日々のことば

自分流・日々のことば「実る」 Posted on 2025/07/04 辻 仁成 作家 パリ

おつかれさまです。
いろいろな人と出会ってきましたが、こういうぼくが言うのもなんですが、人というのはその人の言動というか、その佇まいでさえも、修行を積んだ徳のある人というのは自然な風格がありますね。
カフェとか居酒屋などで横の席に座った人などを見ていると面白いです。
その人達が話している内容に、自慢しかない人もいれば、自分を一切みせずじっと聞いている人もいますし、謙遜が過ぎて逆に自慢にしか聞こえない人もいたり、笑、・・・。
その中にあり、この人はすごいなと思わせるひとは、出しゃばることもせず、ましてや、自慢もしません。
「あなたはただものじゃないでしょう」
とあえて、訊いてしまうような人もいます。
昨日も行きつけのカフェバーでお初の方々と知り合いましたが、その人の人生が垣間見える瞬間が何度かあり、興味深かったです。

辻仁成 Art Gallery

自分流・日々のことば「実る」



そういえば、30年ほど前のことになりますが、永福町という町に住んでいたことがありました。
方南町にも住んでいました。あの辺です。
そこの居酒屋で、お隣になった会社員風の男性たち数名が言い合いというか、激論というか、何かがうまくいったんでしょうね、打ち上げのよう感じで宴会をやられていたわけです。
すると、一人が誰かの批判というか、怒りだしたんです。
ま、その人が正しいんでしょうが、「あいつは口ばっかりだ」みたいな感じの剣幕で、どうなるのかな、と思っていると、その中の年配の男性が、
「実るほど頭が下がる稲穂かな」
と言ったんですよ。
ぼそっと言ったのですが、絶妙のタイミングでした。
みんな、顔を見合わせて、数秒黙り、怒っていた人も笑顔になって後頭部をかいておりました。
稲穂って、実っていくと垂れ下がりますよね。
「君はたくさん頑張って苦労してそこまでやったんだからさ、ちょっと謙虚になったほうがいいよ」
と、いう諭し方だったわけです。
そのあと、会社員風の人たちは、そうだそうだ、という顔になって、もう、みなさん、実った稲穂のような感じで楽しいお酒になっておりました。
へー、ことばの力ってあるなー、と思ったものです。
やはり、だてに長く生きていないですよね。
何気ない一言でしたが、場の雰囲気を変える力、さすがだな、と思いましたよ。
はい、今日も精一杯生きたりましょう。
えいえいおー。

今日のひとこと。
「実るほど頭が下がる稲穂かな」
※ 頭はこうべと読むこともあります。

自分流×帝京大学

自分流・日々のことば「実る」

今日のごはん
「黒オリーブのタルティーヌ」
※ 黒いオリーブとアンチョビを包丁で叩いてオリーブオイルであえたもの。一味とか、ふって、パンに塗って食べると美味い!!!

自分流・日々のことば「実る」



個展のお知らせ。
いよいよ、9日からです。個展、迫ってきましたよ。なりすましに注意しつつ、よろしくお願いいたします。ぼくは、なりすましじゃない方の、ぼくです!!!

「Le Visiteur」展、
東京、7月9日から21日まで、三越日本橋本店、コンテンポラリーギャラリーにて。
岡山、7月23日から28日まで、岡山天満屋本店、美術画廊にて。
パリ、10月13日から26日まで、パリ、ピカソ美術館そば、GALERIE20THORIGNYにて。
問い合わせは、各画廊へお願いします。

そして、毎月3回やっているラジオ・ツジビルはこちらから、です。どうぞ。

TSUJI VILLE



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辻 仁成

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Hitonari Tsuji
作家、画家、旅人。パリ在住。パリで毎年個展開催中。1997年には「海峡の光」で芥川賞を受賞。1999年に「白仏」でフランスの代表的な文学賞「フェミナ賞・外国小説賞」を日本人として唯一受賞。愛犬の名前は、三四郎。