日々のことば
日々のことば「オムレツを作るには?」 Posted on 2025/07/03 辻 仁成 作家 パリ
おつかれさまです。
そうだよな、と思う英語のフレーズがあります。
You can’t make an omelette without breaking eggs.
訳すと、
「たまごを割らなければ、オムレツは作れない」
になります。そうですよねー。
当たり前のことですが、これは何を示唆しているのか、・・・。
何かアクションを起こさないと、何もできないよね、ということなんです。
もっと言えば、じっとしていても現状はかわらないよ、とまたまた、「忠言は耳に痛し」ですねー。
そして、この英語のことばからもっと突っ込んでいるのが「後漢書」に登場する、
「虎穴に入らずんば虎子を得ず」
になります。
これは、虎の穴に入らないと虎の子は手に入らない、というちょっと極端な意味なんですけれど、要は「リスクをおかしてでも行動をしなきゃ、成功なんかつかめないぜ」という戒めということになります。
どっちも、ぼけっとしていても何も生まれない、と言っているわけです。
当たり前じゃん、と思うんですが、当たり前がね、なかなか難しいんですわ。
何かを掴むためには、一にも二にも、行動しかない、という風に思えばいいですね。
ぼくは、たとえば、人生が膠着状態に陥った時とか、今、卵割らなきゃオムレツは作れないよね、と自分に言い聞かせて、行動をしてきました。
まさに、今なんですよ、このことばを唱えるのは!
若い頃、ぼくは「いつか、アーティストになってみせる」と仲間たちに言いふらしていたんです。かなり、いいふらしておりました。
そしたら、ある日、大学時代のガールフレンド君に腕組みされて、「ねー、君、いつなるの?」と言われてしまい、「あああ、もう、後がな~い」と焦ることになりました。笑。
今、卵割らなきゃオムレツは作れないよね、と自分に言い聞かせたのもその時でした!
You can’t make an omelette without breaking eggs!
そのあと、カセットテープに自分の曲を録音して、YAMAHAとかソニーとかに、がんがん、送り付けるようになったわけです。ついに、卵を割ったんですね。
そしたら、ある日、忘れもしません。風呂もないぼろぼろなアパートに一本の電話がかかってきました。ぼくはその時、必死だった、と思います。
「ソニーレコードの山本といいます。辻くん、長いお付き合いをさせてください」
これですよ。いきなり。かっこよくないですか?
「長いお付き合いをさせてください」
って、ソニーレコードの新人発掘部門のディレクターさんに言われたんですから・・・。
あの瞬間は大喜びをしたものです。
思えば、卵を割ったから、生まれた結果だったな~、とデビューをした直後に気が付きました。
ソニーオーディションというのがありまして、尾崎豊さんとぼくのバンドECHOESがその年の最優秀アーティストになるんですが、はじまりは、カセットに歌を吹き込んだあの瞬間。デビューアルバムがオムレツであるならば、カセットに吹き込んだ歌が卵だったんですね。
ぼくは、人生が膠着状態になった時、自分に言い聞かせることにしています。
「卵を割る時は今でしょ」
ってね。
はい、今日も精一杯生きたりましょう。
えいえいおー。
今日のひとこと。
「卵は割らなければオムレツはつくれない」
今日のごはん
「パリ15区、DANさんの松花堂弁当」
※ 新しくできたお弁当懐石のおみせ、シェフのおさむさんとは新バンドを結成、来年の音楽祭に出演方向で練習を開始する、予定・・・。笑。
個展のお知らせ。
いよいよ、もうすぐですね。個展、迫ってきましたよ。SNSとかでぼくのなりすましが出没中らしく、騙されそうになった人がいるとか・・・。怖い時代ですね。
注意をお願いいたします。
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「Le Visiteur」展、
東京、7月9日から21日まで、三越日本橋本店、コンテンポラリーギャラリーにて。
岡山、7月23日から28日まで、岡山天満屋本店、美術画廊にて。
パリ、10月13日から26日まで、パリ、ピカソ美術館そば、GALERIE20THORIGNYにて。
問い合わせは、各画廊へお願いします。
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そして、毎月3回やっているラジオ・ツジビルはこちらから、です。どうぞ。
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posted by 辻 仁成
辻 仁成
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作家、画家、旅人。パリ在住。パリで毎年個展開催中。1997年には「海峡の光」で芥川賞を受賞。1999年に「白仏」でフランスの代表的な文学賞「フェミナ賞・外国小説賞」を日本人として唯一受賞。愛犬の名前は、三四郎。