自分流・日々のことば

日々のことば「悩と迷」 Posted on 2025/08/15 辻 仁成 作家 パリ

おつかれさまです。
人間は迷う動物です。
ぼくもめっちゃ迷いに迷う人間で、とくにレストランで注文する時とか、あれでもないことでもない、と・・・。
先月、日本にひと月間滞在しておりましたが、その時のこと。
外食がその日はどうしても嫌で、コンビニにいったんです。
しかし、日本のコンビニでお弁当を買う時って、びっくりするくらい目移りして、迷いに迷いますな。
あれはなんですかね、そもそも、異常に種類が豊富なので、暑いし冷やしラーメンと決めていったにも関わらず、冷やしうどん、サラダそば、に心を奪われます。
ああ、やっぱ、そばにしよう、と決意して横を見ると、おいなりさん入りとかもあって、おいなりさんが大好物だから、あゝ、これは迷う、となるわけです。
すると、どこからともかく、声が・・・。
「すいません。もしかして、つ、辻さんすか?」
かっこ悪いところを見つかったわけです。違うとは言えません。
しぶしぶ、苦笑い・・・。
その人、エコーズ時代からのファンだというのですが、
「じんせいさんでも、弁当で悩むんですね、なんかほっとしました」
と言われてしまい、てへへ、と笑ってごまかした次第です。
しかし、迷い、というのはどこからくるのか、と言いますと、もっといいものを手に入れたいという願望が正体なんですな。
もっと暮らしをよくしたい、もっと成功したい、もっと幸せになりたい、もっとうまいものを食べてやりたい、という欲望のせいなんです。
なるほど、そりゃあ、そうです。
迷わない人は、そこに執着や欲望がない、ということなんですかね。
元エコーズファンの男性と別れた後、別の男性がやってきまして、いまだ悩みに悩みまくるぼくの目の前で、何のためらいもなくかつ丼弁当を手に取ってレジへと行きました。
かっさらうように、鷲掴みにして、レジへ行くその後ろ姿、おお、かっこいい。
しかし、ということは、彼はもうかつ丼以上のものへの欲望はない、ということになるわけですね。
それとも、何日も悩んで今日こそはかつ丼にしてやろうと意を決してやってきたか、どっちかなんです。
ぼくはかつ丼マンがコンビニを出たあと、彼と同じかつ丼を手に取ってレジへと、・・・笑。
こういうのを「優柔不断」といいます。

日々のことば「悩と迷」



しかしですよ、
選択肢がいろいろとあるからこその「迷い」ですから、でも、似たような状況で「悩んでいる」のであれば、それはちょっと気が重いのはたしかですね。
迷いというのは、選択肢がコンビニ弁当のようにある種明確で、どっちにしようか、と考えている、お気軽な状態・・・。
一方で、悩むは、どうしていいのかわからない、という心の葛藤や苦しみを含んでいるわけで、こっちは少し深刻なんです。
コンビニの弁当で迷っているのは微笑みを誘われますが、恋愛とか人間関係などで苦しんで悩んでいると、そうはいかないです。

しかし、・・・。
ぼくは自分の人生においては「悩む」ことを優先しています。
「迷うより悩め」と常に自分に言い聞かせています。
岐路に立った時、迷ったら、ダメなんです。
岐路に立ったら、悩んで、悩んで、突き抜けないとならないんです。
岐路で迷っていたら、かつ丼を掴んでしまいます、欲しくもないのに。
岐路に立った時こそ、思いっきり悩んでこその人生です。
悩むは重たいことばですが、解決の先には未来が開ける可能性があります。
人生には大きな岐路が待ち受けています。
どうぞ、良く悩んで、前進をしてください。ここぞという岐路にぶつかった時には、迷わず、悩みましょう。
突き抜ける道を悩んで見つけてください。迷ったら迷路に入って抜け出せなくなってしまいますからね・・・。
はい、今日も精一杯生きたりましょう。
大丈夫です。

今日のひとこと。
「迷うより悩め」

自分流×帝京大学



今日のごはん。
「手づくりコロッケ」

日々のことば「悩と迷」

日々のことば「悩と迷」

どうしてもコロッケが食べたくなり、フランスにはコロッケという文化はないんです。フランスにおけるコロッケは脇役(ガルニチュール)としてのポテト揚げで、もはや、メインをはれる日本のコロッケの足元にも及びません。そこで、世界に名だたる日本コロッケはここでは買えないので、作るしかないのでした。美味しさの秘訣、コツは、肉とじゃがいもの量を50:50にすることなんです。
最高でした。

ということで、個展情報です!!!近づいてきましたよ。

パリ、10月13日から26日まで、パリ、ピカソ美術館そば、GALERIE20THORIGNYにて「辻仁成展」2週間、開催します。

2026年、1月中旬から3月中旬まで、「日動画廊パリ」にて、グループ展に参加します。秋頃に、詳細が決まります。
また、お知らせします。

辻仁成の美術サイトに、三越での写真が掲載されました。カメラマン、大野さんが撮影した、絵と対峙する、ぼく。

辻仁成 Art Gallery

日々のことば「悩と迷」

そして、父ちゃんがみなさんの悩みや質問にこたえるラジオ、毎月3回やっている人生を語り倒すラジオ・ツジビルはこちらから、です。どうぞ。

TSUJI VILLE



posted by 辻 仁成

辻 仁成

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Hitonari Tsuji
作家、画家、旅人。パリ在住。パリで毎年個展開催中。1997年には「海峡の光」で芥川賞を受賞。1999年に「白仏」でフランスの代表的な文学賞「フェミナ賞・外国小説賞」を日本人として唯一受賞。愛犬の名前は、三四郎。