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森のチーズ、サンネクテールはミステリアス! Posted on 2017/09/07 久田 早苗 チーズ熟成士 パリ

サンネクテールの故郷、オーヴェルニュ地方は、フランス中南部に広がる広大な自然保護区内に位置します。水で有名なヴォルヴィックをはじめとする温泉や火山が多数存在していることでもよく知られていますね。

火山灰の土壌には酵母や細菌が豊富に存在していて、その細菌がチーズ造りに有益な活動を与えます。チーズを長年扱っていても、このサンネクテールの熟成の神秘さにはいつも惑わされてきました。
工場製、農家製など、製造者の違いがそのまま外皮を覆うカビ、そして酵母の違いとなって現れるからです。 
 

森のチーズ、サンネクテールはミステリアス!

かつて、オーヴェルニュの火山灰を利用して作られるチーズのアトリエは「ビュロン」と呼ばれ、山の中に建てられていました。水道も電気もない石造りの山小屋では、すべて手作りが当たり前。
しかし、最近では農家製であっても小規模ながら機械化が取り入れられるようにもなってきたようです。
 

森のチーズ、サンネクテールはミステリアス!

熟成士は工場製、農家製ともに、製造者から出来上がったサンネクテールを引き取り、火山灰の自然カーヴの中で仕上げていきます。
とても興味深いのはカーヴに並んだサンネクテールたち。同じ環境で熟成されるのに、噴き出てくる菌や酵母が違うため色とりどりなのです。
 

森のチーズ、サンネクテールはミステリアス!

熟成庫にやってきたチーズは、2日から5日以内に4〜6回塩水で洗われます。そのあと、農家製(無殺菌乳製)のみ、干した藁の上で熟成されます。藁にも細菌が潜んでいますので、チーズ組織に更に作用していくのでしょう。
そして、4週間から6週間で外皮に特色が現れてきます。

洗いが決め手となった赤いリナンスの外皮、その上に優勢となって現れたミュコール(猫の毛)の灰色の外皮、両者が混じり合った焦げ茶色の外皮、まったく別物のような白カビに覆われた外皮……。
外皮が異なればそれぞれに、柔らかさや味も異なってきます。
 

森のチーズ、サンネクテールはミステリアス!

同じサンネクテールでも、実にたくさん「味の違い」が出来上がるのですから不思議ですね。

あなたはどんなサンネクテールがお好みでしょうか? 
ぜひ、いろいろなサンネクテールを試してみていただきたいです。

グルメの提案として、オーヴェルニュ風に生ハムやサラミ、フルーツをご一緒に。レンズ豆のサラダにあしらったり、ハチミツやクルミと合わせるのも良いですね。
ワインはすっきりとした赤、赤い果実をしっかり感じるものが最高に合います。
例えば、SaintーPouçain などはいかがでしょうか。
 

森のチーズ、サンネクテールはミステリアス!

<チーズ豆知識>

サンネクテールは標高、1000mから1500m級の土壌で育つ土地の牛、主にモンベリヤード(Monbéliarde)やフェランデーズ(Ferrandaise)の乳で作られます。

約1.7kgの円盤型。非加熱圧搾で外皮には様々な細菌が発育して内部組織を作り上げます。

「森のチーズ」としてフランス人には欠かせない需要の多いチーズの一つ。
味の特色は、「湿った藁の香り」や「陽にあたった干し草の香り」と表現されるようにナッティな風味の中に自然の香りを含んでいます。

サンネクテール元帥がルイ14世にこのチーズを献上したことから「サンネクテール」という名前が付けられたという説もありますが、古いチーズとして長年存在し続けています。
AOCとして認められたのも、ロックフォール(1925年)に次ぎ2番目。(1955年に取得)
 

 
 

Posted by 久田 早苗

久田 早苗

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Sanae Hisada
チーズ熟成士 株式会社 久田 取締役 副社長。1985年、東京立川市にチーズ専門小売店「チーズ王国」1号店を開店。2004年にはパリ16区に「Fromagerie HISADA」、2010年にはパリ1区に熟成チーズの販売とチーズカフェを併設したSalon du Fromage HISADAをオープンする。2008年、日本人で初めてのチーズ熟成士最高位の称号「Maitre Fromager」を受勲。2013年にはフランス共和国農事功労賞シュヴァリエ勲位、2015 年にはフランス共和国農事功労賞オフィシエ勲位を綬章。