ノルマンディ、ツジ村便り

辻村相談窓口、「差別を受けた時に」 Posted on 2026/09/18 辻 仁成 作家 パリ

おつかれさまです。
ノルマンディはもう冬の一歩手前という感じですが、皆さんが住んでいる世界はいかがでしょうか?
さっそく辻村相談窓口を開店させていただきますね。

匿名希望Jさん
「辻さんは、昔の日記で、自分はフランスでめったに差別をされたことがない、みたいなこととおっしゃっていましたが、本当ですか? 外国で暮らしてみたいのだけれど、差別が怖くて、旅行さえできません」

辻村相談窓口、「差別を受けた時に」



おこたえしまーす。

「はい、たぶん、露骨な差別というのは、ぼくの場合はありませんでした。日本人は出ていけ、とか、お前には売らない、とか、国に帰れ、なんてものは、まったく一切なかったですし、それは、フランスだけじゃなく、アメリカでも、〈アメリカは南部なども廻ったことがありますが、一度もなかったです)、イタリアでも、イギリスでも、スペイン、ドイツでも、ありませんでした。
フランスで、よく問題になるものに、目じりを引っ張って釣り目にしてみせ、アジア人を差別する、という差別行為。これは、一度、一緒にバンドをやっていたロシアから亡命してきたミュージシャンが、その時、ぼくらは路上ライブをしていたんですが、通りかかったアジア系の女性たちに向けて、やったんです。たぶん、悪気がないんですよ。ふざけてやった。でも、そういう日常的な行為の中に差別があることを頭と心が幼い連中は自覚してないんです。ぼくがそいつの耳を引っ張って、こういうのは差別的行為で、音楽家がやることじゃない、と言いましたら、ごめんごめん、と謝っていました。彼とはその時、一度だけのご縁となりました。でも、彼もまた世界中あちこちで同じような目にあってきた、という言い訳を聞かされました。ま、そういうものが、連鎖している、と思っています。
ぼくはよく「あからさまに差別をされたことがない」と書きますが、それは公的な場所だったり、大人の世界ではない、ということです。でも、スーパーで買い物をしていて、まだ言葉が不自由だった時とかに、卵を探している、という仏語が若い店員に通じなくて、笑われたことがありました。「卵を6個ください」っていう仏語は難しいんですよ。でも、その結果、悔しくて、ぼくは卵をちゃんと買えるようになりました。あれは、差別、とは思ってないです。生きる上での教師。

フランス人は、すれ違う時に、ボンジュール、を言い合うことがあります。特にノルマンディでは、よくあります。たしかに、100人に挨拶をして、一人や二人は、返事を返さない人がいます。それは差別とは思わないですよね。その人だって、いろいろと抱えていることがあるし、ボンジュールって、言ったのはぼくですから。
前に、三四郎と横断歩道を渡っていたら、タクシーが突っ込んできたので横腹を蹴飛ばしてやりました。去年のことですね。ボン、と大きな音がした。そのあと、日本語で、「どこ見てんだ! この馬鹿たれが!」と怒鳴ってやったんです。お客さんが載っていました。その人が、こちらを心配そうに、振り返っていました。運転手は逃げました。あれは犬連れアジア人への差別だったのかな? でも、蹴とばしてやったし、中にいた、お客さんが、彼に何か言ったように感じました。周囲のカフェの人が立ち上がり、大丈夫ですか、と言ってきたので、なんも、問題はないです、と笑顔で言っておきました。こういうことは思い出すと過去、何度かありましたね。でも、その都度、ぼくは大声で抗議をしましたし、そいつらは全員、逃げました。
そうそう、一度、ごみ収集車が幼い息子と手を繋いで登校しているときに、すれすれで、通過したんです。子供とトラックのあいだが、5センチもあいてなくて、それでぼくは、息子をおいて、走っていき、トラックを蹴飛ばし、運転手に抗議をしたら、その人も怒って出てきて、なんで蹴るんだ、というから、どこ見てるんだ、子供を殺す気か、と、ちょっとした言い合いになったんです。その車には3人の作業員が載っていたんですが、年配の人が出てきたので、日本人の子供ならひいてもいいのか、これはちゃんと訴えるからな、と言ってやったんです。そしたら、ムッシュ、ごめんなさい、よく言い聞かせますから、まだこの国に来たばかりでわかってないんですよ、というようなことを言ったんです。父ちゃんは毅然としていました。何も恥じるものもないですからね、運転手を睨んでやりました。彼らはすごすごとそこを立ち去ったんです。このこと、たまに思い出しますが、その数分後、息子に、
「パパ、もうやめて。相手がパパを殴ってきたら、かなわないよ、あんな大きな人たち」
といったのをよく覚えています。
「パパは、お前を守る。それだけだ。ロン毛でアジア人だからって、バカにされてたまるか」

