわ。コータロ~、ルーヴルで待ってるわね、じゃぽじゃぽじゃっぽんじゃぽにすむ~」

ほらね、来たでしょ? 最後はいつもこういうパターン。なんも進歩ないな。ヒモのくせに、若い女に騙されて、大枚叩いて、放り出されて、懲りない男だわ。おお、こわ、家に帰るの、怖すぎだ。

すると、シェフの遠藤さんが奥から顔をだし、微笑みながら、「ありがとうございました、またお越しくださいませ」と上品にお辞儀をされた。料理も佇まいも何もかもが絵になる人だな。
絶品でした。次は妻と必ず食事に来ます、と言い残して、俺は颯爽と店を後にするのであった。じゃぽじゃぽ。
 

佐伯幸太郎の美女と美食三昧「佐伯の三ツ星、パリの京料理、ENYAA」

 
 

Posted by 佐伯 幸太郎

佐伯 幸太郎

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Kotaro Saeki
ライター。渡欧25年のベテラン異邦人。ワインの輸入業からはじまり、旅行代理店勤務、某有名ホテルの広報を得て、現在はフリーランスのライター。妻子持ちだが、美しい女性と冒険には目がない。モットー、滅びゆくその瞬間まで欲深く。