自分流・日々のことば

日々のことば「無と空」 Posted on 2025/08/11 辻 仁成 作家 パリ

おつかれさまです。
ぼくは今、ノルマンディで毎日、早朝から深夜まで絵を描いています。
どうして、絵を描くと心が安定するのか、というとですね、「無」になることが出来るからなんです。
小説というのはやはり考えないとならないんですよ。そりゃあ、疲れますよね。100作品くらい書いたので、もう、ちょっと考えるのをやめてもいい時期ですかね。
これ以上書くと、きっと、死んじゃいますね。笑、、、。

小説を書いていると、憎しみや愛情や後悔や期待を升目に埋めていかないとならないので、読む人よりも書く人の方がうんと頭を使って、ちょっと苦しくなります。
もちろん、達成感もあるんですけれど・・・。

絵を描くのが仕事のようになった今、ぼくは自分から進んでカンバスと向き合っています。
今日は、朝の5時半から夜の23時くらいまでのずっと絵を描き続けていました。笑。
頭の中は空っぽの状態で、描いています。
「無」でいられるんですが、正確には、「ゼロ」ではなく、「空」の中にいるような気がします。
空って、空っぽとか、空間の「空(くう)」ですね。
「無」と何が違うのか、と思いますよね。
これが、全然違うんですよ。
ちょっと面倒くさい話になりますhが、いいですか?

日々のことば「無と空」

日々のことば「無と空」



「無」というのは、「何もない」ということであり、でも、反対側に「有」があります。
一方、「空」というのは、乱暴なくらい簡単に言っちゃいますが、「固定的概念が無い」ということになります。
実態の不在を示しています。でも、存在があっての空。
風船をふくらせると、丸くなりますが、中には何もないです。でも、実態があります。あるいはそういうことかなと思っています。
無ではない、何もないわけじゃない、風船を構成している何か・・・。
たとえば、風船を作った人、風船を膨らませた人、風船におくりこまれた空気とか、全部、その風船にはその膨らんだ風船へと繋がる何かがあって、生まれた様々な因縁で構成されているというわけです。
空っぽなんだけれど、無、じゃない。
それが空です。
空間の「空」もそこに何もないように見えるけれど、ちゃんと、不在ながらスペースがあります。

主に「無」は西洋の概念といってもいいかもしれません。絶対的な不在です。どっか数学的ですかね。
逆に「空」は実は仏教の思想から出てきた概念で、「因縁によって生まれた」ものです。
無いわけじゃなく、実体がない、ということです。永遠みたいに・・・。

ぼくの歌に「悟り」(ZAMZAの曲です)という曲があって、その中で英語で「空を掴め」と叫んでいます。
空を掴む、というのは、どういうことでしょうね。
昔、20歳くらいの時に、渋谷パルコの前で、路上生活者の人に呼び止められ、いろいろと言われたんですが、その一つに、「空を掴め」というのがありました。あはは。本当です。
※今思うと、あの人は仙人だったのかもしれない・・・。
あれから、ずっと考えています。
空を掴むということは、永遠を掴めということなんじゃないか、と最近、思うようになりました。
無は掴めませんが、空はもしかすると掴むことが出来そうな気がしています。
それは今現在、人間として存在している自分、様々な因縁が創り出した、親がいて、ここに生きている辻仁成という人間の、根本を掴む、ということかもしれません。
この話、難しいので、明日、もう少し続きを書きましょうかね。
はい、今日も精一杯生きたりましょう。
大丈夫です。

今日のひとこと。
「無になって、空を掴め」

自分流×帝京大学



今日のごはん。
「猿渡製麺所のそうめん」

日々のことば「無と空」

日々のことば「無と空」

日々のことば「無と空」

朝、4時半くらいに目が覚めて、しばらくぼんやり虚空を眺めています。それから起きて、三四郎を起こさないように絵を描くスペースに行くんです。描きかけの絵に筆を落とします。太陽が昇り始めると、アトリエの空間に光が満ちてきます。朝の光の中で、ぼくは「空」を掴むように絵と向き合っているんです。豊かな時間です。悟りへと向かう道すがらみたいね・・・。
三四郎は7時くらいに散歩に連れていきますよ。
☆。
ということで、個展情報です!!!

パリ、10月13日から26日まで、パリ、ピカソ美術館そば、GALERIE20THORIGNYにて「辻仁成展」開催します。

2026年、1月中旬から3月中旬まで、「日動画廊パリ」にて、グループ展に参加します。秋頃に、詳細が決まります。
また、お知らせします。

辻仁成の美術サイトに、三越での写真が掲載されました。カメラマン、大野さんが撮影した、絵と対峙する、ぼくです。

辻仁成 Art Gallery

日々のことば「無と空」

そして、毎月3回やっている人生を語り倒すラジオ・ツジビルはこちらから、です。どうぞ。

TSUJI VILLE



posted by 辻 仁成

辻 仁成

▷記事一覧

Hitonari Tsuji
作家、画家、旅人。パリ在住。パリで毎年個展開催中。1997年には「海峡の光」で芥川賞を受賞。1999年に「白仏」でフランスの代表的な文学賞「フェミナ賞・外国小説賞」を日本人として唯一受賞。愛犬の名前は、三四郎。