ノルマンディ、ツジ村便り
辻村だより、6 Posted on 2025/12/15 辻 仁成 作家 パリ

おつかれさまです。
はい、今日もいろいろと質問、お悩み、届いております。さっそく、考えてみましょうかね。
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匿名希望Gさん。
「もともと、何事も猪突猛進な私ですが、思いがけない身体の不調から、ここ2年ほど思うように動けず悶々としています。体調と仕事の両立が厳しくなり、ストレスもあり会社を辞めました。仕事を辞めたら回復するかなぁと気楽に考えてましたが、治療がうまく進まず、頑張ってきた気持ちもしんどくなりました。 今、出来る事に感謝しなきゃとは思っていますが、日々なんのために過ごしているんだろと、悲しくなってしまう事があります。元気だったら…と、今すぐはできないけど、やりたい事をたくさん考えてしまいます。人生の大波小波を乗り超えてきた辻さんは、思うように動けない時どのように過ごしてきましたか?」
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おこたえしまーす。
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「人間って、思い通りにならないこと、けっこう、ありますね。病気は治すため治療に専念するしかないですが、人間関係、仕事、etc・・・、思うように動けないことは毎年台風が必ず来るようにやってくるものです。ぼくも頭に穴をあけて手術した時、集中治療室で考えました。ここは考えてもしょうない、というのが結論で、お医者さんを信じよう、って。でも、思えば頭の手術よりもっともっと大変なことがありました。そのせいで、思うように反論も出来ず、動けず、耐えるしかない状況というのが何度かありましたね。きっと、そういう運命なんでしょう。とくに一部のメディアや一部のネット民にボコボコにされた時とかね、笑、多勢に無勢といいますが、人間一人の力なんて、世の中に襲い掛かられたら、ま、ひとたまりもないです。でも、それでも生きている。そういう時に、どうせ、いつかは終わる一生なんだから、こういうものに抗っても意味がない、と思い、そうですね、ものすごく小さな世界を見つめるようにしたんです。それは、たとえば、絵でした。その時、小さな画用紙に絵を描いてました。そこに自分を集中させたんです。小さな絵のその一点に目が釘付けになり、世間の下衆は消え去りました。或いは、たとえばそれは料理でした。夢は閉ざされ、自分に何も出来ない雰囲気の中で、これならできるというささやかなものに、他人からとやかく言われないものに、全人生を傾けることにしたんです。それしか、他に出来ることがありませんでしたからね、でも正解でしたよ・・・。それに、子供がいましたから、育児にも専念させて頂けました。とにかく、テントウ虫とかかたつもりのように、目の前のことを一生懸命やる、ことに集中したわけです。野心家だったぼくですが、・・・それは、実は生きる上でとっても大切なことだって、のちに、気づかされました。幼い頃から絵は描いていましたが、他にやることがなくて、絵に没頭出来たことは、あとで、意味を連れてくることになります。そしたら、コロナがやって来た。パリはロックダウンを三回もやりました。完全ロックダウンなんて、家から出られないんです。息子と二人ですから、絵を描いていました。料理もしました。ケーキも作った。学校にいけない息子には、パパと二人でロケットにのっていると思え、火星に行くんだ、そういうミッションだよ、と言いました。なんにもできない時期でした。未来も見えない。しかも、日本じゃなくて、フランスですからね、気持ちを保つために、やっぱり、キッチンに行き、ご飯を作りました。暇だからそれをSNSで発信したら、やがて料理本になり、絵は個展が出来るようになったわけです。でも、ぼくが大事だなと思っていることがあります。丁寧に生きる、どんなに辛くても苦しい状況でも、日々を裏切らず、自分に正直に生きていれば、お天道様は見ている、と言い聞かせることでした。あなたの悩みにちゃんと答えることは出来ませんが、限られた世界でも、ささやかな何かを見つけることは出来るでしょう。もしも、フランスが戦争に巻き込まれ、軍隊がぼくの村までやってきたら、ぼくは地下室に潜り、きっと、一編の詩を書くと思います。絶対書くでしょう、誰かのためにじゃなく、自分のために・・・。昔から、ずっとそう言ってきたんです。独裁世界になったら、表現者なんか真っ先にやられますからね。それでも、ぼくに出来ることはある、と思っていました。地下に潜んで、そこで読者のいない詩を紡ぐのです。おかしいでしょうか、意味がないでしょうか、いいえ、これが意味なんです。最初にこのことを思ったのは子供の頃でした。独裁世界になったら、地下室で詩を書こう。今も同じ気持ちです。与えられた命ですから、その灯が尽きる時まで、人間としてできるその時の最大の可能性を追求したい。ぼくにとってそれは、創作、でした。これからも、きっと、変わらないと思います」

次のお便りです。
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匿名希望Nさん
「村長は旅先で地元の食材を使って料理をすることがあるとお聞きしましたが、調理器具や調味料はどんなものを持っていかれますか。 海外でキッチン付きの宿に泊まって簡単な料理をしてみたいと思っていますが、これは持って行ってよかったとか、持って行くべしと言うものがあれば教えてください」
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おこたえしまーす。
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「ぼくは七つ道具っていうのあって、パレットナイフとか絵の道具を入れる革製のケース、ぐるぐると巻くやつがあるんですが、そこに、木のスプーン(煮物をかき混ぜたり用途様々)、皮むき器、調理用のフォーク(じゃがいもを潰すため)、ワインオープナー、缶切り、菜箸、小型ナイフ(包丁の替わりです)、などが入っています。ホテルにはあまり泊まりません。エアーB&Bが多いです。キッチンがあるところに泊まります。東京滞在中もキッチンがある部屋に必ず泊まっています。旅は多いから、鍋、フライパンを持っていくこともあります。やっぱり、使いやすいものが便利ですからね。旅先では、まず、マルシェに行きます。史跡巡りには興味ないです。マルシェに行けば、その国の人々の暮らし、歴史、などが一瞬でわかります。そして、食材を買って宿に戻り、それで料理をするんです。その国を味わった気分に浸れます。気になった食材はパリにもって帰ることもあります。ポルトガルのマルシェでスープにいれる緑色の菜っ葉があったんで、それを持って帰ったら、パリのスーパーでも普通に売ってました。ポルトガル人が買うんですよ。旅に出なければ、分からなかったことです。それだけ、パリにはポルトガル人が多いということなんですよね」
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質問は募集しています。デザインストーリーズのインスタ、または、エックスに返信で、くださいまし。

2026年の1月、パリの日動画廊で開催されるグループ展に参加します。
1月15日から3月7日まで。結局、11作品の展示となりました。フランス人3人とのグループ展なのに、11作品も、・・・。笑。
場所は、パリ8区ですね。エリゼ宮殿の傍です。
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それから、8月前半に一週間程度、東京で個展を開催いたいます。
今回のタイトルは「鏡花水月」です。(予定)
タイトルは突然かわることがございますので、ご注意ください。
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そして、11月初旬から3週間程度、リヨン市で個展を開催いたします。詳細はどちらも、決まり次第、お知らせいたしますね。
お愉しみに!



