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思い出の日本旅「諏訪町下海岸」 Posted on 2025/08/06 辻 仁成 作家 パリ

思い出の日本旅「諏訪町下海岸」

おつかれさまです。
七月ひと月間の長い日本滞在でしたが、やっと最後に自分だけの時間が出来たので、次の小説の舞台にしたいと思っている葉山に行ってきました。
愛犬もいないし、仕事からも解放され、ぼくが見つけた小さな浜辺を今日はご紹介したいと思います。
たぶん、あまり有名ではない海岸、浜辺なのです。
けれども、ぼくが住んでいるノルマンディの夕陽が沈む世界一美しいと思っていた浜辺にも負けない、もしかすると、ある意味もっと抒情的な海岸でした。

思い出の日本旅「諏訪町下海岸」

思い出の日本旅「諏訪町下海岸」

諏訪町下海岸というのですが、どなたか、ご存じでしょうか?
知らないですよね?
たまたまぼくの友人が有名な森戸海岸に住んでいたので、その彼らの家を訪ねることがなければ、発見することはなかったかもしれません。
葉山マリーナと森戸海岸のちょうど真ん中に位置する、小さな小さな磯の香りのする浜辺なのです。

思い出の日本旅「諏訪町下海岸」

思い出の日本旅「諏訪町下海岸」

清清寺バス停の前に、その浜辺へと続く小道があるんです。
まさに、この長くはない小道を小説に書きたいと思ってしまいました。
そこを歩いて浜辺に出ると、磯の香りに、包まれます。

思い出の日本旅「諏訪町下海岸」

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ちょうど夕刻だったので、真正面に富士山が見えました。
こんなに美しい富士山が見えるんだ、と驚き、これはノルマンディの浜辺よりも好きかもしれない、と思ってしまったわけです。
こういう小さな名もない海岸を舞台にちゃんとした文学作品を書くのが、ぼくの大事な使命のような気になってきます。
浜辺のテトラポットに腰掛け、そよぐ風を浴びながら、創作のイメージを広げていきます。

思い出の日本旅「諏訪町下海岸」

※ 遠くに富士山が見える、絶景ポイントでした。しかも、この夕陽・・・。

ぼくは夕陽研究家ですからね、フランスの夕陽に関してはかなりの事情通なんですけれど、しかし、この諏訪町下海岸の夕陽にはやられました。
遠方に富士山が見えましたが、たなびく雲の向こうがオレンジ色に染まり、海岸線を縁取っていくのです。
時間が止まり、言葉が消失してしまいました。
美しい世界が出現したんです。

思い出の日本旅「諏訪町下海岸」

思い出の日本旅「諏訪町下海岸」

思い出の日本旅「諏訪町下海岸」

夜は、そのバス停から歩いて5分ほどのところにある「真」というお店に行きました。
友だちとはじっくりと話したかったので、彼と彼の地元の友人らと、割烹「真」さんで、はも山椒土鍋ごはんとか、地元のお魚とか、たくさん食べて、ちょっとほろ酔いになった、父ちゃんでした。

思い出の日本旅「諏訪町下海岸」

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辻仁成 Art Gallery

思い出の日本旅「諏訪町下海岸」

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ぼくが宿泊したのは、まさに清清寺バス停の裏にあるホテルで、若い人たちが靴を脱いであがる座敷コワーキングスペースがあり、なぜか、みんなパソコンを持って来ておられ、仕事をされていたんです。ここまで来て、仕事かー、と思った父ちゃんです。
東京から逃げてきたような、そんな感じでした。
ぼくはもう若くないので、最上階にある見晴らしのいい部屋をとったのですが、カーテンをあけると、葉山周辺が一望出来たんです。
窓が広くて、光が優しくて、心が救われました。

葉山、素晴らしい場所ですね。
ぼくの日本滞在で決して忘れることのできない、静かな一日になりました。
帰りは友だちの車に乗せてもらい、東京まで1時間20分ほどのドライブだったんですよ。
東京からこんなに近いんですね。
来年は、長期滞在をして、ここで小説を執筆したいな、と思っています。
「真」の大将とも仲良くなったので、また、いくからね!

思い出の日本旅「諏訪町下海岸」

思い出の日本旅「諏訪町下海岸」

※ 珍しく、ぐっすりと眠れました。笑。海を眺めながら執筆に没頭したいなァ、いつか・・・。

思い出の日本旅「諏訪町下海岸」

個展情報

パリ、10月13日から26日まで、パリ、ピカソ美術館そば、GALERIE20THORIGNYにて「辻仁成展」開催します。ピカソもぶっ飛ばす勢いです。

2026年、1月中旬から3月中旬まで、日動画廊パリにて、グループ展に参加します。秋頃に、詳細が決まります。
また、お知らせします。

そして、毎月3回やっている人生を語り倒すラジオ・ツジビルはこちらから、です。どうぞ。

TSUJI VILLE



Posted by 辻 仁成

辻 仁成

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Hitonari Tsuji
作家、画家、旅人。パリ在住。パリで毎年個展開催中。1997年には「海峡の光」で芥川賞を受賞。1999年に「白仏」でフランスの代表的な文学賞「フェミナ賞・外国小説賞」を日本人として唯一受賞。愛犬の名前は、三四郎。