PANORAMA STORIES

北イタリア、静かな冬の夜にパッシートワイン Posted on 2021/12/29 奥山 理恵 ワイン輸入・コーディネーター イタリア・ピエモンテ

 
「クリスマス期間が終わった1月の初めにパッシートワイン造りが始まるわよ。」
私がキャンセルした一時帰国のことを話すと、励ますようにフランチェスカがそう言った。

パッシートワインというのは、ブドウを乾燥させて糖分が凝縮した干しブドウから造られた甘口のワインだ。
干しブドウから造るので普通のワインの7~8倍のブドウが必要になる。
糖度の高いブドウから造るので、アルコール度数は、13%以上でも残糖分が多い甘口のワインに仕上がる。
 

北イタリア、静かな冬の夜にパッシートワイン



 
フランチェスカは、祝日に家族、親戚、友人が集まったパーティで食後に、暖炉の前でヘーゼルナッツやチョコレートと一緒にパッシートワインで過ごす冬の夜の時間がとても好きでそのために造ったワインだと話していた。

ワインにつけられた名前は、“Crepuscolo クレプスコロ”。
それは、やや暗い日没後の時間を意味している。
夜がまだそれほど更けていない時間で、大気による光の散乱や反射で様々な色の変化を見せる空を、きっとフランチェスカはイメージして命名したのであろう。
 

北イタリア、静かな冬の夜にパッシートワイン

地球カレッジ



 
このアルトピエモンテ(スイス国境近くの北イタリアピエモンテ州北部のワイン産地)では、白ブドウのエルバルーチェから造られるパッシートワインは、見かけることがある。
しかし、赤ブドウで比較的水分も多いウヴァラーラで造られたパッシートワインは、とても珍しいものであった。

「それにしても、何でウヴァラーラのパッシートワインを造ろうと思ったの。」

「何年か前に、1列だけウヴァラーラを収穫し忘れてしまったことがあって、10月下旬に、その摘み忘れてしまったブドウを急いで収穫したの。完熟して糖度が高かったから、このブドウをパッシートワインにしたらどうかと思って誕生したワインなのよ。」

たくさんのブドウを使ってもほんの少ししかできないため、このワインは、家族や友人のためのワインとなった。

パッシート用のブドウの収穫は、この地方の偉大な品種ネッビオーロよりも遅く、完熟したウヴァラーラが収穫の最終日となる。
 

北イタリア、静かな冬の夜にパッシートワイン

 
収穫の日のブドウ畑のランチがとっても楽しみだった。
生ハムやサラミ、チーズ、野菜やお米、魚介類を使った前菜、次にパスタまたは、リゾット、そしてメインのお肉料理、最後にデザートや食後酒も用意された。

パスタやリゾットは、ランチ前にフランチェスカがブドウ畑から急いで家に戻って作り、キッチンから大きなお鍋をブドウ畑まで運んできた。

食後は、日替わりで手作りケーキやタルト、熟成したチーズ、そしてパッシートの赤ワイン
“Crepuscolo クレプスコロ”とカフェでデザートタイムとなる。

すべてのブドウの収穫が終わると、ブドウ畑が紅葉し晩秋へと季節が移り変わっていく。
パッシート用のブドウは、通気性の良いワイナリーの2階部分で1月まで水分を蒸発させ干しブドウになっていく。
 

北イタリア、静かな冬の夜にパッシートワイン



 
11月になると、ワイナリーにボトル詰めされた収穫年2018年のパッシートワインが並んでいた。
素早く数えてみると全部で150本ほどしかなかった。

本数が少なく、家族や友人とのパーティや、年末の贈答用のワインとして、ワインジャーナリストが試飲することがあっても、一般には、販売する予定がないとのことだった。

「それに何といっても、ブドウを多く使って、パッシートワインを造る手間のかかる作業工程を考えると、小さなボトルであってもこの地域の偉大なワインよりも高いものになってしまう。だからこのワインのことを知って理解してくれている人でないと販売するのが難しいこともあるのよ。これは、リラックスしたい時や友人との楽しい食事会に用意するワインとして取っておくわ。」
日本では、デザートワインの需要は、あまり多くないかもしれないが、このチャーミングな500mlのボトルを大切な人に送って日本で一緒に味わえる日を楽しみに待ちたいと思った。
 

北イタリア、静かな冬の夜にパッシートワイン

 
「もし可能であれば、少ない本数でもいいので日本に送りたい。食品検査のための分析で1,2本は、研究所に持っていかなければならないけれど、できれば60本くらい欲しい。無理かな。」
そして、すでに準備していた日本行きのワイン貨物に、このパッシートワインが最後追加されることになった。
生産本数も少なく選果しながらの収穫、寒い冬まで乾燥させ熟成させるワインは、レンガ色のニュアンスのあるルビー色をしている。
熟したプルーン、チェリーなどの果物、ハーブ、そしてシナモンなどの甘いスパイスの香り。
甘口であるけれど、冷涼な土地で栽培されたウヴァラーラの持つ酸味とタンニンでバランスが取れている。

私は、ワイナリーでチョコレートやお菓子と一緒にデザートワインとして味わうこともあれば、冬の静かな長い夜の時間、家でひとりパッシートワインをカフェのように楽しむこともある。
真夜中に甘口ワイン ・・・パッシートの魅力に癒される。

 

自分流×帝京大学



Posted by 奥山 理恵

奥山 理恵

▷記事一覧

2001年よりイタリア在住、ボローニャ、ヴェネツィア、ローマに滞在後、現在北イタリア ピエモンテ州北部ノヴァーラ県で暮らす。イタリアソムリエ協会ソムリエ資格、マスターコース修了。2008年、日本にワインを輸入するため株式会社Wine・Artを設立。ピエモンテワイン、イタリア食材の直輸入、ワイナリー訪問、農業視察や農業調査などイタリア現地コーディネート。