日々のことば
自分流・日々のことば「千里の道」 Posted on 2025/05/26 辻 仁成 作家 パリ
おつかれさまです。
「千里の道も一歩より」ということわざがあります。
どんな壮大な夢や大事業であろうと、スタートはごく短なところから、初心を忘れず、コツコツとスタートさせるのがよい、そうじゃないと、成功する前に潰れてしまう、ということです。
千里とは、遠く遥か遠く、ということです。
昔の中国の距離の単位で、一里が約3927メートルでしたから、千里はその千倍ということになりますね。
つまり、とにかくめっちゃ遠い道のりということ。
それほど遠くまで行くためには、まず、最初の一歩がなければ、話になりません。
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ぼくは少し前にここで「ぼくの今は10戦10敗なんだ」と書きました。
それでも、バッターボックスに立ち続けているわけだから、そこですね、とある人が言ったんです。
そこまで、考えてはいませんでしたが、10戦10敗というさんざんな結果ですが、バッターボックスには立ち続けてきました。
千里の道であろうと、最初の一歩がつねにないと、たどり着かない。
逆を言えば、最初の一歩をちゃんと出し続けることが出来れば、千里の完歩も夢じゃない、ということに繋がります。
10戦10敗は、確かな一勝を得るための、絶対に通過しないとならない道なのだ、ということになり、なんか、頑張れそう、笑。
たとえ100戦100敗だったとしても、それでも、時々、クリーンヒットを打つことがあります。
その時に「前進」を感じる。
この前進する気持ちが人間には大事ですね。
その小さな前進さえあれば、千里はいつか完歩できる、ということじゃないでしょうか?
どんな遠くに行く場合であっても、いきなり遠方に到着できるなんてことは、いまのところ、ありません。
まずは、近いところからゆっくりと進んでいくしかないのです。
これが「コツコツ」道の基本。
よく人のことを「あいつはバカだ」とか頭ごなしに言う人間がいますが、バカでけっこうじゃないですか、コツコツやらない人間は、瞬間的に金持ちになるかもしれませんが、足腰が出来てないので、潰れるのも早いはず。
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最近、ぼくの元に若者たちがギターを習いに来ます。
一生懸命、上達を目指してギターを弾くんですが、うまく、ストロークできず、あああ、くそー、と叫んでいます。
ぼくが彼らの前で、素早い演奏をやってみせると、目を輝かせて、ああ、すごい、そうなりたい、と言います。
そこで、ぼくは、まず最初は無駄な力を籠めず、力を抜いて、ゆっくりと一弦一弦丁寧にひいてみてごらん、とアドバイスするわけです。
すると、おおお、なんとなく、弾けたじゃないか。彼らは笑顔になります。あはは。
「最初から弾ける人間なんかいないから、ギターリストが存在するんだよ。最初の日からギターリストになったやつはいない」
このコツコツを突破出来た時、この子たちはギターリストになることが出来ます。
まずは、コードをおさえ、ちゃんとストローク出来ることが大事だということです。
そして、これを繰り返し、繰り返し、気が付くと、その若者たちはある日、ギターリストになっているという次第です。
凄いですね、これを成長といいます。
最初の一歩を侮ってはいけません。
その連続が実は一番の近道なのであります。
今日のひとこと。
「急がばまわれ」あはは。
posted by 辻 仁成
辻 仁成
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作家、画家、旅人。パリ在住。パリで毎年個展開催中。1997年には「海峡の光」で芥川賞を受賞。1999年に「白仏」でフランスの代表的な文学賞「フェミナ賞・外国小説賞」を日本人として唯一受賞。愛犬の名前は、三四郎。