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London Music Life 「老舗ライブハウス存続の危機」 Posted on 2023/12/11 鈴木 みか 会社員 ロンドン

 
12月某日、イギリスの音楽ファンにショッキングなニュースが流れた。
ロンドンから電車で約2時間の街、Bath(バース)にある老舗のライブハウス「Moles」が45年の歴史を経て、閉店することになった。
3日前にはイベントをしていたし、当日にも先にもスケジュールはあったのに、急な廃業宣言だった。

Molesはイギリスでも最も有名なライブハウスのひとつで、Oasisが最初のツアーをしたり、大ヒット前のRadioheadやEd Sheeranも演奏したりした場所だ。
立ち見で200人前後のサイズ。
このような小規模なライブハウスはGrassroots venue(草の根的なライブハウス)と呼ばれていて、成長過程のミュージシャンたちに演奏の場を提供し、次のスターたちを育ててきた。
ローリングストーンズだってビートルズだって、最初は小さなライブハウスで演奏していた。
演奏をする場所なくして、イギリスのロック音楽は育たなかったし、後にスタジアムやアリーナを満席にするようなスターたちが、ファンを獲得することもできなかっただろう。
 



 
Molesのインスタグラムでは、閉店の理由について、生活費、家賃、光熱費の高騰など、そしてそれらが顧客の気持ちにも影を落としていたことが挙げられていた。
さらに、Grassroots venueは、ミュージシャンを育てるだけでなく、訪れる人々にとっても重要なコミュニティの役割を果たしていた、と嘆く。
好きなミュージシャンを発見したり、新しい友や恋人と出会ったり、心から歌ったり、数時間だけ日常のトラブルを忘れることができる場であったこと。
そういう場所が無くなっていくのだ。
小さな字で3ページに渡って書き綴られていたメッセージからは、彼らの悔しさと、さらなるライブハウスの廃業を食い止めたい思いが伝わってきた。

コロナパンデミック後の廃業はMolesに限ったことではない。
同日にこのニュースを報じたThe Guardian紙によれば、この12ヶ月間で閉店に追い込まれたGrassroots venueは、125軒にものぼり、4,000人の仕事、14,250イベント、193,230のパフォーマンスの機会が消えたことに相当するとのこと。
事態を深刻に捉えずにこのままにしていたら、音楽業界全体が壊滅的な失敗に直面するだろう、と警鐘を鳴らす。
 

London Music Life 「老舗ライブハウス存続の危機」



 
私がこのニュースを知ったのは、イースト・ロンドンにあるLUNAという、同規模のライブハウスのインスタからのリポストだった。
初めてLUNAを訪れたとき、スタッフのひとりが「たくさんのライブハウスがここのところ閉店してしまった。いろんなミュージシャンが毎日演奏して、ライブ音楽を楽しめる場を続けてるのは、この辺りではうちだけなんだよ」と、誇らしくも少し寂しそうに話していたのが、強く記憶に残っている。
同じ志を持っていた同業者の廃業はとても悲しいことだと思うし、おそらく、今生き残っているライブハウスのほとんどが、危機に立たされながらもなんとか継続している状況なのだと想像する。
 



 
少し暗い話題になってしまったが、数々のロックスターを生み出してきたイギリスのライブハウス。
機会があれば、ぜひ小さなGrassroots venueを訪れてみて欲しい。
一歩中に入れば、たくさんのミュージシャンを育ててきたオーナーやスタッフの「音楽文化を絶やさない」という熱い想いを感じられる。
そして、そこにはミュージシャンや新たな友との出会いがある。
訪れる音楽ファンの熱気とビールの消費が、ライブハウス継続のサポートにも、励ましにもなることだろう。
 

London Music Life 「老舗ライブハウス存続の危機」

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Posted by 鈴木 みか

鈴木 みか

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会社員、元サウンドエンジニア。2017年よりロンドン在住。ライブ音楽が大好きで、インディペンデントミュージシャンやイベントのサポートもしている。