ノルマンディ、ツジ村便り

辻村相談窓口、「なぜフランスなんですか?」 Posted on 2026/03/27 辻 仁成 作家 パリ

おつかれさまです。
さっそく今日も、辻村相談窓口を開きたいと思います。今日はぼくがなぜフランスで暮らしているのか、という自分でもあまりよくわかってないことへのご質問が届いていますので、さっそく、いってみましょうかね。笑。

匿名希望Hさん
「辻さんはなぜフランスで生きているんですか? これから先もずっとフランスで生き続けるおつもりですか? なぜ日本じゃなく、フランスなのか、知りたいです。そして、辻さんはどこへ向かおうとしているのですか? このような戦争とAI超進化の時代に、人間であることの苦しさを感じない日はありません。辻さんはそんな時代に何を意識し、どう突き進んでいこうと思っているのか、お聞かせください」

辻村相談窓口、「なぜフランスなんですか?」



おこたえしまーす。

「なぜ、フランスで生きているのか、ですよね、そのことよく質問されるんですが、これは今もって辻家三大不思議の一つではあります。ただ、自分で決めてここに辿り着いたとはいいきれないもの、様々なご縁の積み重ねの結果、今ここにいるような気がします。フランスで暮らすなんてそんな面倒くさいことを、と何度か面と向かって知り合いに言われたこともありますし、その通り、実に面倒くさい25年でした。でも、息子がこの地で生まれましてね、その時、日本に受け皿がなかったこともあり、彼がある程度自力でフランスで生きていけるようになるまで、もしくは彼が結婚をして家族が出来て、落ち着くまでは、ここに居残ろうと思い立つのです。ただ、渡仏した時、25年前ですが、特別なビザをフランス政府から頂いたわけでもないので、毎年、シテ島にある警察署に1年滞在許可証の更新のために出かけ、当時は、予約制度もなく、アジア・アフリカセクションという場所でしかたら、アジアやアフリカの人々と同じ列に並んで、その頃は妻がいましたので、その人と長い時は3時間くらいそこで待たされました。夫婦、それぞれの申請期間が異なるので、年二回はこの更新手続きをしに一緒に行っていましたし、更新されたカードを取りに行くのに、さらに二回、警察を訪れる必要もありました。また、長い列にならぶわけです。書類が足らず、自宅までとりに戻ったこともあります。滞在許可書一つとっても大変でしたが、これに加え、税金の申告や子供の学校のいろいろがあって、最初のころは通訳さんを雇わないとなりませんでしたし、弁護士さんに同行してもらったり、なんでこんな大変な人生を生きないとならないのだろう、の連続、連続。
シングルファザーになってからはさらに別の意味で大変が倍増しましたが、プライバシーを確保し、子供を静かな環境で育てたかったので、ま、当時はうるさかったですからね、日本に戻る選択肢はなかったです。子供も、友だちが財産だと考えていたようですから、なおさら。小学生だったあの子が生きやすいのは、幼馴染に囲まれたフランスの方でした。

でも、ぼくには創作しかなかったので、日本語圏ではない世界で、自分を試してみたかったし、自分しか出来ない表現方法の模索がはじまります。フランス語を真剣にやらないとならない、と思ったのも、その頃からです。それまでは、英語でなんとかごまかしながらやっていたのですが、ここで生きるならフランス語をしゃべる必要がある、と気づき、今でも、辞書を持ち歩いています。そして、42歳だったぼくは、66歳になりました。気が付くと、絵を描く仕事が増え、音楽の仕事は趣味程度になりました。小説は相変わらずコツコツやっておりますが、AIの時代になり、人々が文学を求める時代はやや過ぎつつあるので、これからどうなるのか、疑問の中にいます。音楽はsportifyのような配信がメインになり、ミュージシャンは仕事を奪われましたし、AIの進化で、将来的には、映像、イラスト、デザイン、あらゆるアート表現をする仕事も減る傾向が予想されます。

シンギュラリティに人類が到達するだろう、2030年代の後半には、もう、ほとんどの人間が、今のような仕事を持てなくなるでしょうから、その時、ぼくはどうしているでしょうね。その衝撃に備えるために、パリではなく、ノルマンディに移り住んだのだと思います。そこまで未来のことを意識して生きているわけではありませんが、創作の限界との闘いは始まりつつあると思って警戒を強め、AIには出来ないものを探し、耳を塞いでひきこもり、追及しています。ノルマンディ地方での暮らしは、ぼくにとっては人間性復興のためのとっても大事なプロセスの一つなんです。皆さんは、AIに仕事を奪われ、彼らが作った娯楽の中で生きるようになった時に訪れるものが何か、分かりますか? それは「生きる意味」になるでしょう。

ぼくはこの20年間、なぜ、フランスで生きているのか、自分の意味は何か、と問いかけて創作を続けてきました。AIが、医者の仕事さえも奪います。人間は働く必要がなくなり、考えなくてもよくなります。貯金も無意味になる可能性もあります。そういう時代が2030年以降に訪れると言われているんです。ま、もう年齢が年齢だから、それでもいいよね、という意見もあるでしょう。ぼくがなんでアートカレッジを始めたのか、というと、人間が人間であるために大事なものを失わないために、その砦を作る必要を感じたからなんです。ぼく自身、答えを探す日々にいますが、AIに支配されない人間らしさを追求したいと思って今は頑張っています。フランスでこんなに大変な思いをしてきたこと(歴史)が、きっとこれから、自分の人生に意味を与え直してくれるといいのですが・・・。すくなくとも、音楽もAIが作ってそれがヒットする時代になりました。小説もまだ中途半端ですが、簡単な物語レベルならAIが創り出せます。イラストならAIは一瞬で作ります。油絵も最近はAIが描いていますが、そういう世界で、表現者として、人間らしく活動できるものを見つけるのにノルマンディはぼくにとっては、避難場所でもあり、人間復興の土地でもあります。畑仕事をしながら、一枚の画布に、自らの意思で油絵具を重ねていく作業、はたして、辻仁成を真似ること、AIにそこまで出来るとは思えません。今のところ。ぼくの個性までは、コピーできないでしょうから、さらに、人間力を高められるよう精進し追求し続けたいと思っています」

辻村相談窓口、「なぜフランスなんですか?」



はい、まいどのお知らせです。
ラーメン博物館での「対麺」イベント、チケットはこちらです。天下無双のポルケッターメン、気になりますよね。

https://note.com/preview/n140dda70d0e6?prev_access_key=dbd8f2a5eeaaee47588a0d7e01e2e747

3月18日に、エッセイ集「キッチンとマルシェのあいだ」光文社。待望の新刊です。料理雑誌「ダンチュー」巻頭5年分の連載が一冊に!!!必読。
8月5日から三越日本橋本店特選画廊A全面で「辻仁成展、鏡花水月」。
9月4日、小説「泡」、集英社。
11月、リヨンで個展。
他、いろいろ。

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辻仁成 Art Gallery

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