ノルマンディ、ツジ村便り

辻村だより、22 Posted on 2026/01/21 辻 仁成 作家 パリ

おつかれさまです。
今日の辻村だよりには、ちょっと面白い、ご相談がございました。
こちらになります。

匿名希望Jさん
「はじめまして、50歳とちょっとの主婦です。子供が大学生で、まだ、自宅にいます。なので、主人と息子のごはんを作っています。それは別に仕方ないかな、とは思います。自分しか、ごはんを作る人間がいないからです。義務なのかな、と思うこともしばしばあります。でも、正直、何を作っていいのか、悩むことが多いです。辻さんの今日の献立をすごく参考にさせて頂いておりました。それでお聞きしたいのは、日々の献立を、辻さんはどのように考え、作られていたのでしょうか? 息子さんが大学生になり、料理をするようになった、という日記を読むにつれ、自分も頑張らないと、と思う今日この頃なのです」

辻村だより、22



おこたえしまーす。

「まず、キッチンはあなたにとって、なんでしょう? ぼくにとって、キッチンは自分を取り戻すための場所でしたし、自分を見つめ直す場所でした。シングルファザーになって、みなさんに、いろいろと大変ですね、と言われましたが、子供がおいしいと言ってくれる人生を与えてくれているのがキッチンだと思うと、義務だとか、そういう風には、むしろ、思えなかったです。キッチンがなければ、自分は居場所もなかったんじゃないか、と思います。まな板に食材を載せ、料理と向き合う時って、申し訳ないですが、そこはぼくの聖域でした。美味しい、と言ってくれる人がいることの幸せを嚙みしめる場所でした。今、息子は巣立ち、ガールフレンド君と生活をしているようですが、彼が自分の本領を発揮できる場所はやはりキッチンのようです。作った料理の写真を送ってくれます。それが、ぼくにも作れないような凄い料理だったりするわけで、・・・。でも、考えてみたら、父ちゃんが料理する姿をあいつは見てきたんだな、と思ったりも、ちょっと、します。それが今、彼を料理男子にしているわけです。それって、幸せなことじゃないですか? 今は一緒に暮らしていませんが、彼が受け継いだものは、愛、だったのです。美味しい=愛、なんですよ。そこに義務とか、損得とか、ないんです。だから、奥さん、あなたが作った料理に、美味しい、と言ってくれる人が二人もいることを、幸福、と呼んでください。ある時には面倒くさいものであっても、去った後に、その意味の大きさを知ることになります。大変だ、と思うなら、それだけ偉大なことをしている、と思ってください。父ちゃんには、わかります。日々の献立は、愛する人をもっと愛するための習慣なんですよ。義務なんかじゃない。
「うーん、美味い!」
と息子が、唸った時にぼくはガッツポーズをしてきました。それこそ、幸福な記憶です。感謝をすることを忘れないで、毎日を、コツコツと生きてまいりましょう。父ちゃんはいつもSNSとかで『自分を大切に』と言いますが、自分というのは、周辺の方々の中にあってこその自分でもあります」

辻村だより、22

※ 息子君がつくった、「はまちのカルパッチョ」だそうです。これ、マジか、と思いますよね。凄すぎて、びっくりぽん。笑。み、見習いたいです。



辻仁成展覧会情報

フランス日動画廊パリでのグループ展に参加中。3月7日まで。途中で、作品が入れ替わる予定です。
GALERIE NICHIDO paris
61, Faubourg Saint-Honoré
75008 Paris
Open hours: Tuesday to Saturday
from 10:30 to 13:00 – 14:00 to 19:00
Tél. : 01 42 66 62 86

それから、8月5日から、一週間程度(予定)、三越日本橋本店特選画廊Aにて、個展を開催いたいます。
今回のタイトルは「辻仁成展、鏡花水月」です。

そして、11月初旬から3週間程度、リヨン市で個展を開催予定しています。詳細はどちらも、決まり次第、お知らせいたしますね。
お愉しみに!

そして、電子書籍で「海峡の光」が配信されております。文学の方もどうぞ。

海峡の光 (Kindle電子書籍版)
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辻村だより、22



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