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London Music Life「アリーナスタンディングで楽しむクラシックの祭典 Proms」 Posted on 2024/05/13 鈴木 みか 会社員 ロンドン

 
クラシック音楽ファンにとって、ロンドンでの夏の楽しみのひとつは、Proms(プロムス)というイベントだ。ロイヤル・アルバート・ホールを中心に8週間に渡り行われるこのイベントには、国内外からのオーケストラや演奏家が集まる。

始まりは1895年に遡る。当時コンサートイベントを企画していたロバート・ニューマンが、裕福ではない人たちでも、気軽な雰囲気の中でクラシック音楽を聴くことができるように、と考え、クイーンズ・ホールでこの企画を始めた。第二次世界大戦の空襲でクイーンズ・ホールが破壊された後に、会場は現在のロイヤル・アルバート・ホールへと移された。第1回から指揮者を任命されたヘンリー・ウッドは、プログラムの内容や拡大にも大きな貢献をしており、毎年イベント期間中には彼の銅像が運び込まれステージの後ろに飾られている。
 

London Music Life「アリーナスタンディングで楽しむクラシックの祭典 Proms」



 
このイベントの特徴は、アリーナ席がスタンディングであること。2時間以上に渡る演奏をロックのライブのように立ち見するのだ。Promsとは「プロムナード・コンサート」の略であり、プロムナード=そぞろ歩きをしながら観るというということに由来する。当時は飲食だけでなく、煙草も吸い放題だったというが、その気軽に見れるというコンセプトはずっと継承されている。曲の間などに指揮者のスピーチや解説もあり、フレンドリーな雰囲気で、観客もビールを飲みながら盛り上がる。服装も自由で、休憩時間には床に座って待つのも普通で、クラシックのイメージにある堅苦しさは全く無い。

Promming(プロミング)と呼ばれるアリーナスタンディングのチケット代は、今でもたったの8ポンドで、パブで飲む生ビール1杯ちょっとの値段だ。アリーナ席の当日券は毎日1,000枚ほど出るため、事前にスケジュールを立てていなくても、気軽にアクセスできる。また、週末の昼間にはキッズ向けのコンサートもある。
様々な演目の中には、高い値段をつけても十分に売れるだろう、というものもあるが、一般庶民に広く門戸を開くというコンセプトが守られているところに、生の上質な音楽に触れる機会を増やし広げる、という強い思いが引き継がれていると感じ、実際アリーナエリアに立ってみると、クラシックを身近に聴ける素晴らしい体験に感動するのだ。
 

London Music Life「アリーナスタンディングで楽しむクラシックの祭典 Proms」



 
チケットは、期間中いつでもアリーナスタンディングに入れるシーズンパス、特定の週末のみのパスがある。座ってゆっくり観たいという人は、座席のある指定席を1公演ごとに事前購入できるし、ボックス席で優雅に観るという選択肢もある。

そして、Promsの最終日は、特別なイベントだ。(この日のチケットは、シーズンパスや期間中5公演以上を購入した人が優先となり、一般販売のチケットはとても少ない)。2か月に渡る祭典を振り返り、イギリスの伝統的な曲、エルガーの威風堂々、スコットランド民謡の蛍の光、など、日本人にも親しみのある曲も定番として演奏される。国旗を振って参加するのが定番だが、必ずしもイギリス国旗ではなく、EUの国旗を振っている人も多く見られる。アリーナでは風船トスをしていたり、プログラムに合わせて光る観客用のブレスレットがあったりと、まさにフェスのような雰囲気だ。
ただし、日本に置き換えると、サントリーホールのような場で、国旗を振りながら国家や民謡を歌っている様子が、かなり国家主義的なイベントにも思え、現代の価値観に合わないという批判もあるようだ。
 

London Music Life「アリーナスタンディングで楽しむクラシックの祭典 Proms」



 
毎日のコンサートは、BBCのラジオでも生放送されており会場の楽しい雰囲気が音声でも伝わってくる。日本からもインターネットラジオ聴けるようなので、クラシック好きの方は、プログラムをチェックして、興味のある演目を聴いてみてはかがだろうか。今年のイベントは、7月19日から9月14日まで。チケットは今週から発売される。今年はサム・スミスやFlorence + The Machineといった、ポップスとクラシックの競演もあり、どんな演奏になるのか今から楽しみだ。
 

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Posted by 鈴木 みか

鈴木 みか

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会社員、元サウンドエンジニア。2017年よりロンドン在住。ライブ音楽が大好きで、インディペンデントミュージシャンやイベントのサポートもしている。