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「ワインだけじゃ、フランスは語れない!」ラクレットチーズ Posted on 2017/01/24 久田 早苗 チーズ熟成士 パリ

日本の皆様にもっとチーズを知って欲しい!

そんな思いから、今月よりチーズのお話しをさせて頂くことになりました。
チーズ屋の裏話やどんなことがチーズの背景にあるのか? 楽しみながら、いろんな視点からチーズの魅力をお伝えしていきたいと思います。

さて、チーズにも当然季節があります。冬にしか生産されない限定品や冬に食べる季節料理など。
今日は最も冬に流通する「ラクレット」についてお話ししたいと思います。
ちょうど日本で言う鍋料理の様なものでしょうか。
家族団欒やごく親しい人達が集まってワイワイがやがやと楽しむ料理です。
レストランでも出されるけど、やっぱり家庭で、好きなチーズを用意して楽しむべきと私は思っています。

「ワインだけじゃ、フランスは語れない!」ラクレットチーズ

1月は「ラクレット」をご紹介します。
ラクレットとはチーズの名前で、約6kgのホール状の山のチーズです。

スイス産が有名ですが、スイスの山に隣接するフランスのサヴォワ地方やジュラ地方でも同じ名前でたくさん作られています。元々は、雪で閉ざされる地方での常備食が伝統料理になりました。常に保存できるジャガイモを茹でて塊りのチーズの断面を暖炉で温め、溶けたチーズを削りそのジャガイモの上にかけて食べるシンプルな習慣が今ではお洒落になって日本にも広まってきました。

この溶けたチーズを削るようにして載せることから、「削る」という意味の「ラクレット」という名前が生まれました。

「ワインだけじゃ、フランスは語れない!」ラクレットチーズ

現在では暖炉にかざすというより専用の家庭用ラクレット器具(テフロン加工の小さなお皿と電熱器のセットをスーパーでも手軽に求めることができます)を使うことがほとんど。その器具でスライスしたラクレットチーズを温め、ソーセージなどを焼いた上にかけて一緒に食べると更に豪華です。

サラミや生ハム、葉サラダなども付け合わせとして一緒に食べるとバランスがいいと思います。
日本人ならお野菜のスライス、玉ねぎや赤ピーマン、ナス、ニンジン、キノコなどを一緒に焼くのもいいでしょう。

「ワインだけじゃ、フランスは語れない!」ラクレットチーズ

フランスではその用意されるスライスチーズが何故か、お一人様200gという想定になっています。
お客様からラクレット4人分 と言われれば、チーズ800gをスライスします。

これは売り手にとっては少々辛い作業なのです。チーズ屋の店内はほとんど暖房をきかせていません。
大きな塊を左手で押さえ、右手で手動スライサーを動かします。
お客様のご要望で、皮付きか、皮を剥したものをご用意しますが、辛いのは皮付きのまま(皮の部分はとても硬いのです)スライサーを動かす時です。
冷たくて手は凍えているのですが、お客様の手前、プロフェッショナルであるべき。
美しい動作で美しいスライスにしなくてはならないからです。
たくさん買って頂くほど辛い作業です。

「ワインだけじゃ、フランスは語れない!」ラクレットチーズ

スーパーでは既にカットされたチーズが詰められて売られています。
更には、ハムやソーセージ付きのものも用意されていたりして、大人数の家庭には経済的ですが、味を追求される方は是非専門店にお出かけください。
厳選されたラクレットが待っていますよ。

また、専門店なら絶対にラクレットチーズだけで済ますのではなく、他にブルーや、シェーヴルなどでラクレット向きのチーズも勧めてもらえます。
お客様のためにその場でスライス、何よりも切りたての香りまで味わえます。
味の良さとバラエティに富んだ美味しい食卓を囲んでください。
チーズをスライスする時のプロの手さばきもなかなかオツなものですよ。

「ワインだけじゃ、フランスは語れない!」ラクレットチーズ

チーズ豆知識   ラクレット (Raclette)

スイスのヴァレ地方で作られたのが始まり。フランス語のラクレ(Racler- 削る)の意味からこの名前がついた。
昔は半分に切ったチーズを暖炉にかざし、溶けたところを削ぎとってジャガイモと一緒に食べていた。

直径約 30cm のホール、牛乳 無殺菌乳、重さ 5.5kgから7.5kg
最低熟成 3ヶ月

弾力のあるセミハードタイプで、組織に小さな気泡が見られる。
味わいは癖が無く、ミルクやバターの香りも味わえる。よく溶けるので加熱料理に使われる。

Posted by 久田 早苗

久田 早苗

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Sanae Hisada
チーズ熟成士 株式会社 久田 取締役 副社長。1985年、東京立川市にチーズ専門小売店「チーズ王国」1号店を開店。2004年にはパリ16区に「Fromagerie HISADA」、2010年にはパリ1区に熟成チーズの販売とチーズカフェを併設したSalon du Fromage HISADAをオープンする。2008年、日本人で初めてのチーズ熟成士最高位の称号「Maitre Fromager」を受勲。2013年にはフランス共和国農事功労賞シュヴァリエ勲位、2015 年にはフランス共和国農事功労賞オフィシエ勲位を綬章。