自分流・日々のことば
日々のことば「改」 Posted on 2025/08/21 辻 仁成 作家 パリ
おつかれさまです。
今日、長い時間を費やして描いてきた絵を二枚、ぼつにしました。
一枚は3か月ほどかけて描いた絵ですが、ナイフで、削って描いた絵を画布から完全に消しさりました。(ほっといてもよかったのですが、高いキャンバスだったので、再利用のため、笑)
もう一枚は最近、描き始めたばかりなので、まだ油絵具が固着しておらず、大きなパレットナイフで、一気に削りました。
削除作業のあと、脱力感に襲われたので、パスタを作り、冷えたビールと共に、やけ食いをしてから、昼寝をし、今、これを書いております。
「わ、大変ですね」と驚かれるかもしれませんが、絵はまだ小説に比べると、制作期間が短いので、落胆も一晩程度で終わるのでたいしたことではありません。
ぼくは今までに、一年近くかけた大長編小説を3,4作品ボツにしています。
最初の頃はフロッピーディスクに保存していたので、それを叩き割ってうさばらししておりました。うりゅああああ!バキッ、バキッ!
最近はパソコンなので、削除キーで、消し、ゴミ箱を空にします。きっと復元もできるのでしょうが、悔しいので、パソコン自体(古かったので)をゴミ箱に捨てたことも一度あります。
なぜ、そこまでやるのか、と言いますと、ダメだと思ったものに手を入れてなんとか売り物にするという魂胆が嫌なんです。
永遠に自分が納得できず生きないとならないなんて、地獄じゃないですか?
こういう作家の友人はけっこう多いと思います。
だから、なんだって、話しですけれど・・・。
☆
話しは戻りますが、今、目の前につぶした画布があって、つぶした画布なのに、なんか、美しい絵のように見えるから、うざい感じで、頭にきますよね。
ブルーの絵なんですけれど、ブルーをパレットナイフで剥がしたら、下地の白が青と見事に混じっていて覗いて、それなりに「失敗」を美しく見せやがるものだから、複雑。
ま、でも、そんなものに価値はありません。なぜなら、それはぼくの意図が入ってないからです。
さようなら。ボツ絵!
※、落胆するぼくを気遣って一緒に落胆をしてくれる愛犬。
ところで、
「過ちて改めざる是を過ちという(あやまちてあらためざるこれをあやまちという)」ということばがあります。
これは、間違いをしても、それを改めないことこそが本当の過ちなんだよ、知っているかね、という意味のことば。
「失敗は成功のもと」ということばもありますが、失敗してこそ、成功へ近づくというような意味のことばよりも、前者はもっと深い気がするので、よく失敗をするぼくはこっちのことばの方が好きです。
「過ちて改めざる是を過ちという」
原文は「子曰、過而不改、是謂過矣」
昨日、なんくせをつけました孔子先生のことばです。笑。なんくせつけるくらい好きなんでしょうね。
おなじみ「論語」からです。(論語は弟子たちが先生の言行をもとに編纂したもの)
過ちをしてこれを改めるなら、それはもはや過ちにはならない、ということのようです。孔子の弟子も語っております。
しかし、失敗をやらかし、それを改めないものこそ、実は本当の過ちなのだ、と孔子は諭していますね。
これはまさにその通りだと思います。
☆
ぼくはこの記事をアップしたあと、この削除したキャンバスに、もっとすごい絵を描いてやろうと企んでいます。
何が失敗だったのかは、だいたいわかっています。
色の配色、溶剤の比率のミス、今回は手作りの速乾性のメディウムという液体の比率をちょっと変えたのがいけなかったんです。普段使わないんですが、個展が近いので、一日でも早く乾燥するよう、いつもより強くしてしまったために、ナイフの滑りが悪くなり、思ったような線が描けなくなった、というわけで、原因はわかっています。
気に入らない作品を展示はできませんから、全部絵の具を除去したのは、正解だった、と思いますし、この後、きっともっといいのが描けるはずです。
転んでもただでは起きない、のが辻流なので、どんな時でもポジティブ精神、でこの後、朝まで頑張りたいと思います。
はい、今日も精一杯生きたりましょう。
大丈夫です。
※ 作品が着々と出来上がっています。乾燥を待っている我が子たち、10月13日からパリの画廊に出陣です。
今日のひとこと。
「過ちて改めざる是を過ちという」
今日のごはん。
「ソーセージとトマトのパスタ」
トマトはプティトマトをフライパンでじっくりとソースになるまで炒めつつ煮詰めるのです。トマトとオリーブオイルとニンニクだけです。それが最高なの。
ソーセージはスーパーの肉屋で買いました。マスタードをつけて食べるんですが、最高×2でございました。
よーし、やるぞ。
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ということで、個展情報です!!!
近づいてきましたよ。
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パリ、10月13日から26日まで、パリ、ピカソ美術館そば、GALERIE20THORIGNYにて「辻仁成展」2週間、開催します。
今回は、浮世絵にヒントを得た新しいシリーズ、ボタニカルな美しいノルマンディ世界、など、今までにない辻ワールドでおおくりします。全23点の渾身作で行くよ。笑。
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辻仁成の美術サイト、昨日、更新されました。
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posted by 辻 仁成
辻 仁成
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作家、画家、旅人。パリ在住。パリで毎年個展開催中。1997年には「海峡の光」で芥川賞を受賞。1999年に「白仏」でフランスの代表的な文学賞「フェミナ賞・外国小説賞」を日本人として唯一受賞。愛犬の名前は、三四郎。