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London Music Life「街を彩るストリートミュージシャンたち」 Posted on 2024/01/08 鈴木 みか 会社員 ロンドン

地下鉄の駅や街角で、予期せず聞こえてきた音楽に、明るい気持ちになったり、懐かしいメロディーに胸がきゅっとなったりしてしまう。街のあちこちにライブ音楽が溢れているのはロンドンの魅力だ。

路上パフォーマンスのことをイギリスではバスキング(Busking)と言い、パフォーマーのことをバスカー(Busker)と呼ぶ。ロッド・スチュワート、エド・シーラン、KT タンストールなど、バスキングから世界へと羽ばたいたミュージシャンも多く、一人での弾き語りスタイルでも観客を魅了できる底力のあるミュージシャンがイギリスに多くいる理由のひとつは、バスキング文化なのではないかと思う。

実はロンドンの観光名所付近でのバスキングはライセンス制度を取っていることが多く、地下鉄の駅や大きな広場などで演奏しているのは、年に一度あるかないかのオーディションで選ばれたミュージシャンたちだ。場所や演奏時間、順番待ちのルールも決められている。

London Music Life「街を彩るストリートミュージシャンたち」



過去には、地区ごとに違う複雑な制度や、騒音への苦情、アーティストへの暴力などさまざまな問題があったようだが、後に英国首相となるボリス・ジョンソン氏がロンドン市長だった2015年には、路上パフォーマンスを観光資源と捉え、ロンドンをより魅力的な都市にするために「Busk in London」というプログラムが導入された。ルールの統一や手続きの簡素化、演奏場所の提供者との仲介等が行われ、バスカーたちをサポートする仕組みが整備されたのだ。

さらに、Buskers’ Code と呼ばれる行動規範も定められていて、同じ曲を繰り返さないこと、ボリュームは周囲より少しだけ大きく、寄付は受けてもいいが強要してはならない、など細かい決まりがある(一部の街やエリアではさらに細かい指定もある)。一見、制限が多いように思われるかもしれないが、これは、バスカーが安心して活動することを行政がサポートしていることの現れだと思う。

ひと昔前、私が日本で路上ライブを見ていた時には、警察に中止要請や事情聴取をされる場面に何度も遭遇した。警察の人も「私も音楽が好きだけど、近隣の方から通報されると取り締まらないといけないんですよ」と話していて、切ない気持ちになったことがある

多様な人種や文化が交わるロンドンにおいて、曖昧な常識に頼るのではなく、ルールを明確にすることで、バスカーたちは迷惑行為として通報される心配なく、道行く人々を楽しませるという役割に集中できることだろう。

London Music Life「街を彩るストリートミュージシャンたち」

そして、もう一つ注目したいのは、街の人たちの反応だ。

私がロンドンで暮らし始めたときに感動したのは、通りすがりの人々が自然に投げ銭をする様子だ。それぞれの思いで通り過ぎる場所で、たまたま出会った音楽に、ありがとう&頑張ってね、の気持ちを示す。立ち止まる親子、踊りだす子供、そして親が子供に投げ銭を預け、子供が届ける。こういうささやかなことから、音楽に感謝しお金を払う、というサポートの概念と行動が自然と引き継がれているのだと思う。

音楽は無料のサービスではない。ミュージシャン自身が生活できなければ、音楽は街から消えていき、新しい多様な音楽も生まれなくなるのだ。

最近のキャッシュレス化に伴い、あらかじめ2〜3ポンドに設定されたタッチ決済端末も当たり前となり、ピッと寄付をして通り過ぎていく人も多くなった。

ロンドンに限らず、路上パフォーマンスに出会い、その音楽で心が癒やされたり、明るい気分になったりしたら、一歩踏み出して、投げ銭をしてみてはどうだろうか。そんな一期一会の出会いが、あなたとミュージシャンをつなげ、あなた自身もその街の音楽文化を支えるひとりになることだろう。

London Music Life「街を彩るストリートミュージシャンたち」



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Posted by 鈴木 みか

鈴木 みか

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会社員、元サウンドエンジニア。2017年よりロンドン在住。ライブ音楽が大好きで、インディペンデントミュージシャンやイベントのサポートもしている。