自分流・日々のことば
日々のことば「色と空」 Posted on 2025/08/12 辻 仁成 作家 パリ
おつかれさまです。
昨日は「無」と「空」について、個人的な感想を書かせて頂きましたが、今日はその続きで「色」と「空」についてです。
みなさん、「色即是空、空即是色(しきそくぜくう、くうそくぜしき)」ということば、聞いたことがありませんか?
これは仏教のことばです。※ぼくには信仰がありませんので、勝手なことを書くこと、お許しください。
即是は、=のことだから、色はイコール空、空はイコール色となります。
この場合の色(しき)というのは、「すべての形あるもの」のことで、まぁ、ずばり言うと、物質のことでございます。
で、「空」は昨日描いた通り、実態のないさま。
「色即是空、空即是色」が何を言っているのか、ちょっと超訳してみますね、個人的な翻訳ですよ。笑。
「この世のありとあらゆるものは常に変化の中にあり、変わらないものはない。つまり、すべてのものや人はすなわちつながりの関係によって存在している、だから、なるようになるし、結果として、なんとかなる」
怒られるかもしれませんが、ぼくが読みほどく「色即是空、空即是色」には、人間界で生きていく不条理から、解放させてくれるメッセージが含まれているように思えてならないのです。
超訳ですからね、ごめんなさい。
人間というものは厄介で、不意に悪く言われたり、不条理な攻撃を受けることがありませんか?
これは、間違いなく、人間関係というものが連れてくるもの、です。
でも、「色即是空、空即是色」の観点からこれを読みほどくと、こういう苦しみは、人間関係の因縁が持ち込んできた、ものに過ぎない、ということになります。
ぼくらは、常に変化する現在に生きていますから、苦しみが長続きすることもないわけで、ケセラセラ、ということですね。
おっと、色即是空からケセラセラかよ、と思いますよね。
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仏語のケセラセラは、実は、スペイン語のQue será, seráから来ています。このスペイン語の訳は、
「どうなるんだ?」
となります。
どうなるだろう、と悩んでいたスペイン人の思想がフランスに渡って来て、ケセラセラ「なんとかなるよ」に変化したわけです。
とにかく、やれることはやったじゃん、 結果は知らんが、ケセラセラでいくしかない、という実にフランス的な哲学。
ぼくが仏教を超越して感じとった「色即是空、空即是色」は欧州的な「ケセラセラ」に通じるものがあるように思えてなりません。
「ケセラセラ」には、重たい現実に翻弄され、投げやりになるのではなく、前向きに生きようとする「空」の思想を感じることが出来ます。
俺たちは幻のような現実の中で生きている。
この世は流動的で、そこに留まることが出来ない。
だから、些末な苦しみなどに翻弄されることはバカらしい。
なるようになるし、なんとかなる、実際、なんとかなってきたじゃないか。
常に、前向きにこの世界をとらえ、生まれてきたこの現実を、精一杯生きることこそ、自分を解き放つための道なのだ、と。
はい、今日もひたすら精一杯生きたりましょう。
大丈夫です。
今日のひとこと。
「ケセラセラ」
今日のごはん。
「崎陽軒シウマイと玄米」
ぼくの歌に「空」(SORA)というのがあるんですが、実はこの「空」(くう)の歌なんですよね。笑。
苦しい時には空を見上げてみてください。
空っぽに見えるこの空には、ものすごく偉大な愛が満ちています。そして、逆に、人間の世界の小ささを思い知らされます。
せっかく生きたこの世界、幻にする前に、生に浸って生き切りたいものです。
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ということで、近づいてきました、個展情報です!!!
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パリ、10月13日から26日まで、パリ、ピカソ美術館そば、GALERIE20THORIGNYにて「辻仁成展」開催します。
22点の新作が並びます。今回は、ちょっと広重からインスピレーションを貰った、日本的な作品がずらっと並びます。
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2026年、1月中旬から3月中旬まで、「日動画廊パリ」にて、グループ展に参加します。秋頃に、詳細が決まります。
また、お知らせしますが、こちらは、美しい花からヒントを得たボタニカルな作品が並びます。
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辻仁成の美術サイトに、三越での写真が掲載されました。カメラマン、大野さんが撮影した、絵と対峙する、ぼく。芸術は爆発中です。
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そして、毎月3回やっている人生を語り倒すラジオ・ツジビルはこちらから、です。どうぞ。
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アトリエでは、豊かに静かに時間が流れております。色即是空でまいります。
posted by 辻 仁成
辻 仁成
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作家、画家、旅人。パリ在住。パリで毎年個展開催中。1997年には「海峡の光」で芥川賞を受賞。1999年に「白仏」でフランスの代表的な文学賞「フェミナ賞・外国小説賞」を日本人として唯一受賞。愛犬の名前は、三四郎。