自分流・日々のことば

日々のことば「期待」 Posted on 2025/08/22 辻 仁成 作家 パリ

おつかれさまです。
裏庭の端にある家庭菜園で農作業をしておりましたら、垣根越しに、お隣のご隠居、ミッシャルさんに、
「やあ、またまたトマトを収穫したので、これをどうぞ」
とフルーツ・トマトを手渡されてしまいました。
「食べてごらん」
言われるがまま、一つを口に放り込んだのですが、おお、これは甘い、美味い、と思わず悶絶してしまった父ちゃんです。
ミッシェル御爺は90歳なんですが、まだまだ元気で、庭仕事も畑仕事もしてますし、一人暮らしで、時々、娘さんご夫婦が様子を見に来ていますが、なんでも一人で出来ちゃうスーパーおじいさんなんです。
腰も伸びているし、とっても笑顔なの。
うちの母親とほぼ同じ年だけれど、彼はまだまだ何キロも歩いて買い物に行っているし、ちょっと耳は聞こえない感じですが、でも、頭の回転はものすごく早いのです。
「なんか、疲れた顔しておるな。何か悩み事でもあるのかね」
「あ、ばれましたか。悩み事はないんですが、年齢的な問題でしょうかね、たまに、このままで大丈夫なのかな、と心配になります」
「心配しても、どうにもならんよ。それが人生なんだから」
なるほど、そうでした。
「マダム、トマトは元気のもとだから、たくさん、食べて、やる気を出しなさい」
「はい」
ということで、90歳ですからね、何度も、ぼくはムッシュだと言っているんですが、ロン毛だし、細いから、それに格好も普通じゃないので、マダムとして認識されてしまっているようで、しょうがないから、お隣のマダムとして今は生きています。
もしかして、マダムだから、トマトくれたのでしょうか?
あはは、やばい・・・。
とまれ、今日はトマトと水牛のチーズを食べた父ちゃんです。
やっぱり、家庭菜園で作るトマトは美味しいですね。ぼくも、トマトを育てたくなりました。

日々のことば「期待」



なんで、ぼくは元気がなかったのか、と申しますと、更年期もあるのでしょうけれど、ちょっと人生に疲れてしまったのです。
期待し過ぎていたので、またしても、期待が叶わなかったために、ちょっと落胆をしておりました。
なんでか期待し過ぎる傾向があるので、結果がダメだとわかると、急に落ち込むのです。
人間ですからね、これは、仕方ありません。
「期待はするな、希望を持て」
いつも、自分に言い聞かせることばです。今朝は、朝から、何十回とこれを自分に言い聞かせておりました。
ぼくが子供のころに発明したことばで、昔から、ぼくは期待し過ぎるきらいがあったんですね。
今回の「期待外れ」は意外と大きな衝撃をつれてきたので、逆にそこまで落ち込みませんでしたが、人と話したくない病にかかり、ひきこもり傾向にあります。笑。
普段からひきこもりなので、ますます、やばい感じです。
期待をするから落胆をするので、期待を持たないに限ります。
仕事関係の仲間にも、「この件は、一切期待は持たないでほしい。ダメになる可能性も高いので」
と先回りをしておきましたから、ダメなことは想定内だったにもかかわらず、やはり、ダメだったか、と思うと、落ち込むわけですね。あかん・・・。
そこで、今朝、ぼくは「諦めることにする」と宣言をしたんです。
この件はもうここまでにする。おしまい。
でも、それだけだと辛いだけになるので、希望は残しておく、と自分に言い聞かせました。
ま、いつものことですが、そうやって、だましだまし、復活をしていくのが人間の人生なのかもしれません。
世の中の半分くらいを嫌いになる、という手もあります。今日は、80%くらいの世界を嫌いになることが出来ました。
これも実にいい手です。
関わらないようにすると、期待も伴わないので、落胆も減るからです。孤独が一番裏切りません。

家庭菜園がいいのは、植物はほぼ期待を裏切らないですし、ちゃんと水さえあげれば花を咲かせてくれるから、いいですね。
ベランダとかの自然に、逃げるのはいいことですよ。
「期待はするな、希望を持て」
と自分に言い聞かせながら、土いじりをしている父ちゃんであります。
日々というのは、こういう試練の連続ですから、慣れるしかありません。
ぼくは耳を塞いで、前進します。
「明けない夜はない」
はい、今日も精一杯生きたりましょう。
えいえいおー。

今日のひとこと。
「期待はするな、希望を持て」

自分流×帝京大学

日々のことば「期待」



今日のごはん。
「トマト」

日々のことば「期待」

※ かわいい袋にこんなにたくさんのフルーツ・トマト! 美味しそうですよね。これが超甘いんですわ。

希望はいいですな。乗り越えていくために、目標を持って、そこに向かって生きることで再び希望ある人生が蘇るというわけです。諦めたら、さっさと次に行くくらいの強い心を持って挑んでいくのがいいかな、と思う今日この頃です。
よっしゃ。

ということで、個展情報です!!!
近づいてきましたよ。今は、ここだけが、ぼくの希望です。笑顔でお会いしましょう。

パリ、10月13日から26日まで、パリ、ピカソ美術館そば、GALERIE20THORIGNYにて「辻仁成展」2週間、開催します。
今回は、浮世絵にヒントを得た新しいシリーズ、ボタニカルな美しいノルマンディ世界、など、今までにない辻ワールドでおおくりします。全23点の渾身作で行くよ。笑。

辻仁成の美術サイト、昨日、更新されました。

辻仁成 Art Gallery

そして、父ちゃんがみなさんの悩みや質問にこたえるラジオ、毎月3回やっている人生を語り倒すラジオ・ツジビルはこちらから、です。どうぞ。

TSUJI VILLE



posted by 辻 仁成

辻 仁成

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Hitonari Tsuji
作家、画家、旅人。パリ在住。パリで毎年個展開催中。1997年には「海峡の光」で芥川賞を受賞。1999年に「白仏」でフランスの代表的な文学賞「フェミナ賞・外国小説賞」を日本人として唯一受賞。愛犬の名前は、三四郎。