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「画人と文人のあいだ」パリ個展に向けて、辻仁成インタビュー Posted on 2025/09/20 Design Stories  

   このインタビューは10月13日からはじまる「辻仁成、パリ個展」にむけて、9月の18日、パリ中心部にある「辻仁成のアトリエ」で行われました。不意にwebで新作小説の連載をスタートさせた作家辻仁成と、10月パリでの個展に向けて最終の仕上げ作業に集中する画家辻仁成、2つの顔をスイッチさせてこれまでにないほど精力的創作活動を行うこの2つの貌、TSUJIの秘密に迫ります。まもなく、66歳になろうという孤高の異端児、65歳最後のインタビュー、おたのしみください。(聞き手、デザインストーリーズ編集部、長谷川)

(長谷川)不意にwebで小説の連載がスタートしましたが、正直、驚きました。スタッフも私も、連載小説をやることなど、聞かされていなかったものですから。しかも、毎回、かなりの量ですし、目まぐるしいというのか、急展開の連続で、その辻さんの小説の中では、「オキーフの恋人、オズワルドの追憶」に通底するような、かなり実験的でアバンギャルドな作品のようですが・・・。同時に、来月、大きな個展をパリで開催する、そのようなドタバタしている時期に、なぜ、どんな理由で、小説の連載に踏み切ったのでしょうか? それも雑誌とかではなく、なぜ、web連載だったのかも、あわせて聞きたいのです。

(辻)いや、実は、小説の執筆依頼ってあんまりなくてね、文芸誌とか、もう、俺、オワコンなんですよ。文芸誌って、若い人に芥川賞とらせるのが目的みたいな媒体だから、そういう場所から依頼されることはほぼないし、ぼくはほら、文壇から嫌われているんで、編集者とか、付き合いないんですよ。という現状で、ならば、デザインストーリーズ(辻が主催するウェブマガジン)で配信すればいいじゃんって、なっただけ。デザインストーリーズはじめて10年近く経つけれど、小説の連載したことなかったし、依頼がないなら、自分とこでやればいいじゃん、ってなるの普通でしょ? で、やってみたら、不思議なことに反響もそこそこあって、驚いています。ただ、問題は、自分で書いてアップするのはいいんだけれど、編集者がいないので、本当にここまで書いていいのか、悩むこともあって。そしたら、一人、少年サンデー、月刊サンデーというマンガ誌の編集長を長年務めた「市原武法」という伝説の編集者が知り合いで、この人から、毎日、感想文が送られてくるようになったんです。それが、毎回、かなりの長文で、実に参考になる意見ばっかり、だから、ボランティアで編集担当やってもらえないか、ってお願いしたんです。

(長谷川)え、知らなかった。(ネットで調べるとすぐに名前が出てくる。マンガ界のレジェンドでした)すごい人じゃないですか? この人が毎日、感想文をくださるんですか?

(辻)そう。編集者って、要は、作家にとって、最初の読者なんですよ。イッチーは、配信して、30分以内に、長い感想文を書いて、送ってくださるから、まさに、第一の読者であり、編集者にぴったり。おかげで、張り合いが出ちゃって、最初は、市原さんって、呼んでたんだけれど「先輩からさん付けは嫌です」と言われて、最近は、イッチー呼ばわりしております。すいません。笑。でも、心強くて、毎回、彼に向かって書いているようなところがあってね。そういえば、ぼくが作家デビューした頃は、やはり、文芸誌の編集者さんが、そういう役割だった。「壁打ちテニス」の「壁」のような存在ね。イッチーはもう、ぼくの中では最強の編集者になっている。彼がそっぽ向かないような小説にしたい。また、イッチーはめっちゃ褒め上手なんで、感想文が遅い日は、やきもきしています。笑。

「画人と文人のあいだ」パリ個展に向けて、辻仁成インタビュー

※ 写真、OHNO TOSHIO(CEKAI)

「画人と文人のあいだ」パリ個展に向けて、辻仁成インタビュー



「画人と文人のあいだ」パリ個展に向けて、辻仁成インタビュー

写真、OHNO TOSHIO(CEKAI)

(長谷川)この「泡」という作品、辻さん的には、どんな小説になるのでしょう?

(辻)ようは、あらゆる小説の鋳型に入ってないような、ハチャメチャ、荒唐無稽、と言えば響きは悪いけれど、ジャンルに属さない、絵で言うと、抽象画(アブストラクト)みたいな、でも、物語の筋だけはきちんと存在する、そういう作品目指せればいいな、と思っています。そう言えば、もうすぐ、三田文学(9月末発売の最新号)に100枚弱の中編「前日」が発表されるんだけれど、これなんかはこれまでの辻節が詰まった作品で、「海峡の光」とか「ダリア」に近い、「抑制の効いたシュール小説」なんだけれど、それよりも、もっと弾けているもの、ぶっ飛んでいる作品を書きたかった。主人公が20代の男女というのも、最近のぼくの作品にはない登場人物ですね。舞台も歌舞伎町を彷彿とさせる東京の一隅だし、パリじゃないの。そこも、楽しいんだよね。今は、ぼくの中に、架空の歌舞伎町が存在している。自分の型を壊して、小説の可能性を試してみたい、と思った。

