日々のことば

日々のことば「突破」 Posted on 2025/07/16 辻 仁成 作家 パリ

おつかれさまです。
ここぞという時に、ぼくが使う飛び道具的なことばを今日は紹介させてください。
「一点突破、全面展開」
(いってんとっぱ、ぜんめんてんかい)

ぼくが20代の時、バンドマンだった頃、当時所属していた音楽事務所の社長さんがよくこのことばを使っておられました。
「多勢に無勢」
といいますけれど、これは「大勢の相手に対して少人数で向かっても、勝ち目はないこと」を意味します。
そのような絶体絶命の状況下で、この「一点突破、全面展開」は役立だったりすることもある、わけです。
自分が置かれている最悪の状態の時に、それを打破するために、敵の弱い一点に集中し、最大限の力を振り絞り、全力で挑めば、そこを突き破ることができ、最終的に全面の展開へとつながる、ということのようです。
若い頃のぼくはこのことばに惹かれました。
「一点突破、全面展開」
何か、若々しい猪突猛進のイメージがありますね。
今も、「四面楚歌」の状況に置かれた時など、ぼくは使うことがあります。意識を集中し、一点を突き抜けて、最終的に全部を開放してみせる、という意識・・・。
いいですよね、燃えますなぁ。
めっちゃ好きなことばでした。

辻仁成 Art Gallery

日々のことば「突破」



この言葉は諸説あるので、明確には言えませんが、孫子の兵法で語られたことが一応起源とされているようですが、・・・戦に勝つための「兵法」ですね。
要約すると、結果を出したい戦の場合、あれやこれや手を出すと、的が絞れず成果が出ないので、最も効果が出るだろう場所一点に集中してそこへと突き進めば、巨大な防壁も崩れて、突破できる、という考え方ですね。たぶん。
今も昔も、ビジネスマンに信奉されたことばで、突き抜けるためには一点に集中しなさい、という教えだと言われています。
そのために、不幸なこともありました。
このことばは、戦争時代に、敵に包囲された部隊が最後の最後に、このことばにすがって、活路を見出すべく使われ、一点突破を目指し、結局、その部隊は全滅へと導かれた、のだとか・・・。
そういう不幸もあったのでしょう。
勢いのあることばですが、同時に、付け加えるならば、その一点は、絶対に突破できるだろう、一点でなければならない、ということでもあるようです。
その見極めは難しいですね。

まぁ、しかし、人生で一発逆転を望み、勝利を掴みたい人たちは、「勇み足」になりがちなので、状況を確実に把握分析できる力があったうえで、「一点突破、全面展開」を利用するのがいいのかな、と思います。
とはいえ、ぼくはいつもここぞという時に、「一点突破、全面展開」を心に念じて、突き進むことがあります。
「やけくそ」
まさに、そういう時にすがりたくなる言葉なので、使う時には、気をつけましょう。
そもそも、勝利って、何か、ということですけれど・・・。
勇気があるなら、やってみるのも、一つの手かもしれません。
はい、今日も精一杯生きたりましょう。
えいえいおー。

今日のひとこと。
「一点突破、全面展開」

自分流×帝京大学

日々のことば「突破」

今日のごはん。
「焼き鯖ののり弁」

日々のことば「突破」


「Le Visiteur」展、
東京、7月9日から21日まで、三越日本橋本店、コンテンポラリーギャラリーにて。
岡山、7月23日から28日まで、岡山天満屋本店、美術画廊にて。
パリ、10月13日から26日まで、パリ、ピカソ美術館そば、GALERIE20THORIGNYにて。
問い合わせは、各画廊へお願いします。

そして、毎月3回やっているラジオ・ツジビルはこちらから、です。どうぞ。

TSUJI VILLE

日々のことば「突破」



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辻 仁成

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Hitonari Tsuji
作家、画家、旅人。パリ在住。パリで毎年個展開催中。1997年には「海峡の光」で芥川賞を受賞。1999年に「白仏」でフランスの代表的な文学賞「フェミナ賞・外国小説賞」を日本人として唯一受賞。愛犬の名前は、三四郎。