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自分流塾「個性の芽に水を与える生き方」 Posted on 2025/05/15 辻 仁成 作家 パリ

自分流というのは、人とは異なる自分だけが持つ手法、のことである。
人間はみんな物心がついた頃に、誰かのやり方を真似て、生き始める。
人生というものは「こうだ」と教えられた、その通りに、最初は生きようとする。
子供は勉強をし、塾に通い、受験をして、いい学校を目指し、成績や試験を通過し、社会性を身に着け、巣立っていく、という模範的なレールの上を歩かされる、というか、歩くしかないので、そういう人生を自然に歩きはじめる。
しかし、そのうち、人にもよるが、「自我」と呼んでもいいが、自分らしさが生じ、世の中の在り方と対峙するようになり、自分の意見や考えが出てはじめ、それなりの不満や、それなりの夢や、別の方法を実践しはじめるようになる。
ぼくはそれが大人になるということの一歩だと思っている。

自分の道を歩き出す時、たぶん、人間は個性というものを手に入れることができる。
いい個性というものがあるかどうかわからないが、ぼくは、個性豊かな人が好きで、そういう個性をたくさん持つ大人たちに、憧れてきたし、自分もその個性を伸ばすことばかりを考えて生きてきた。
ある意味、個性とは、人とは違う、自分らしさ、のことだと思う。
人ぞれぞれなので、何がいいか悪いか、というような短絡的な結論はないが、そして、個性というものは時に批判や攻撃の対象になりやすかったりするから、せっかく持っている個性を他者の意見で失ってしまう人もいたりして、それはそれで、実にもったいない話である。
ぼくが思う個性を伸ばすもっとも重要なものは何か、と問われたたならば、それは自分の内にあるものを否定しない力、だと思っている。
自分を信じること、でもいいし、自分を少しでも好きになること、じゃないだろうか・・・。

自分流塾「個性の芽に水を与える生き方」



自分の良さは、自分にしかわからないこともある。
でも、時に、周囲の人達の中に本当の味方がいたりして、そのヒントを不意に与えてくれることもある。
「そこがあなたのいいところだ」
と誰かに言われたら、迷わず、ぼくはそれを信じるようにしている。
そして、そこを伸ばす努力を惜しまない。
自分をおだてる天才になることこそ、個性を伸ばす一番の方法のような気がする。
自分の良さなんかない、と決して否定せず、自分の良さはこれだ、と逆にがんがん決めつけていくことで、何かが芽生える。
それは、個性の芽、に違いない。
そこに水を撒き、餌を与え、どんどん大きく育てた時、その人は他の人にはないなんらかの魅力を獲得できるのではないか。
豊かさを手に入れる大切な方法である。

自分流塾「個性の芽に水を与える生き方」

自分流×帝京大学



posted by 辻 仁成

辻 仁成

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Hitonari Tsuji
作家。パリ在住。1989年に「ピアニシモ」ですばる文学賞を受賞、1997年には「海峡の光」で芥川賞を受賞。1999年に「白仏」でフランスの代表的な文学賞「フェミナ賞・外国小説賞」を日本人として唯一受賞。ミュージシャン、映画監督、演出家など文学以外の分野にも幅広く活動。Design Stories主宰。