ノルマンディ、ツジ村便り
辻村だより、16 Posted on 2026/01/05 辻 仁成 作家 パリ
おつかれさまです。
先日、若さを保つことについてここに書かせてもらいましたが、それを読んだ某担当編集者さんから、辻さんが使っているクリームを知りたい、とメールが来たので、びっくりしました。笑。
しょうがないなー、恥ずかしながら、秘密をあかしますね。
二・べ・ア!
けっこう、万能で、いいですよ。
油絵具って、なかなか石鹸で落ちないんです。特殊な石鹸で落とすんですが、手がかさかさなになります。ニベアを塗るとしっとりします。ニベアの回しものじゃありません。顔は顔用クリームですが、・・・。笑。
では、さっそく、今日も皆さんからのご相談やお悩みに答えてまいりたいと思います。
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匿名希望Lさん
「辻さんは昔から腕時計をしない、とおっしゃっていますし、時間は作るもの、とよくラジオでも語っておられましたが、遅刻をすることはないんですか? 締め切りに遅れるとか、時間をどのように扱っているのか、知りたいです。そもそも、時間って、なんでしょう」

はい、おこたえしまーす。
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「締め切りに遅れることも多少はありますが、だいたい、依頼が来た日に書いておいて、締め切りの催促メールが届いたら、それに返信する形で返すので、時間に追われたことがありません。腕時計はしませんが、必要な時間は携帯のアラームを使いますので、飛行機とかに乗り遅れたこともありません。時間というものは、人間が作った尺度だということは皆さん知っている通りで、大昔、欧州の町に時計台が出来て、時間を人々が共有するようになり、それにともなって、仕事の時間が決まったり、食事の時間が決まったりしていったわけです。
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日本とフランスのあいだには、7~8時間の時差がありまして、そもそも、同じ時間に昼食を食べることはないんです。時間はその地域や国ごとに違っているのは地球の形状のせいもあります。つまり、概念なんです。基準ということも出来るし、人間がバラバラに行動しないように生み出された尺度なんです。ぼくの父親は猛烈サラリーマンでした。仕事の鬼で、保険会社が出来た頃の最初の会社員でしたから、腕時計を睨みつけてバリバリ働いていました。それをぼくはみて、子供ながらに、時間は人間性をむしばむと感じたわけです。早い時期に気が付いたので、腕時計をしない、という選択をします。潔かったですね、昔から・・・。笑。小学生の頃ですからね、だから今まで一度も時計にあこがれを持ったことがないんです。一つだけ、自分で買った時計があるんですが、短針しかついてないやつでして、こりゃあ、皮肉が効いているな、と愉快になって、買わせて頂きました。今も、机の上にあり、ねじをまいてないので、永遠の静止の中にあります。
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昔、アフリカに昨日も、明日もない部族がいました。彼らにとって昨日も明日も一日分ずれた時間という概念なんです。つまり、昨日と明日が同じなんですよね。面白くないですか、この考え方。(「明日の約束」というぼくの短編にそのことをちょっと書いたことがあります)人間は時計を作り出し、時間に支配されてから、規律の中で生きることになります。それは素晴らしい点もありますね、とくに倫理面とか、真面目に生きないと仕事が出来ないわけですから、しかし、時計をしないぼくは人の何倍も創作をします。何時に何かをしないとならないというのが、とくに、ノルマンディのような田舎にいると、自分任せになるから、どこまでも時間を生み出せるわけです。太陽と月をみながら、古代人のように一日を感じて生きています。そうなると、時間は無限になるんです。
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昨日、若さの秘訣のような話をしましたが、時間概念から出来るかぎり自由になることを選んだ時に、可能性がぐんと増えた気がします。知り合いに、「時間がないんだよ」が口癖の人がいました。自分も忙しいふりをしていた時に使ったことのあるフレーズですが、今は使いません。「時間は作るもの」だと気がついちゃったからです。時間の概念を少し変えるだけで実は時間は無限に手に入れることが出来ます。そもそも、終わりがないんです。この話は長くなりますが、人は生まれた時の記憶がない。同じように、死んだ後の記憶もない。死にそうだ、というのはあるかもしれませんし、臨死体験ですか、それを口にする人も稀にいますが、基本、普通のぼくらには、生まれた時の記憶、死ぬ時の記憶がないわけです。よく考えてみると、ならば、生まれてもいなく、死んでもいない、と言えるかもしれない。周りで人が死ぬのを見るので、いずれ自分も死ぬんだ、と思い込んでいくんですが、宇宙の支点を自分の中に持つと、そこには永遠だけがあることがわかります。この話は、ここに書いて理解を得られるような話ではないんですが、ぼくはそういう「限りある世界を限りなく生きる」ことを「永遠」だと思うようになって生きています。時計をしない人生を選んだ時に、気が付いたわけです。ぼくは様々な創作をして生きていますが、これらも概念をとっぱらっているので、無限の時間の中で、創作をしているような気がしています。皆さんが、ぼくのこの考え方を理解出来ないのは、当然です。長いこと、腕時計をしてきた皆さんにこの話は頭のおかしい人のたわごとと思われても仕方がないですからね・・・、でも、時計や携帯を持たない速度で生きている人もいるし、その人たちの時間はどのような膨らみがあるのか、想像をしてみると面白いかもしれません」

はい、あと、10日ほどでパリの日動画廊にて、グループ展がはじまりますね。いつも、気が付くと始まり、気が付くと終わる・・・あはは。秋に個展が終わったばかりのような気がしますが、来週には絵を画廊に搬入するためにパリに出むきます。笑。
絵は全部、ノルマンディのアトリエにあるので、12作品、小作品ばかりですが、運ぶんですよ、自力で。
フランス人の他のアーティストがどういう作家か分からないですが、日本でも有名な日動画廊さんですから、名だたる方々なのでしょうね。無名の父ちゃん、がんばらなね、楽しみです。
ブリストルホテルとエリゼ宮殿のちょうど間くらいのところにある画廊で、日本の日動画廊系列ですが、歴史ある独立した画廊だそうで、通りに面したウインドーに最初の1,2週間はぼくの絵を飾って貰えるようです。絵が売れるとお客さんがその場で持って帰っちゃうらしいので、なかったら、ごめんなさい。フランスの画廊って、会期中でも持って帰っちゃうんだな、と驚いています。生きているといろいろ経験出来るので、楽しいですよね。発見と驚きの人生のただなかにいます。
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あと、海峡の光が、電子書籍化しました。日本から遠く離れて生きている日本語人の皆さん、ぜひ、読んでみてください。この表紙の絵もぼくの作品です。タイトル忘れちゃいましたが、60号の大きな作品です。
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海峡の光 (Kindle電子書籍版)
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今日はこれから、小説「泡」の直しに入ります。大幅に書き直しているので、これもまた、出版が楽しみですね。いつまでも、物語の中で生きていられるので、この仕事でよかったです。今日はまだ人と会っていません。ひきこもり、大好きです。時間、無限。自然の中にて、ひとなり。
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