(長谷川)コロナ以降、辻さんは画家として活動してきましたよね。私も日本(三越コンテンポラリーギャラリー)とパリ(20THORIGNY)の2つの個展を観させてもらいましたが、あまりに真面目にやられているので、正直、びっくりしました。芸術新潮で毎回特集が組まれたり、文壇からは嫌われているかもしれないですが、絵の世界はどうなんですか? しかも、パリの個展が来月に迫る中、いきなり、新連載で長編小説を書きはじめた理由ももう少し教えて貰えますでしょうか?

(辻)絵の世界のことはわからないけれど、ぼくはね、小説書き出せば文壇に叩かれ、映画撮影しだしたら映画界に叩かれ、受け入れられた世界はないのよ。だから、絵の世界もそのうち酷評されるでしょう。また、あいつか、みたいな・・・。それがぼくのスタイルなのかもしれない。ま、批評家もね、わかんないでしょ、ここまでいろいろやると・・・。もう少し謙虚にやれれば、「先生」になれるかもしれないんだけれど、ぼくには謙虚さが足りないから、ダメだね。そもそも頭下げられないから。笑。新連載の小説「泡」を今、書かなきゃと思ったのは、この世界が泡のように弾けそうな今だからこそ、を見つめたいと思ったから。儚いこの世界の消えていく、夢とか、幻とか、影とか、泡みたいな人生を描いた大長編小説になる予定で、今、描いている絵と強く呼応している。泡のようなこの現在の世界をぼくは今、キャンバスに叩きつけて描いています。浮世絵を油で描いたら、しかも、パリとかノルマンディで描いたら、どうなるか、ってやってみたら、面白い世界が出来て、パリの個展会場にはそういう作品が並びます。フランス人、どう思うかね。小説の「泡」は、それよりも更に具体的に儚い世界を取り込んでます。終わりは見えない。今、第10回まで書いたけれど、連載をスタートする2日くらい前に、自分の昔の短編小説を読んで、これをベースに書いてみようと思いついたら、いつの間にか連載がスタートしていた、という次第で、あとは日々、ジェットコースターみたいな怒涛・・・。連日、明日がどうなるかわからない、ライブ連載だから、結末なんか知らないし、いつ終わるかもわからないし、毎日、ハラハラドキドキの連続。でも、今のところ、順調で、絵もそうだけれど、小説もある程度流れが出ると、作品の方から、こう書けばいい、と教えてくれるんですよ。不思議ですね。

「画人と文人のあいだ」パリ個展に向けて、辻仁成インタビュー



(長谷川)どういう日々の時間割になっているんですか? 

(辻)朝、6時に起床して、愛犬を散歩に連れ、森を一周するんだ。おしっことうんちをさせないとならない。ぼくのアトリエの周りは、森とか牧草地で、牛とか馬が放し飼いになっている。愛犬にご飯を与えたら、午前中は小説を書く。翌日配信分を毎朝書いて、昼飯のあと、絵に向かう。10月はパリで個展、来年1月に日動画廊パリでグループ展、そして、夏に日本でちょっと大規模な個展を予定しており、絵って、乾くのに1年弱かかるから、今は、来年夏の日本個展の作品を手がけながら、同時に、web連載と毎日、格闘しているっていう感じですかね。

(長谷川)いやはや、辻さん、来月4日、66歳ですよね。身体は大丈夫ですか?

(辻)大丈夫だね。昨日も愛犬と5キロくらい散歩した。よく寝ている。寝ながら、小説や絵のアイデアを考えています。一生、この繰り返しの中で、老いていくんだと思う。まだ、ラッキーなことに、髪の毛も染めないで済んでいるし、裸眼で小説書けるから、神様には感謝ですね。健康を与えて貰えたこと、それが、ありがたいね。今は、毎日、アトリエの畑でハーブを育ててまして、ちゃんと自炊しています。ラベンダーが育っていて、少し、仕事机の上に飾っています。1日2食ですが、美味しいものを食べた日は、創作にもいい影響が出る気がします。とりあえず、元気ですよ。

「画人と文人のあいだ」パリ個展に向けて、辻仁成インタビュー



「画人と文人のあいだ」パリ個展に向けて、辻仁成インタビュー

辻仁成、個展情報。

パリ、10月13日から26日まで、パリ、ピカソ美術館そば、GALERIE20THORIGNYにて「辻仁成展」2週間、開催。

1月中旬から3月中旬まで、パリの日動画廊において、グループ展に参加し、8点ほどを出展させてもらいます。

「画人と文人のあいだ」パリ個展に向けて、辻仁成インタビュー

自分流×帝京大学
辻仁成 Art Gallery



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