ノルマンディ、ツジ村便り

辻村だより、7 Posted on 2025/12/16 辻 仁成 作家 パリ

おつかれさまです。
フランスはやや暖かい冬を迎えています。
この先はわかりませんが、おととい、息子がやって来たら、Tシャツなのでびっくりしました。(もちろん、ジャケットは持ってましたけれど、持ってるだけ、だとか・・・。若い)
さて、今日もみなさんからのお悩みやご質問にお答えする、辻村だより、開催いたします。
最初の相談がきています。

匿名希望Mさん
「料理をする、作ることは好きなのですが、人にもてなすとなると、自分の味に自信が持てません。いつも少量、大量に作ることもあまりなくて。分量とかはやっぱり経験して作り慣れるしかないですか?辻さん流、これは失敗しないおもてなし術、初心者にはこんなメニューがいいとか、あったら教えてください」

おこたえしまーす。

「確かに、もてなすことに慣れている方が、つまり、回数をこなしている方が、いいにこしたことがありません。
ギャラリーTをオープンして、10人のゲストをワンオペでフルコース出したりしていますが、ぼくの場合は、料理もですが、ふるまうのも好きなんで、たぶん、出来ちゃうんだと思います。
「おいしい」と言われるのが、趣味、なんです。あはは。もちろん、工夫もしていますよ。
じゃあ、10人をどうやって一人で捌いていくか、ちょっと説明します。
まず、大事なのは、お客さんを待たせないことなんです。ギャラリーTはコの字型のカウンターになっているので、中心にぼくがいて、作っては、即、出していきます。これは便利で、サービスがいなくても、やれるから、このデザインを思いつきました。ノルマンディの家も、実はこのコの字型のキッチンになっています。
まず、フルコース分の皿を人数分、カウンターの手前に並べるわけです。アミューズ×1,前菜×2,メイン×2,デザート×1がだいたい、フルコースの流れになりますので、お皿は小さい順に、10枚、20枚、20枚、10枚、という感じで置かれています。メインとかは、お皿を変えた方がいいですね。
で、次に大事なのは、メニューの組み立て方です。
最初に、前もって、アレルギーとか苦手な食材がないか、聞いておくのがベストです。献立を考える上で参考になります。
次に、時間割です。頭から順番通りに作ったりしたら、食べ終わった人たちを待たせてしまうので、あきまへん。すでに調理済みのものなどを用意しておくと便利です。たとえば、メインの2は、煮込み料理にする。前日煮込んで当日仕上げて本番は温めるだけにする。こうすることで、時間を稼ぐことが出来ます。メイン1はパスタとかにしときますが(逆でもいいです)、ソースをあらかじめ作ってちょっと横で軽く温めておくと、メイン1以降は慌てないで済むんです。麺が茹で上がったら、ソースの入った鍋に麺をぶっこみ完成ですからね。仕込みはこれも、前日かもしくは当日早い時間がいいでしょう。そして、デザートはぼくがよくやるのは「ほうじ茶のブランマンジェ」ですけれど、これも前日に作り、冷蔵庫にしまっておけば、余裕のよっちゃん、ということになります。
話しは戻りますが、アミューズなんかは、ちょっとしたもので、お客さんがぞろぞろやって来て着席するまでの暇つぶしくらいに考えておくのがいいいです。だから既製品なんかを混ぜると便利です。ぼくは、バケットを薄切りにしてバターを塗り、その上に缶詰のいわしを載せ、七味のような唐辛子の粉をふりかけたものなんかをちゃちゃっと配ります。この料理はフランスのカフェで普通に出ているもので、もう、用意しておけば、時間稼ぎになります。前菜がフルコースの勝負になりますね。メインは煮込み系で時間稼ぎをしているので、見せ場も前菜ということになるでしょうか。エンターテインメントとしても、喜ばれます。たとえば、前菜1はこれも前もって作っておく、パテ型とかに野菜をいれてジュレで固めたものを目の前で切り分け、野菜とかソースを散らして、華やかに見せつけてあげますと、お客さん「おお、綺麗」とかになります。前菜の2は、最近、ぼくは寿司に凝っているので、握っちゃったりします。なかなか、寿司は難易度が高いですよね。でも、いきなり、握りだすと、みんな食い入るように見てきますので、見せ場としては最高です。揚げ物とかでもいいですよ。香りが、華やかですからね。あ、寿司の場合、握る前に、よく手を洗うのを見せ、ビニール手袋でも握れますが、どうしましょう、と訊くのがマナーですね。
ということで、何が言いたいか、と申しますと、時間稼ぎが出来る料理を挟んで、見せ場では見せつける、ということにつきるわけです。いかがでしたでしょうか? 頭の中で設計図をつくり、食べている人の様子をみながら、間を開けないように出せるようになると、一人前、です。あはは。なんの一人前? 」

辻村だより、7

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次のおたよりです。

匿名希望Gさん
「今、地元図書館で「白仏」を借りて読んでいます。以前「日付変更線」を読んだときも感じたことですが、戦争の時代のことを資料をたくさん読まれたり、調べたりされてすごいなと思います。このような作品を書こうと思ったときに、どのくらいの準備期間が必要なものなのでしょうか。今書かれている「泡」は、どんどん浮かんでくることを書かれているのと言われていますが、基本的にはどちらのスタイルがお好きですか」

おこたえしまーす。

「これは作品によります。確かに、「日付変更線」は取材に時間がかかりました。ハワイにも行き、フランスのストラスブールにも行きました。第二次世界大戦の激戦地だったブリュイエール村にも行き、日系兵の慰霊塔で手を合わせてきました。「白仏」という作品は実話をもとにしているので、両親に取材をしました。とくに、母の方の一族の話だったので、母さんへの取材は必須でしたね。会話も筑後弁だったので、そのリライトを両親に頼んだりもしました。逆に、今、このサイトで連載中の「泡」ですけれど、取材はゼロで、いきなりスタートしています。ただ、物語の進展によって、いろいろと調べたりはしますが、史実を重視する歴史小説とは違い、こういう青春小説において大事なことは、史実よりも、内実だったりするので、読者の持っている空想力を刺激することに集中しています。どちらも書き方が異なりますが、そこは作家の仕事ですから、どちらも好きです。芥川賞を受賞した「海峡の光」は函館少年刑務所で働く人に取材をしました。同級生だったんです。中には入れなかったので、刑務所内のことは資料を基にしたり、空想力で描きました。小説の嘘というのは、作家次第で本当になるんです。小説は嘘じゃなく、空想、なんです。空想が出来ていない作品は小説とは言わないかもしれませんね。読者がその世界にいつしか引きずり込まれ、ぼくが描いたことさえ忘れて、その世界に没頭された時、作家は、いつも小さく微笑んでいるのです」

辻村だより、7

※ 皆さんからの質問などは、デザインストーリーズのインスタ、もしくはエックスに返信でくださいまし。



辻村だより、7

2026年の1月、パリの日動画廊で開催されるグループ展に参加します。
1月15日から3月7日まで。結局、11作品の展示となりました。フランス人3人とのグループ展なのに、11作品も、・・・。笑。
場所は、パリ8区ですね。エリゼ宮殿の傍です。

それから、8月前半に一週間程度、東京で個展を開催いたいます。
今回のタイトルは「鏡花水月」です。(予定)
タイトルは突然かわることがございますので、ご注意ください。

そして、11月初旬から3週間程度、リヨン市で個展を開催いたします。詳細はどちらも、決まり次第、お知らせいたしますね。
お愉しみに!

辻村だより、7

辻仁成 Art Gallery
自分流×帝京大学