自分流・日々のことば
日々のことば「擒」 Posted on 2025/08/03 辻 仁成 作家 パリ
おつかれさまです。
人生というのは、いろいろと人を巻き込んで、うまく回すというか、説得したり、議論して動かすことが必要な場合があります。
生きていると、どの場面でも、必ず、相手が出てきますね。
頑固な相手を動かさないとならない場合っての、なかなか厄介で、悩ましいです。
自分一人ならば自由にできることですが、相手も人間ですからね、どうやって、そこを攻略するか、・・・。
とくに、頑固な人の心を動かすのは至難の業です。
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たとえば、頑固な父親を説得したい時、どうします?
そういう時には、母親を先に説得して、母親から父親を口説いてもらうのが早かったり、しませんか?
矢でも鉄砲で動かない人を動かすためには、周囲の人間をまず動かすのが手っ取り早い場合こともあるのです。
その相手が信頼している人間を説得するに限ります。
「将を射んとする者はまず馬を射よ」
はい、これが、今日のことば、になります。
「国破れて山河在り」で有名な中国の詩人、杜甫のことばです。
中国、唐の時代の人ですが、政治的混乱や人間の苦悩を、実にリアルに詩にされてきた方で、「詩聖」と称されていました。
彼の詩「前出塞」に「人を射るに先ず馬を射て、敵を擒(とりこ)にするに先ず王を擒にす」と書かれているのです。
戦場で、敵の大将を射止めようとするならば、彼がのる馬を射る方がはやい。
目指すものを直接ねらうのではなく、その周囲のものに打撃を与えたり、あるいは、周囲の者たちを味方につけたりする方が早い、という作戦ですね。
馬上の将軍よりも、彼がのる馬の方が圧倒的に大きくて狙いやすいですからね、たぶん、王道な攻め方なんだと思います。
まともに戦って勝てない相手にも弱点はあるわけで、どこから攻めるか、よく考えれば勝ち目は出てくるぞ、という教えです。
正直、ぼくはこういう戦略が下手で、激しく真正面から対峙してしまい、かなりの痛手を被るタイプなんですね。
でも、複雑な人間関係が多い世の中ですからね、上手に生きないと、いけにえにされてしまいかねないわけですから、時には、「将を射んとする者はまず馬を射よ」の精神で、うまくやる必要もあるかもしれません。
ぼくみたいに突撃を繰り返していると、身が持ちませんから。
このことば、肝に銘じて、これからの人生乗り切ってまいりたいと思います。
ということで、この殺伐とした世界の真ん中で、今日も精一杯生きたりましょう。
えいえいおー。
今日のひとこと。
「将を射んとする者はまず馬を射よ」
今日のごはん。
「にゅうめん」
個展情報
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パリ、10月13日から26日まで、パリ、ピカソ美術館そば、GALERIE20THORIGNYにて「辻仁成展」開催します。
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2026年、1月中旬から3月中旬まで、日動画廊パリにて、グループ展に参加します。秋頃に、詳細が決まります。
また、お知らせします。
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日本での開催は、来年夏までありません。
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そして、毎月3回やっている人生を語り倒すラジオ・ツジビルはこちらから、です。どうぞ。
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posted by 辻 仁成
辻 仁成
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作家、画家、旅人。パリ在住。パリで毎年個展開催中。1997年には「海峡の光」で芥川賞を受賞。1999年に「白仏」でフランスの代表的な文学賞「フェミナ賞・外国小説賞」を日本人として唯一受賞。愛犬の名前は、三四郎。