PANORAMA STORIES
London Music Life 「街角に流れるキャロルと、支え合う思い」 Posted on 2025/12/23 鈴木 みか 会社員 ロンドン
ロンドンに来たばかりの頃、クリスマスはとにかく華やかだった。
街中を彩るイルミネーション、にぎわうクリスマスマーケット。日本から来た私にとって、それは「これぞロンドンのクリスマス」という、少し非日常的で眩しい風景だった。
けれど、年を重ねるうちに、少しずつ感じ方が変わってきた。
最近、私がよく立ち止まるのは、ライトの輝きよりも、街角でふと耳に入ってくる音楽だ。駅構内や道の途中、立ち止まらなければ聞き逃してしまいそうなクリスマスキャロル。そこには、楽しさや賑やかさだけではない、人と人が支え合うための静かな意思のようなものが感じられる。
イギリスでは、クリスマスは日本のお正月に近い位置づけだ。家族や親しい人と集まり、食事をし、時間を共有する。職場でもこの時期になると「クリスマスはどう過ごすの?」と聞かれるのが自然で、「特に予定はない」と答えると、本気で心配されてしまうこともある。最初は戸惑ったが、今ではその反応こそが、この国にとってクリスマスが「誰かと一緒に過ごす日」であることを象徴しているように思える。
一方で、この季節は、そうした温かい時間を持てない人たちにも目が向けられる時期でもある。家族がいない人、病気や経済的な理由で、十分な食事や安心した時間を持てない人たち。ロンドンではこの時期になると、駅や街角のあちこちでクリスマスキャロルが歌われ、さまざまな団体への寄付が呼びかけられる。

先日、会社のメールで、インターンの若者たちがロンドン中心部のCovent Garden駅前でクリスマスキャロルを歌う、という案内が届いた。普段はにぎやかで無邪気に見える彼らが、自分たちで話し合い、「今できること」を形にしている。その知らせを読んだだけで、心が少し温かくなった。
こうした形で音楽と社会が自然につながっているのは、イギリスらしいと感じる。
先日足を運んだジャズトリオのライブは、World Heart Beatという音楽教育を通じて子どもや若者を支援するチャリティ団体が運営するライブハウス兼レコーディングスタジオで行われていた。ステージを囲むように客席が配置された空間で、演奏者との距離がとても近い。アットホームな雰囲気の中で、音がとても良い会場だった。
ここで開催されるライブは、会場の運営を通じて、子どもや若者への音楽教育を支えるチャリティ活動につながっている。経済的・社会的な背景に関わらず、子どもや若者が質の高い音楽教育を受けられるよう、プログラムや楽器の提供、育成活動に再投資されている。観客として音楽を楽しむこと自体が、次の世代を支える行為につながっている。

また、この時期に欠かせない一曲、ロンドン出身のポップデュオ、ワム!の「ラスト・クリスマス」にも、音楽と支援を結びつける背景がある。
1984年のリリース当時、ワム!はこの曲の印税を、当時深刻だったエチオピアの飢饉救済のために寄付したという。その後も、ジョージ・マイケルが慈善活動に深く関わっていたことは広く知られており、この楽曲は、単なる季節のヒット曲を超えた存在として受け取られているように感じる。
こうした背景を知ると、毎年同じように耳にしてきたクリスマスソングが、少し違った響きを持って聞こえてくる。
華やかな街の裏側で、音楽は誰かを支えるために静かな役割を果たしている。
温かい時間を過ごせる人も、そうでない人もいることに、ほんの少し思いを馳せながら、街に流れる音楽に耳を澄ませてみる。ロンドンの冬は、そんな小さな気づきを教えてくれる。
Posted by 鈴木 みか
鈴木 みか
▷記事一覧会社員、元サウンドエンジニア。2017年よりロンドン在住。ライブ音楽が大好きで、インディペンデントミュージシャンやイベントのサポートもしている。