26年も生きてきたので、こういうことは過去にもしかするともっとあったかもしれないです。でもぼくはあえて、忘れます。そして、「この国で差別をされたことがない」と言ってきました。そりゃあ、あったんでしょう。でも、差別されたひどい国だ、とどこかで言うのは簡単ですけれど、・・・。その都度、その場で言い返して、はっきりさせてきたので、ぼくはそれ以上はこの件で大騒ぎをしたくないわけです。その場で、相手を封じ込めて、一生忘れないくらいの反応を返すことが大事です。あの、トラックを蹴っ飛ばすのは、ぼくのように武術の達人じゃないとだめですから、よいこの皆さんは絶対にマネしないでくさいね。あはは。
フランスの某出版社の人ともめた時もありました。その人に、そんなんでこの国で生きていけるのか、と言われたことがあってですね、あの時は子供が生まれたばかりの頃だったから、この野郎と思ったけれど、それ以上は大騒ぎしないことにしました。その怒りを創作にむけて、頑張りました。いつか、高い空の上で笑ってやろうと思っています。
あとね、ぼくは笑顔でだれとでも一生懸命接するので、多少の外国人排他主義者と出会っても、ま、大丈夫なんですよ。自分をちゃんと見せれば、ある程度は理解しあえるとぼくは心の中で思っています。そういうおかげで、世界中旅してきましたが、露骨な差別というのは経験がないです。自分から、だれかを差別することなど、ぼくにはできないし、関心もない。それに、そこが差別の温床なら、はやくそこから離れた方がいい。そういう世界で生きちゃだめです。差別を呼び込む弱さに付け入られてしまうからです。実際、差別をしない人の方が圧倒的に多いのだから、一部〈一本の木にたとえますが〉のラシスト〈差別主義者〉をみて、森を見ないのはよくありません。木をみて森を見ず、森を見て木を見ず。同じことですね。たぶん、たしかに、こういうのは差別じゃないんですよ。差別って、もっと陰湿ですよね、それは本当に経験がない。あったら、ただじゃおかない、そういう断固たる毅然がぼくにはあるので、結論、ですが、ぼくは差別をしたことも、されたこともありません。小さな声でえいえいおー」

辻村相談窓口、「差別を受けた時に」



父ちゃんの近況のようなもの。
1,インスタでサブスクやっています。週に一度くらいの頻度で生配信。コンサート情報などわかった時にお伝えしていきますね。ご興味あるみなさん、父ちゃんのインスタから、どうぞ。
2,新刊「泡」刊行記念、インタビュー受けました。集英社オンラインから出る予定です。
3,父ちゃん率いる新バンド「歌う詩人」のファーストアルバムがディスクユニオン全店で販売されます。予約特典あり。
4,パリモダンアートフェアに出ます。10月22日ー25日
5,11月5日から、リヨンで個展。
6,11月18日に、エバーマインズとパリ市内のライブハウスでライブやります。チケットは発売中。下から、どうぞ。

https://www.fnacspectacles.com/event/the-everminds-special-guest-tsuji-cafe-de-la-danse-paris-11-21732503/

辻村相談窓口、「差別を受けた時に」

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