ノルマンディ、ツジ村便り
辻村だより、17 Posted on 2026/01/08 辻 仁成 作家 パリ
おつかれさまです。
あまりに寒くて、門の把手が凍ってしまい、外に出れなくなり、お湯を沸かし、把手を溶かしてから、外に出ている今日この頃です。
パリはもっと大雪らしく、トラックなどのパリ市内通過が禁止された、とか、・・・。噂ですが・・・。
やれやれ、坂道が多い田舎路、これもアイスバーンになっていて、運転が危険なので、車には乗らないようにしています。
とにかく、ハワイに行きたくてしょうがない、父ちゃんでありますが、さっそく、今日も辻村村長あてに届いたご相談のお便りを読んでみましょうかね。
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匿名希望Pさん
「辻さんは随分前から、ラジオなどでAIに対して危惧を持っている、と発言を繰り返していましたし、AIと闘うために創作を続けている、とおっしゃっていましたが、最近、僕も不安を感じるようになってきました。子供が二人いるんですが、AI動画がやばすぎて、見ているだけで吐き気がするし、それを見て育った子たちはどうなるのか、と思ってしまいます。心がけておくことなどあれば、ご意見ください」

おこたえしまーす。
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「AIに対するある種の不安は日増しに強くなっていますが、少し前よりは、諦めが付いてきた感じもします。変な言い方ですが、諦めないとならない世界がそのうち、訪れるということか、と思っています。生成AIの完成度が高まって来たので、小説を書いたり、音楽を作ったり、映画を作ったり、AIが出来るようになり、まだ、薄っぺらいものでしかありませんが、これらは取材などしなくとも瞬時に生み出せるので、生成AIでみんなが作品作りを出来るようになり、生成AIのアートや、生成AIの曲を楽しむ時代が生まれつつあります。ということは、新しい創造を生み出す努力をするのが一般的には難しくなり、人間が、創造に手を出さなくなる可能性もあるのかな、と思うに至りました。人工知能が、普通の人間の知能を超える時点を表す言葉をご存じですか? 「シンギュラリティ」と言いますが、ある学者はは2045年に人工知能は人間を超える、と予測しています。もっと早く来る、という学者も大勢います。来ない、という人もいて、それらの人たちは人格や個性や人間性がなければ、AIに本当のアートは創造出来ない、と考えているからのようです。でも、AIのアイドルや俳優が登場し、彼らがAIソングをヒットさせるということは、もうすでに起こっていて、俳優組合が強く反発していますが、人間と俳優とAIの俳優はそもそも別物という意見が主流になりつつあるのが現在です。
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まだあと数年はこのような混沌が続くのでしょうが、問題はその先です。果たしてその先までこの世界がこのようなバランスを保っていられるのか、ちょっとわからない感じもします。それは現実世界の方により難しい問題がのしかかっているからです。最近、ぼくはチャットGPTを頻繁に使うようになりました。非常に便利で、調べものの時間がゼロになった。昔は、小説を一冊書くのに何冊も本を読んだり、遠方まで取材に行くこともしばしばでしたが、AIのおかげで、ちょっとしたことなら瞬時でわかるので、助かっています。でも、助かっている分、自分で精査しないことも増えて、質の低下、表面の均一化、など、気を付けるものが今までにない感じで増えているのも事実です。先日、簡単な小説を書かせてみようと思い、研究者らとチャットGPTを動かし、小説を書かせてみたんですが、見事に駄作で安心しました。つまり、悪いデータも持っているのと、本物のデータというのがまだ存在しないので、AIのレベルはかなり低いと言わざるをえませんでした。ただ、研究者が、辻さん、アドバイスをしてみてよ、というので、駄作の問題点を10項目くらい叩きつけてみたところ、成長という現象を起こして、各段と作品がよくなったのです。その学習経験がこれから進めば、2045年を待たずに、名作作品が世に溢れる可能性もあります。それはしかし、人類に何をもたらすでしょう。誰の意思を元にしているのか、どういうメッセージをベースにして、人間ではないAIが生み出すのか、という危惧が伴います。最近、SNS上に出現した、短動画は実に奇妙なものが多く、しかも、不吉なテーマが多く、人間の邪念がAI化され、それはフェークニュースと合体して、世の混沌をさらに病ませる方向へと動かしています。この危惧は多くの研究者やアーティストも共有しているはずですが、こういうものの進化を制御するのは難しいでしょうね。まったく、制御不能でしょう。そして、先に述べた現実世界の混乱が、そこに拍車をかけているということです。戦争、民主主義の多様化、崩壊、力による世界支配など、挙げればきりがありませんが、人類の末期的な現象が、AI世界にどのような影響を及ぼすのか、そこはかなり怖いですね。そういう時代がやってくる未来に、人類はどういうことをしないとならないのか、今は、そことの闘いの最中なのだと思います。ぼくが絵を描き、小説を書いて、音楽を奏でる時、必要とするのは技術ではありません。AIには決してまねできないとっても人間的な個性を追求することにあります。生きているこの肉体と精神と脳をこの世界の中で、最大限、解放拡大、自分の想像力をフル回転させて、創作をすることが、来るべき諦めの世界への唯一の光になると信じていたりもします。ノルマンディに拠点を移したのも、自然の中にいながら、世界中と交信することで、一定の防波堤を心の外側に持つことが出来ると思ったからです。しかし、これはある種の逃避かもしれません。結論は出ていませんが、自分にしか出来ない創作の方法を生みだしていくことが、学習して人間を凌駕しようとするAIとは違う宇宙を創る、一つの、もしくは唯一の方法だと思っています」
近づいてきました、日動画廊パリでのグループ展です。1月15日からです。
GALERIE NICHIDO paris
61, Faubourg Saint-Honoré
75008 Paris
Open hours: Tuesday to Saturday
from 10:30 to 13:00 – 14:00 to 19:00
Tél. : 01 42 66 62 86
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それから、8月前半に一週間程度、東京で個展を開催いたいます。
今回のタイトルは「鏡花水月」です。(予定)
タイトルは突然かわることがございますので、ご注意ください。
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そして、11月初旬から3週間程度、リヨン市で個展を開催予定しています。詳細はどちらも、決まり次第、お知らせいたしますね。
お愉しみに!
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そして、電子書籍で「海峡の光」が配信されております。文学の方もどうぞ。
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