ノルマンディ、ツジ村便り

辻村相談窓口、「人生の岐路」 Posted on 2026/02/26 辻 仁成 作家 パリ

おつかれさまです。
窓口、開きます。
今日はデザインストーリーズのインスタにものすごく長いご相談が届いておりましたので、ご紹介いたします。

匿名希望さん
「私は在イタリア27年で、子どもは大学院生と大学生です。子どもたちが大きくなったのを機に、日本に一時帰国しました。
帰国の目的は、日本語教師の資格取得と、経験としての学校勤務、そして父が3年前に亡くなった後、母が引き継いだもののうまく回っていなかった不動産経営の立て直しです。その一環として、簡易宿所の民泊の部屋を一つオープンしました。
日本にいるとやることは多く、わずかながら定期的な収入も得られています。
今回、クリスマスに1年半ぶりでイタリアへ戻りましたが、子どもからは「自分たちは将来を決める大事な時期なのに、そばにいない」と言われました。一方で、主人はあと一年半で早期定年退職を予定しており、「自分も日本でゆっくり過ごしてみたいので、もう少し日本にいてほしい」と言います。
4月から7月までは、娘が交換留学で日本に来る予定なので、その終了を区切りに一緒にイタリアへ戻ろうかとも考えていました。ただ、実家や不動産のことは結局姉に任せきりになってしまいますし、主人の希望もあり、どう判断すべきか決めかねています。
ちなみに、同居している88歳の母とは、先日大きな喧嘩をしました。長い同居はお互いにストレスになっていると感じています。
子供の自立期、私の人生の後半戦の立て直し期、主人の人生後半戦始まり、実家の母と絡まってきて、子供には安定をあげたい、でもこちらは過渡期で不安定、どこに軸を置けばいいか悩んでます」

辻村相談窓口、「人生の岐路」



おこたえしまーす。

「実に切実で難しいご質問で、こたえられるか、ちょっと自信ないですが、一緒に考えましょう。あなたの問題は、ぼくが抱える悩みにも似ています。ちょっと整理してみましょう。
1,子供の自立期、
2,私の人生の後半戦の立て直し期、
3,主人の人生後半戦始まり、
4,実家の母と絡まってきて、
5,子供には安定をあげたい、
6,でもこちらは過渡期で不安定
いっぺんにこれだけの難問が降りかかっているのが分析でわかります。ぼくも多分、ご主人と同世代くらいの年代じゃないか、と思います。フランスで年金が支給される年齢になってしまいましたからね。自分でも驚いています。ぼくには子供が二人おりまして、一人はもう30歳を超えて社会に出て頑張っています。下の子はいろいろとありましたが、今は大学生で、進路で悩んでいます。その子が小中学生のころ、ぼくに言ったのは、『日本には戻らないでほしい』でした。一人にしないで、ということです。わかった、と言いましたが、その頃のぼくは更年期障害っぽい鬱が続き、離婚直後でしたからね、非常に重苦しい時代でもありました。高齢の母は弟が一緒に暮らしてくれておりまして、弟がぼくの仕事も手伝う形で、なんとか現在まで家族を守ることが出来ています。この年齢になると、国は違っても、同じような問題が降りかかってきますし、もっともっと過酷な人生を生きている方々も大勢います。答え、と言いましたが、はっきりとした答えや正解はありません。日々をなんとか、ごまかしごまかし、やっていくしかない。ぼくも人に自慢できるような状況では一切ありませんでしたが、気が付けば、なんとかやっています。長男には子供もでき、奥さんが素晴らしい人なので、ぼくの心は、その奥さんから送られてくる家族の写真によって、慰められることもあります。下の子は就職を前に日々、この国で生きるためのきっかけを探す毎日です。パリに戻るのは息子と話すためだったりします。話すことしかできませんが、そして、彼の将来像をきいてやり、出来ることを出来る限りやってやることしかできません。でも、お金だけ出せばいいということではないので、本人も、親に頼らないで自分でやる、と頑張っています。ここは、見守るしかありませんね。ダメな時はパパに頼りなさい、と言っております。きっとなるようになる、と信じ、向き合う時は出来るだけ真剣に向き合うよう心がけています。90を超えた母は、2歳年下の弟がみていますが、彼も独身なので、弟のことも心配しています。実家はぼくの家ですが、弟が生きているあいだは、使ってもらいたいと思っています。ぼくが働くことで家族を守ることが出来ているのであれば、ぼくは頑張らないとならない、と思っていますが、これも、なるようにしかならない、ですね。いつも忙しくないと自分が保てない病のぼくなので、人のもめ事の仲裁から、人の起業の手伝いから、数々の創作、本当に時間がないくらいに、頑張っているのですが、ふと、自分が空っぽになる瞬間もあります。けれども、ぼくとあなたとの大きな違いは、3番でしょうか。
3,主人の人生後半戦始まり、
あなたはぼくよりも、一つ、大きな支えが傍にありますね。こういう比較はよくありませんが、長く連れ添ったご主人はあなたを必要としているし、まずは、そこがあって、よかったんじゃないですか? 子供たちは巣立ちます。自力でやらないとなりません。ご主人と、力を合わせられる時はお互い頼り合ってください。素晴らしいことです。でも、最後は、すべての人間、一人なんです。子供たちも、親も、・・・。逆を言うならば、今、ですよ、もっとも大事な瞬間は、この悩みを抱えている今です。まだ、なんとかなっている、もうちょっと頑張ってみようと思って、明日に向けて今日を精一杯生きるしかありません。なるようにしかならない、という言葉は身も蓋もないように聞こえるかもしれませんが、そうやって人間はあらゆる世代を渡って来たのです。終わる時は終わりますから、心配することもないでしょう。大事なことは、今、この瞬間です。あなたと一緒に暮らしたいと言うご主人と、笑顔で向き合ってください。あなたが羨ましいです。たぶん、読者さんの中には、自分よりは幸福だわ、と思っている人も大勢いるんじゃないでしょうか。よいところを見つめてください。子供たちの言葉は、愛されている証拠だと思って・・・」

辻村相談窓口、「人生の岐路」



辻村相談窓口、「人生の岐路」

はい、お知らせとしましては、校長になった、ということで、こんなに忙しいのに、もっと大変なことを引き受けてしまいました。人生100年の時代です。後半の人生を実りあるものにするために、アートの輪郭をこの学校でなぞってみてください。創造性が育まれることでしょう。あらゆる年代に門戸は開かれております。

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「帝京×パリ、オンラインアートカレッジ」HP

https://teikyo-paris-art.com/

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