ノルマンディ、ツジ村便り

辻村相談窓口、「時間を操る方法」 Posted on 2026/03/17 辻 仁成 作家 パリ

おつかれさまです。
さっそく、窓口を開きますね。早っ!

匿名希望Lさん
「いつだったか辻さんは時間に支配されたくないから時計をしないとお話なさってましたが、なのに、ものすごく時間を操っていらっしゃると思います。創作も物凄くされているし、このブログも、読者が追い付けないくらい毎日休むことなく書かれていて、料理だっていつも美味しそうなものを作ってらっしゃるし、私は仕事のあと、とても料理なんかできなくて、辻さんの時間の使い方、考え方、生き方、ちょっと怖いくらい知りたいのです。人間って何か、分からなくなります。自分って、何か、時間って何か、わからないことだらけですが、ラーメン博物館には行きます。あれも、こんなに忙しいのに、日本までいらっしゃるんですよね? 時間との向き合い方、気になって仕方ありません。教えてください。よろしくおねがいします」

辻村相談窓口、「時間を操る方法」



おこたえしまーす。

「ここで何度も書いたので、まとめる感じでお話をしますが、時間に支配されたら人間の負けです。実は時間というものは人間が考え出した概念であり基準に過ぎないですが、そこから自由になろうとは考えても無駄なので、逆に、時間を操ってやろう、時間を増やして見せよう、時間を自分が思うようなものに変えてしまおう、とそもそもの向き合い方を変えてみるといいかもしれません。世の中的な時間の流れを縦軸に置いたら、自分の時間を横軸にして、縦軸はその通りに生きつつ、自分が自由に出来る時間が横軸なので、そこは好き勝手に動かせばいいんです。かんたんに言いますと、三四郎の散歩は朝しないとなりませんから、そういう規則的なものは人間界の時間と掟に従ってやっちゃいます。でも、それ以外は自分の時間なので、横軸は無限にあると意識するんです。人間は、この意識のコントロールが下手なんだと思います。意識出来たら、もう、時間はあなたのしもべですよ。時間から解放されますよ、ほんとうに。
そもそも、昔から何度も言ってますが、自分の生まれた瞬間を誰も知らない。自分が死ぬ時はわかるかもしれませんが、本当に死んだかどうか、その後、わかりません。このくらい、生というものは、曖昧なんです。なのに、時間を押し付けられている。よく考えてみてほしいんですが、科学者が言うビッグバンとか、宇宙の果てとか、必要ですか? 興味はあるけれど、必要ないですよね? 24時間を一日と決定したその時から、人間はこういうルールに締め付けられて生きるようになったんです。でも、考えてみないでいいから、想像してみてください。時間なんかないんだって、天国も地獄もないじゃないですか、同じように、時間もないんです。ぼくらには意識というものがありますけれど、その意識ってなんですか? 自分が何者かをこの世で体験しているめっちゃくちゃ自分中心的な感覚のことですよね? それがこの宇宙の本質なんだって、思えば世の中との向き合い方が変わります。自分の中に宇宙があると意識革命をおこせばいいんです。え? 難しい? あはは。じゃあ、話を変えましょう。下の写真でもご覧ください。上のが、昨日の日記で書いたポークブルギニヨンです。そして、下のが、今日のランチで食べた昨日の残りものをスパゲッティにかけたものです」

辻村相談窓口、「時間を操る方法」

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「一日経つと豚肉がほろほろになって、ものすごく美味しく変化しました。縦軸のルールに従って、弱火で午前中煮込んだからです。そして、昼食になったら、昨日よりも、うんと美味しい豚の赤ワイン煮込みに変身してました。それを生麺にかけて、食べたんです」

辻村相談窓口、「時間を操る方法」



「自分という宇宙の中にいると意識してください。その宇宙を操っているのは、自分だと意識することで、ぼくらは概念としての時間からある程度自由になることが出来ます。この煮込みを美味しくさせている間に、ぼくは木炭画や油絵を描き上げました。夏の個展の配置図も作ったし、フランスのバンドで歌う自分のパートの歌詞も考えました。英国やアメリカや世界中の人と仕事のやりとりもやりました。何より、新しい創作について深い考察も出来ました。それとは別に、アートカレッジの先生とやり取りもし、一風堂の人とラーメンを作る上での、特にハーブの量についての議論とか、笑。ついでに、その合間に、寝ています。6時間くらい、寝ました。朝は三四郎と散歩に行き、そうですね、詩も書いています。で、ランチの時間になったので、鍋の火をとめて、麺を茹で、お皿に盛ったら、こんなに美味しいものが出来上がってました。これ、普通にやれます。概念を壊すことが出来ればです。

思うことがあるんです。科学のことはいったん横においといて、人間の意識はとてつもない共時的リンクで繋がっていて、この世界と重なるように存在するもう一つの異界なんかがあり、私たちは一時的にこのような現実と呼ばれる世界に置かれているのじゃないか、その束縛を「概念」というのじゃないか。本来の世界、異界には概念がないのかもしれない。ぼくは、その異界を意識して、この世の中で生かされているようなことに気が付きました。昔、撮った映画「醒めながら見る夢」で、そういうことを描こうとしたんですが、うまくいきませんでした。京都に行くと、現実界と異界が重なって、ぼくには見えたんですね。

・・・。
難しい話ですね。ただ、この説が本当かどうか、疑わしいですが、ポークブルギニヨンスパゲッティは時空を超えて、最高の出来栄えになったのは事実でした。気が付いたら、ぼくは時間を支配し、時間をなぎ倒し、サバおりにして、時間をぶんなげて、牛耳ってやったわけです。
まんざら、この説は正しいと思っていますよ。いいですか、苦しいものはすべて縦軸にあります。あなたが、魂の部分で幸せを目指すなら、横軸の世界の拡張を試みてください」

辻村相談窓口、「時間を操る方法」

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お知らせも、ある種の概念です。笑。
ラーメン博物館での「対麺」イベント、チケットはこちらです。天下無双のポルケッターメン、気になりますよね。

https://note.com/preview/n140dda70d0e6?prev_access_key=dbd8f2a5eeaaee47588a0d7e01e2e747

3月18日に、エッセイ集「キッチンとマルシェのあいだ」光文社。待望の新刊です。料理雑誌「ダンチュー」巻頭5年分の連載が一冊に!!!必読。
3月30日、新横浜ラーメン博物館にて、「対麺」プロジェクト。金曜日、チケット発売します。
8月5日から三越日本橋本店特選画廊A全面で「辻仁成展、鏡花水月」。
9月4日、小説「泡」、集英社。
11月、リヨンで個展。
他、いろいろ。

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