ノルマンディ、ツジ村便り
辻村相談窓口、「とりあえず、次の電柱まで」 Posted on 2026/03/18 辻 仁成 作家 パリ
おつかれさまです。
ちょっと前に来ていたものですが、病になって、という長いメールだったので、真ん中だけ、ご紹介いたしますね。笑。要するに、今日をどう生きるか、という問いかけだと思います。
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匿名希望Eさん
「辻さんの「気」についての日記を前に読んで・・・。私は5年前ある病気なり、そろそろ完治しますが、周りに同じ病気を患う人がポツポツ出てきて〜 とにかく大丈夫、なんとかなりますと頑張っています。あと辻さんの電柱作戦も拝借し、とりあえず目の前に一本ずつたてましょうと・・・。病気の人に、3年後、5年後などの展望プランは酷ですからね。毎日、朝起きる時は笑う、辛いときこそ笑う、大丈夫、と言い、今日の課題をクリアしたら電柱一本、今日できなくても1週間かかってもいい、ちょっと前進できたら成功です!辻さんの生き方、周りにも広げてまーす!」

おこたえしまーす。
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「はい、電柱作戦というのは、このサイトでも何度か書かせて頂きました、ぼくの生きる哲学の中心的な作戦の一つなんです。おっしゃる通り、人間、先のことはわかりませんから、長期的なビジョンは大事だとしても、とくに病を患っている時なんかは、何年後という計画が立てづらいですよね。そのことに気づいた父ちゃんは、まずは、次の電柱まで頑張ろうとある日、決めたんです。次の電柱って、すぐ目の前ですから、頑張れますよね。で、次の電柱に辿り着いたら、また、その次の電柱まで頑張ってみようと、そうすると、少しずつ遠くへ行くことが出来るじゃないですか。すごくないですか、この法則!まず、今日を大事にしましょう、できることなら、今、です。今を大切にいきましょう、ということが、この偉大な電柱作戦の醍醐味ということになります。病もそうですが、様々な事情で、未来が確定しない場合、この電柱作戦で一歩一歩進んでいく、ということが大事だ、というお話でした。そして、おっしゃる通り、笑顔なんです。
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ぼくはバンドマンだった頃、怖い顔ばかりしていたんですが、最近は笑顔しかしません。三四郎をつれて散歩に出ますと、怖い顔をしたフランス人とすれ違う機会が多いんですが、(すいません、印象です)、ぼくは無視されたとしても必ず、すれ違う時に「ボンジュール」と笑顔で言うようにしています。すると、怖い顔のムッシュやマダムの顔が、にんまり、と笑顔になったりするんです。その瞬間、ああ、世界は敵ばかりじゃないな、と思えます。もちろん、中には、無視して通り過ぎちゃう人もいますが、そういう時は、きっと急いでいるんだ、トイレ漏らしそうなのかな、なんて考えて、くす。やっぱり笑顔になるわけです。この笑顔ですけれど、自分のためにしているんですよ。自分が笑顔の方が気持ちいいからです。絶対に気難しそうな頑固者のおじいさんみたいな人が、にんまり、と笑ってくれたりすると、よかった、と思うじゃないですか、そのよかった、と思う自分はまちがいなく、癒されているし、身体もリラックスできているんです。しかめっつらだと、心によくないです。ぼくはだから、気分がよくない時とか、腹が立っている時とか、それを人にぶつけないように、出来るだけ、笑顔を心がけています。或いは、どうしても笑顔が出来ないくらい辛い時はね、ドアを閉ざして誰とも会わないようにします。でも、さんちゃんがいるので、さんちゃんのお腹をさすってあげると、三四郎、幸福そうな顔を返してきます。その態度に癒されています。短い人生ですが、過酷にしてしまうのは、結局、自分なので、考え方を最近変えたんです。笑顔の法則、です。その笑顔は自分のためのものなんですが、すれ違った怖い顔のマダムが、満面の笑みになったりすると、やった~、と思いませんか? そうやって、世界は緑に包まれていくんだと父ちゃんは思います。
辻式「丁寧に生きる」というのは、あまり遠くを見ません。来世に期待は絶対しません。来世はないと思っていますが、仮にあるとしたら、その来世をよくしたいなら、今を大切に生きて積み上げていく方がいいですよ。今生がダメなのに来世だけ幸せになりたいって、本末転倒ですからね、あはは、余計なお世話ですいません。ぼくは、来世は必要ないので、今を精一杯生きたいと思っています。むしろ、今のこの瞬間の中に、人生のすべてが凝縮できたらいいな、と思って精一杯生きています。次の電柱まで、まずは、行きませんか? そこに辿り着いたら、その次を目指しましょう。充実する、というのは、こういうことの中にあります。そして、今を大切にすると、苦しかった過去とも和解できるんです。過去がまあ許せるようになりますと、おのずと、未来は明るくなります」

はい、今、気づいたんですが、フランスには電柱がないんです。田舎もどこも今はだいたい地下に電線が埋まっています。なので、ここでは、電柱作戦が出来ない、あはは、フランス、手ごわいぞ!
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はい、お知らせです。
ラーメン博物館での「対麺」イベント、チケットはこちらです。天下無双のポルケッターメン、気になりますよね。
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https://note.com/preview/n140dda70d0e6?prev_access_key=dbd8f2a5eeaaee47588a0d7e01e2e747
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3月18日に、エッセイ集「キッチンとマルシェのあいだ」光文社。待望の新刊です。料理雑誌「ダンチュー」巻頭5年分の連載が一冊に!!!必読。
3月30日、新横浜ラーメン博物館にて、「対麺」プロジェクト。金曜日、チケット発売します。
8月5日から三越日本橋本店特選画廊A全面で「辻仁成展、鏡花水月」。
9月4日、小説「泡」、集英社。
11月、リヨンで個展。
他、いろいろ。
ええと、TPAは生徒募集を締め切りました。迷っていた皆さん、来年、よろしくお願いします。



