ノルマンディ、ツジ村便り

辻村相談窓口、「悩みごとがある」 Posted on 2026/04/20 辻 仁成 作家 パリ

おつかれさまです。
月曜日ですね、さっそく、相談窓口を開店したいと思います。
今日はこんな悩みが届いています。

匿名希望Eさん
「自分を励ますのが苦手でして、ざっくばらんにお聞きしたいのですが、どうやって、辻さんは自分をもりあげて生きているんですか」

辻村相談窓口、「悩みごとがある」



おこたえしまーす。

「難しい問題ですよね、それに人それぞれ生き方も生きるリズムも考え方も違うので、『こうやって頑張ってください』という唯一の方法はないんですが、でも、逆を言うと、人それぞれにあったやり方が無限にあるのも事実です。いろんなことを試してみるのがいいですし、そのうちに糸口が見つかるんじゃないでしょうか。外国語の習得も似ていて、単語だけ覚えればいいわけじゃないですし、文法だけ勉強すればいいわけでもない。全方位でやっているうちに、ある日、なんとなく喋っている、という感じになるんですが、やってないと、喋ることさえできないのと、一緒です。自分を励ます方法って、数限りなくあるように思います。ぼくは、声に出して、自分を褒めたたえています。『辻ちゃん、すごいじゃん、天才じゃない?』ま、独り言みたいな感じで、ずっと自分と対話しているんで、三四郎はいつも『パパしゃんはだれと喋っているんだろ』と首を傾げて聞いていますが、ま、しかし、独り言作戦はけっこう、有効です。寂しさもまぎれますし、自分が自分に向かって語るので、説得力もありますし、言葉化することでやる気もしずしずと湧いてきます。前にも書きましたが、父ちゃんがよくやる、『一人インタビュー』は、めっちゃ、自己発奮に最適ですね。あはは。これは架空のインタビューアーを想像しまして、その人がいろいろと質問をしてくるという設定になります。『辻さん、この度の個展おめでとうございます。鏡花水月というタイトルですが、ご苦労もいっぱいあったと思いますが、どの辺ご苦労されたのか、また、今回の個展の見どころ、ぜひ見てほしい作品について、などなどお聞かせ願えますか』みたいな、・・・。それをアトリエの日向にある椅子に座って、三四郎とかひざにのっけて、架空のカメラを意識しながら、答えていくんです。『まあ、苦労なんてものは、たいしたものじゃありません。こうやって創作をしていることがぼくの人生の意味ですから。でも、この絵なんかは、ちょっとはね、苦心しましたよ。この建物にうつりこんでいる光はどこから来ているか、わかりますか? 建物の後ろに太陽が沈もうとしているんですから、あり得ない光がこの建物を照らしているんです。その見えない光の位置を発見した瞬間、目の前が開けました。こういう作品を描く時に、ぼくはいつも概念から抜け出ることを意識しているんです。そうすると理屈ではありえない新しい手法というものを見つけることが出来る。人間は概念が邪魔をしているので、それをとっぱらうところにぼくのアートの本質があります・・・』、みたいな。これね、1時間くらい続く独り言なんで、けっこう、ある意味危ないんですが、途中でふっと自分が元気になるのが分かる瞬間があるんですよ。よし、いいじゃん、そうだよ、俺は誰にも支配されない芸術家なんだ、どんどん、概念を突き破って、生み出したらいいんだ、がんばろう、となるわけです。まさに、自家発電ですな。自分で自分をおだて、自分で自分を持ちあげ、自分で自分を励まし、自分で自分を「天才」と言ってしまうんです。誰にも迷惑は掛かりません。だって、独り言ですから、三四郎だって、あ、パパしゃん、また、頑張ってるな、と思う程度でしょうね。でも、この「一人インタビュー」はぼくが20歳のころに発明した方法なんですが、ずっと続いています。当時、ぼくは風呂のない6畳間のようなところで、駆け出しのミュージシャンだったんですが、けっこう、これでやる気を出していました。なんか、傾いたアパルトマンの一室で、じわじわと燃え盛っていくのがわかったものです。それをいまだにやっているんです。昨日もやりました。架空のインタビューアーはいろいろと質問をしてくるので、嬉しくなって、語り倒してやりました。そのくらいじゃないといけません。このばかばかしいくらいの熱量と情熱は自家発電に似た方法で生み出すことが出来ます。ある種の再生可能エネルギーだと思ってください。自分を盛り上げる方法は必ず自分の中にこそあります。『やってやる』と思ってください。ぼくは66歳ですが、日々、最高の瞬間をキャンバスや原稿用紙の中に紡いでいます。大丈夫ですよ。こんな阿呆なぼくでも、フランスのはずれの田舎で輝こうとしているんですから、すべての人間は自分を肯定することが許されています。それが才能なんです。とことん、自分を盛り上げて生きてみてください。あなたの架空のインタビューアーにぼくを利用してくださっても構いません。人生は一度なんだから、ぐずぐずしないで」

辻村相談窓口、「悩みごとがある」

近況のようなもの。
まだ、作品が日本に送れるかわからないので、1,2週間はドキドキが続きますね。はい、夏の個展は、8月5日から11日(祝日)まで、三越日本橋本店、6階、特選画廊全面にて、開催されます。
10月22,23,24,25日は、シャンゼリゼ大通りの突き当りあのコンコルド広場のど真ん中に出来る特設会場にて、モダンアートフェア、参加。6メートルの壁に展示予定っす。
11月5日から、リヨンでの個展が3週間、開催されます。
お近くにお越しの際には、どうぞ、よろしくお願いします。

辻村相談窓口、「悩みごとがある」

辻仁成 Art Gallery
帝京×パリ・オンラインアートカレッジ

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自分流×帝京大学