PANORAMA STORIES

父ちゃんの普段着飯、「アメリカンクラブハウスサンド」 Posted on 2026/10/14 辻 仁成 作家 パリ

おつかれさまです。
久しぶりに、函館でライブをやりたくなりました。
どこでもいいんですけれど、昔、金森倉庫でやらせていただいたこともあり、赤レンガ街、いいですよね。
あと、柴田兄弟がやっているカリフォルニアベイビーとかでもライブできるかもね・・・。柴田君、どう?
ということで、函館にツアーも計画している、父ちゃん。
そんな父ちゃんが学生時代、函館でよく食べていた「アメリカンクラブハウスサンド」にまつわる、お話、・・・。
えへへ。

父ちゃんの普段着飯、「アメリカンクラブハウスサンド」



実は、アメリカン・クラブハウス・サンドには思い出があるのです。
ぼくが生まれてはじめて、母さん以外の人から習って、料理らしきものを作ったのが、このアメリカン・クラブハウス・サンドなのです。
17才の時、ぼくは函館の西部地区(旧市街)に住んでいました。
観光地で有名な十時街電停のちかく、裏路地に、「銀座」という名前のレストランがあったんですよね。
結構、当時(1978年とか???)としてはかなりモダンな店でした。
☆
ある日、その前を歩いていると、店の前に椅子を持ち出し、段ボール箱相手に、エアードラムのようなことをやっているお兄さんがいたんです。
シェフ帽をかぶり、料理人の格好をしているのだけど、どうも、昔、ドラムをやっていた風・・・。
目が合った。にやけた顔で、よ、元気? と言われた。
「あ、はい」
「西高の子?」
「あ、はい。ドラムやってたんですか?」
「うん、昔ね」
「ぼくもバンドやってます」
「へー、そうなんだ。ちょっと寄って行けよ。腹減ってないかい?」
と言って、店の中に引っ張り込まれた。



広い店だけど、どんつきにカウンターがあり、その向こうがキッチンでした。
夕方だったから、まだお客さんは誰もいなかった。というか、お客さん、その店で、見たことない、笑・・・。
ぼくはカウンターに座らされて・・・。
で、シェフはなんか作り出した。
それがアメリカン・クラブハウス・サンドだったんですね。
「ほら、喰いな。お腹いっぱい食べたらいい」
「え? 凄い。豪華ですね。これ、いいんですか? お金ないですよ、苦学生・・・」
「苦学生、いいよいいよ、食べなさい」
それは背の高いサンドで、中に具がいっぱい入ってました。
アボカド、ゆで卵、チキングリル、ハム、焼いたベーコン、レタス、チーズ、なんかもっと入っていたと思うけど、どうやって食べていいのか、分からず、というか、ぼくは学生服だったし、レストランなんか一人で入ったこともなかったので、めっちゃ緊張していたんですね。
「どうやって、食べるんですか?」
「掴んで、がぶっと、噛り付く。アメリカ人のように」
その人は優しい笑顔で言った。
山さんという名前だった。山さんはぼくのことを
「辻君」
と呼んだ。
パンがちゃんと焼いてあって、カリカリでベーコンやグリルされた鶏肉の香ばしさに、マヨネーズとケチャップとマスタードの三位一体ソースがやばかった。
シャキシャキのレタスとか、とにかく、その触感とボリュームに圧倒されたのを覚えてます。
「美味しい!」
「だろ」
山さんとはそれが縁で親しくなった。彼は若い頃、バンドマンだったのだ。
だから、いろいろと教えてくれた。
特に忘れられないのは、
「辻君、ロックンロールの基本は、8ビートだよ」
山さんに、8ビートを教えてもらった。それはリズムなんだけど、ようは生き方みたいなもので、縦に人生を刻んでいく、まさに、人生の刻み方みたいなものだった。
「ずずちゃちゃずずちゃ、ずずちゃちゃずずちゃ。やってごらん」

父ちゃんの普段着飯、「アメリカンクラブハウスサンド」

※ 17才の時のぼく。真ん中にいる、ちょっとつっぱっているのが、ぼく。柔道部だったんだよー。ダウンタウンブギウギバンドのファンだった。宇崎さん、最高でした。あんた、あの子のなんなのさー。



学校帰り、「銀座」の前の歩道で、段ボールをぼくは叩き始めました。
「8ビートが出来るようになったら、次は、I LOVE YOU,I NEED YOU,I WANT YOUなんだよ。わかる?」
ぜんぜん、分からなかったけれど、ぼくはそういう押しつけがましいパワーが嫌いじゃなかったですね。理屈じゃなく、そうなんだろうな、と思って、ひたすら叩いてました、段ボールドラム。
でも、不意に呼び止められて、サンドイッチをご馳走になり、それがぼくの人生に大きな影響を与えることになるのだから、人の出会いというものは不思議、一期一会だね。
そして、ぼくはいまだに音楽活動を続けているし、料理もやっている。
☆
ということで今日は、山さん直伝のアメリカン・函館風・クラブサンドイッチを作ってみましょう。
食パンを焼いて、具をはさんで、マスタード、ケチャップ、マヨネーズ、を適当に塗って、包丁で写真のようにカットして、真ん中にフレンチフライ、添えたら、完成って、あはは、レシピでもなんでもないね。申し訳ない~。
ボナペティ!

父ちゃんの普段着飯、「アメリカンクラブハウスサンド」



父ちゃんの普段着飯、「アメリカンクラブハウスサンド」

自分流×帝京大学

Posted by 辻 仁成

辻 仁成

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Hitonari Tsuji
作家、画家、旅人。パリ在住。パリで毎年個展開催中。1997年には「海峡の光」で芥川賞を受賞。1999年に「白仏」でフランスの代表的な文学賞「フェミナ賞・外国小説賞」を日本人として唯一受賞。愛犬の名前は、三四郎。