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再ロックダウン 静かな霧に包まれた晩秋の北イタリア・ピエモンテ州から Posted on 2020/11/19 奥山 理恵 ワイン輸入・コーディネーター イタリア・ピエモンテ

再び新規感染者が増え続けているイタリアは、イエロー、オレンジ、レッドと3つのゾーン別に厳しい制限措置が規定されています。

政府からだけでなく、州からさらに行動制限の命令も出され、それぞれの地域での制限が感染状況によって次々に変わっていくので常に新しい情報を確認していくことになります。
私が暮らすピエモンテ州は、再びロックダウンになりました。前回と同じように移動の理由を含む必要事項を記入する外出許可証が必要になりました。
もちろん、レストランやバールなどの飲食サービス業の営業は禁止となり、テイクアウトサービスと宅配サービスだけが許可されています。
食料品や生活必需品の販売のみが認められています。

再ロックダウン 静かな霧に包まれた晩秋の北イタリア・ピエモンテ州から



春のロックダウン時と違うのは、行動が制限され商業活動ができない政府からの命令に反対するデモが都市部で起こっていることです。
じっと待って耐えなければならない期間が予想以上に長すぎたのです。
「とにかく今は、我慢して生活するしか方法はない。無自覚な人々の行動でさらに収束は遠のく」と地元ワイナリーの友人たちがグループチャットやSNSで囁きます。
春のロックダウン時は、みんなが規則を守り、「家にいよう。大丈夫。きっとすべてうまくいく(#andratuttobene=Andra’ tutto bene) 」と口々に呟き、どこか希望がある空気に包まれていました。
季節が、鮮やかな色彩を持つ夏に向かっていたからかもしれません。

再ロックダウン 静かな霧に包まれた晩秋の北イタリア・ピエモンテ州から

春の緊急事態からイタリアでは、仕事、生活必需品の買い物、そして健康上の理由での通院以外の外出が禁止される規則に沿って生活してきました。新規感染者数が減少しその行動の制限が夏に解除された時期でも、多くのイタリア人は、それまでの自由な生活に戻ることなく、政府の命令がなくても、それぞれが自分の中でどこまでが安全かを考えて生活スタイルを変えていきました。特に感染者数、そして死者数も多く深刻な状況だった北イタリアの地域で暮らすイタリア人は、慎重です。

農学博士の友人でワイン生産者でもあるフランチェスコは、イタリア国内のレストランへのワイン販売はもちろんのこと、そして海外輸出用のワイン販売もが停滞しているにもかかわらず、副業の専門職であるピエモンテ州、エミリア・ロマーニャ州の農業の被害の査定、病害相談の仕事をすべてキャンセルして、同じ分野の専門家の友人にその仕事を渡すことにしました。
自分が仕事で州外に移動することは、一緒に暮らしている高齢の両親にリスクであると判断したからです。
また、カフェを経営する友人パオロも、早い段階で閉店を決め、新たな別の職業を見つけて生活していると聞きました。多くの人が立ち寄る町の広場にあるカフェは、この町で暮らす人々が、トランプをしたり新聞を読んだり、その日のニュース、サッカー、時には、哲学を楽しく語り合うコミュニケーションの場でした。ここに毎日みんなで集まるのを楽しみにしている人々は、特に80代が多かったのです。政府から飲食業の営業禁止が解除されても、高齢者が多い町なのでみんなの健康を考え、閉店しなければいけないと話していたと町の人から聞きました。

再ロックダウン 静かな霧に包まれた晩秋の北イタリア・ピエモンテ州から

地球カレッジ

ワイナリーの友人たち、そして近所のレストラン、アグリツーリズモのオーナーが次々にSNSで
『再びロックダウンとなった現状を考え、ノヴァーラ県内の宅配を再開したことをお知らせします。』と書き込んでいました。
宅配商品リストに書かれていたものは、ワイン、アグリツーリズモの農園の果物、お米、そしてレストランで販売しているピエモンテの高級食材、ピエモンテ牛やサラミです。
ワイン宅配のお知らせの最後に、『私は、この状況をあきらめないから、可能な範囲で仕事を続けていきます。私たち、アルトピエモンテ地方の生産者は、止まらない』と“l’Alto Piemonte non si ferma!”と書かれていました。『止まらない』という短い言葉の中に現在の状況と生産者たちの思いが込められていました。
ふいにワイナリー内で作業する友人たちが映像になって目の前に現れたような気がしました。
2020年に販売、出荷できないまま、ワイナリーの一角に積み上げられたワインを見上げた夏の日の午後を思い出しました。
これらのワインがレストランのテーブルに並び、みんなで集まってにぎやかにお食事を楽しむことができる日は、まだ遠いことでしょう。
私の中で思いがけないひとつの考えが浮かんできました。
それは、残されたワインを年内に日本に追加輸入をすることでした。
現実的には、日本の倉庫も同じようにワインでいっぱいであり、実現するためには、考えるべきことがたくさんありそうです。
しかし、今、ここで私こそ、可能な限りの方法を考えていかなければならないと思いながら『non si ferma!(止まらない)』という彼らの書き込みを眺めていました。日本人の私のイタリアでの生活は、こういう人たちの存在によって支えられてきました。秋の終わりが近づき、夜明け前に幻想的な霧が立ち込めるようになりました。まだ先は見えないけれど確実に時間が進んでいっています。



自分流×帝京大学

Posted by 奥山 理恵

奥山 理恵

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2001年よりイタリア在住、ボローニャ、ヴェネツィア、ローマに滞在後、現在北イタリア ピエモンテ州北部ノヴァーラ県で暮らす。イタリアソムリエ協会ソムリエ資格、マスターコース修了。2008年、日本にワインを輸入するため株式会社Wine・Artを設立。ピエモンテワイン、イタリア食材の直輸入、ワイナリー訪問、農業視察や農業調査などイタリア現地コーディネート。